悪戦苦闘

 クルテルとラザリオは警戒しながら互いに出方を伺っていた。


 要と涼香はユリナシアとガディスの元に来ると、クルテルとラザリオの戦況を伺っていた。


「要、涼香、すまない。」


「ガディス。何で謝るんだ?」


「それは、お前達が異世界の者だという事がラザリオに知られてしまった。このままでは……。」


「ねぇ、ガディス。まだ私の能力の事は知られていないし、この状況を何とか出来ないかな?」


「いや、涼香は手を出さない方がいい。バルロス様の存在が知れれば厄介だ。」


「確かにそうですね。今は特に龍の里の龍がいません。私達ドラゴナードの者にとって、バルロス様が唯一の力の源。それさえ失ってしまえば、戦う術をなくし生きていく事が困難になるでしょう。」


 そう言いながらユリナシアはガディスの治療をしていた。


 要はクルテルの戦況を伺いながら、今自分にできる事はないのかと考えていた。


 涼香はバルロスにどうしたら良いのかと聞いてみた。


(バルロス。クルテルはあのラザリオって奴に勝てるのかな?)


 “うむ。今の所クルテルが有利に見えるが、勝つのは難しいだろうな。あのラザリオと言う男、我の知る限り尋常ではない肉体を持ち、尚且つかなりの修羅場を潜り抜けてきている。”


(じゃ、クルテルもやられるかも知れないって事なの?)


 “今のままではな。だが、クルテルが今までにない程の強敵を相手にし、何処まで渡り合えるかにもよる。それでかなり戦況が変わると思うが。”


(そうなると、クルテル次第と言うわけなんだね。)


 “ああ、そうなるだろう。ただ、現状を見る限りだと7、3の割合でラザリオに分がある。クルテルとラザリオとの体格の差、それにクルテルは接近戦に弱く、最も強い魔法を放つ場合は、詠唱しないとならないので時間がかかる。今は力を何とかコントロールしているが、杖が無くなった為、力を維持しコントロール出来るか保証がない……。これ等をクルテルがどう覆すかだがな。”



 一方クルテルはラザリオに対しどう攻撃をするか悩んでいた。


(さて、どう動きましょうか。このままこうして睨み合っていても無駄に時間が過ぎていくだけですし。かといって下手に動けば、ラザリオの斧と炎の魔法の餌食になりかねない。)


(クルテル!今度は何を考えている?そして、どう動くつもりだ。)


(仕方ない、いい加減動きますか。それに私はゲラと違い頭を使うのが苦手ですので、これ以上考えると頭がパンクしかねない。その時の状況に合わせて行くしかありませんね。)


 クルテルは動いた。そして、地面を右足で2回踏み鳴らした。


(【地の源なる聖なるモノよ 石の魔人となりて 襲い喰らえ】《地の召喚魔法 ゴーレム!!》)


 と、心の中で詠唱し更に右足を踏み鳴らすと魔法陣が現れ眩い光を放ち、ゴーレムが浮かび上がってきた。


「フッ、ゴーレムを出してきたか。なるほど、自分の力ではどうにもならないと思った様だな。」


「クククッ、何故その様に思うのですか。まぁそう思いたいのであれば勝手に思っててくださって結構ですがね。」


 そう言うと、クルテルは右手をゴーレムに翳した後、


 《守護!!》


 と、指示すると右手を涼香達の方に向けた。するとゴーレムは涼香達の方に向かい前に立つと守りの体勢に入った。


「なるほど、そういう事か。だが、良いのか?ゴーレムを召喚した事で、お前の魔力の消費が激しくなるのではないのか?」


「さぁどうなのでしょうね。」


 そう言うとクルテルは下を向きニヤリと笑い、ラザリオ目掛け両手を翳した。


(では、覚悟を決めますか。)


 するとクルテルは翳した手で左回りに円を描き呪文を唱えると無数の岩石が現れラザリオ目掛け放った。


(ん?ただの岩石……何のつもりだ?)


 ラザリオは向かってくる無数の岩石を斧で薙ぎ払った。


 すると目の前にいたはずのクルテルの姿はなくラザリオは慌てて探した。


(……?クルテルは何処にいる!……後ろか!)


 ラザリオは後ろからクルテルの気配を感じ、後ろに振り向きながら斧を振り下ろした。


 クルテルは既に詠唱を始めていたが、ラザリオが自分の事に気付き振り向こうとしていたので、詠唱するのをやめ後ろに回り込もうとした。


 だが、ラザリオの動きが速く斧はクルテルの左足のふくらはぎをかすめると、その風圧で岩壁まで飛ばされ激突した。


 クルテルはフラフラになりながらも、何とか立ち上がろうとしていた。


(ハァハァ、流石にこれはキツいですね。)


 ラザリオはそれをみて斧を構え直しクルテル目掛け突進しようと足を一歩前に出した瞬間……クルテルが仕掛けていた魔法陣を踏んでしまった。


 すると、魔法陣がクッキリと浮かび上がり魔法が発動し、ラザリオ目掛け地面から無数の岩の棘が飛び出した。


 だが、ラザリオは岩の棘の攻撃を無数に受けながらも、難なく斧で破壊していった。そして、クルテルの側までくると斧を振り上げようとしていた。


 しかし、既にクルテルは地面に手を翳し詠唱を始めていた。


「地の源 土台となりしモノ ここに集い湧き上がれ 怒濤の如く唸りなり響け 龍が如く渦を巻き舞い踊れ 踊れ」


 《地神 龍嵐の陣!!》


 すると半径約50mの地面が揺れ隆起し崩れ始めた。と同時に、ラザリオの周りを囲むように無数の岩石が嵐の様に渦を巻き龍が如く舞い上がった。


 そして、その無数の岩石は次々と全身に当たっていき、ラザリオはひたすら斧で薙ぎ払っていた。


 クルテルが放った魔法は範囲が広く涼香達の方まで到達していた。だが、クルテルはそうなる事を予想しゴーレムに涼香達を守らせていた。


 そしてクルテルは、更に魔法を放とうと準備をしていた。しかし、ラザリオはそれに気付き無数の岩石を薙ぎ払いながらクルテル目掛けその斧を投げた。


 クルテルはそれに気付き避けようとした。だが、先程ラザリオから受けたダメージが深く素早く動けず、避けるも斧の刃が右肩をかすめた。


 そして斧は後ろの岩壁に食い込む様に刺さった。


 クルテルが放った魔法は徐々に収まってきていた。


 ラザリオは一旦膝を付いたがその魔法が収まると立ち上がり、クルテルを睨み付けながら近付いてきた。


「ハァハァ、やはり相手が悪すぎますね。さて、どうしましょう。このままでは……。」

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