クルテルの力

 ここはエルラスタの鉱山の中。クルテルは杖を地面に突き立てたままその場を離れラザリオとの間合いを取りながら、涼香と要を少しずつユリナシアとガディスのいる方に誘導していた。


「要、私が攻撃を仕掛けたと同時に涼香を連れユリナシア様の所に向かってください。」


「ああ、分かった。だけど大丈夫なのか?」


「さぁ。相手が相手だけに、大丈夫かどうかは分かりません。それに全力で戦わなければ、倒す事は不可能でしょう。いや、それすら危ういかもしれない。」


 クルテルは微かに震えていた。化け物と言われる程の強者のラザリオがクルテルの目の前にいて睨み付け、攻撃を仕掛けようと身構えていたからだ。


 だが、クルテルは震えと同時に強者とやり合えると思うとワクワクしてきていた。


(あらあら、変ですね。怖いはずなのに、何なのでしょう、今までにないこの感情と感覚は?)


 クルテルは今までも強い相手と何度も戦ってきたが、ラザリオ程の強者と戦うのは初めてだった。


 それ故、ラザリオから感じられる威圧感に圧倒されそうになるも、魔力を解放した事により怖いと言う気持ちとは裏腹に、いまだかつて戦った事のないような強者とやり合えると言う思いが強くなり、感情が高ぶってきていた。


 ラザリオはクルテルの動きを警戒していた。


 何故杖を地面に突き立てているのかが分からなかった為と、クルテルがドラゴナードの4強の1人だった事が分かり、下手に動くのは不味いと思った為と、クルテルから感じる魔力量が徐々に上がっているのが感じ取れたからである。


(これは、かなりの魔力量。なるほど、今まで魔力を温存する為、薄目の状態で過ごしていたという事か。そうなると、早めに仕留め無ければ厄介かもしれんな。という事は、試しに斬魔を放ってみるか。)


 ラザリオは斧を構え直し魔力を込めた。そして、燃え盛る業火の炎が刃先を覆うと、斧を振り上げながら跳び上がり、身体を後ろに反り、


 《魔炎斧 炎舞剃撃!!》


 斜めに振り下ろし業火の炎の斬魔を放つと、鋭く重い炎の刃に変化した。その炎の刃は舞うように大円を描き不規則に回転しながらクルテルに向かっていった。


 クルテルはそれを見てすかさずその炎の斬魔目掛け手を翳し、


 《エピヌデテーレ!!》


 呪文を唱えると、地面と天井から鋭く尖った岩が無数に突き出て、その炎の斬魔を打ち消していった。


「ほお。これをいとも簡単に打ち消すとはな。その魔力量、その身体の何処に蓄えていた。だが、いまだに府に落ちない。何度も聞くが、龍は何処に隠れている?」


「さぁ、何処に隠れているんでしょうね。私は何度聞かれても話すつもりはありませんので。」


「まぁいい。それともう一つ聞く。何故杖を突き立てたまま戦っている?」


「……はぁ、質問責めですか。て言うか、その前にその事を私が言うわけがないでしょう。」


「なるほど、言えぬか。という事は、何かしようとしているという事か。」


 そう言いながらラザリオは杖に近付き抜こうとしていた。


 それを見たクルテルはニヤッと笑い、杖の方を向き地面に手を翳した。


(クククッ、こうも簡単に罠に掛かるとは思いませんでした。思っていたより単純だったようですね。ですが、この攻撃で倒れるラザリオではないはず。その後の事を考えておかなければいけませんね。)


 そしてクルテルはすかさず心の中で、


(【母なる大地 流れし水脈 杖伝い集い 龍が如く舞い踊れ】《地神 龍水の陣!!》)


 そう詠唱すると、地下水が杖の真下に徐々に集まってきていた。


 ラザリオはクルテルが攻撃をしようとしているのに気付き、


「ふっ、何をしようとしているかは分からんが。この杖を破壊するまでだ。」


「あらら、それは困りますね。新しい物を買わなければ。これは後でゲラに怒られてしまいますね。ですが、まぁいいでしょう。お好きにどーぞ。」


「ん?何を考えている。」


 ラザリオはクルテルのその発言で杖を破壊する事をためらった。もしかしたら破壊する事で魔法が発動するのではと思ったからだ。


 ラザリオはそう考え杖を破壊せず引き抜く事にした。


 ラザリオは杖を引き抜いた。と同時に魔法が発動し半径約10mの範囲がグラグラと揺れ出し杖が刺さっていた所から、龍が舞い上がるが如く勢い良く大量の水が上昇した。


 ラザリオはそれに気付き慌てて回避しようとした。だが、水圧で地盤が崩れ始め足元を取られ思うように体勢が取れず、腹部に当たってしまった。


 そして、ラザリオは水圧で洞窟の天井まで押し上げられ強打し地面に叩き付けられた。


「グハッ、……よ、よくも騙したな!だ、だが、まぁいい。戦いはこうでなくては面白くない。」


 そう言いながらラザリオは立ち上がろうとしていた。


「……あらら、立っちゃうのですね。やはり、一筋縄では行きませんね。さて、杖はないしどう戦いましょうか?」


 ラザリオは立ち上がると、


「ふっ、今度は何を考えている?まぁいい、この杖を折ってしまえば良いだけの事。そうすれば、お前の力も半減するだろうからな。」


「さぁ、どうでしょうか。まぁ構いませんよ。杖があってもなくても。私にとっては所詮は道具に過ぎませんので。」


「なるほど。なら杖を破壊して良いんだな。」


「ええ、どーぞどーぞ!」


 クルテルは表情を変えずラザリオを見ていた。


 ラザリオは一瞬杖を折ることをためらった。だが、クルテルがまた自分を騙しているのだと思い杖を折った。……その瞬間、杖に蓄積していた魔力が放出し爆発を起こした。


 ラザリオはまともにその爆発に巻き込まれ後ろの岩壁に激突し地面に落下した。


「クッ、またしても……お、俺を馬鹿にしているのか!」


 そう言いながらラザリオはよろけながらも立った。


「……ここまで来ると本当に化け物と言うより、怪物と言った方がいい様に思えますね。流石に私もどう戦っていいか悩んでしまいます。」


「ふぉざけ!この俺を1度ならず2度までもこけにしやがって。ふん、まぁいい。クルテル!お前のその余裕の表情を崩させてもらう。」


「余裕……あらら、困りましたね。これでも私は余裕など全然ないのですが。」


「なるほど。だが、俺から見るとそう見えるんだがな。」


 そう言うと、ラザリオとクルテルは互いに睨み合っていた。


 その頃、要と涼香はラザリオの目を盗み、ユリナシアとガディスの元にきていた。

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