危機一髪

 ガディスはどう動くか考えていた。


 ルナソルはラザリオの援護をする為、ガディスに杖を向けていた。


 ラザリオは右手を上げ指を鳴らしルナソルに合図を送ると、ユリナシアの方に向きを変え駆け出した。


 ガディスはそれを見てラザリオを凍らせようと咄嗟に手を地面に翳した。


 だが、ルナソルはすかさず杖をガディスに向け、


 《光の圧縮魔法 球体!!》


 杖から無数の光の粒子が放たれ、瞬時に球体になりながら覆うと、同時にガディスの全身を圧迫した。


(グァっ〜……クッ、何て事だ!はぁはぁ、ラザリオに気を取られ過ぎた。ラザリオが指を鳴らした時点でルナソルを警戒するべきだった。このままでは、要や涼香の事が知られてしまう。それに、いくら異世界の者で特殊な力があったとしても、この前のネフロス達との戦いを見る限り、今の2人がラザリオと戦うのは無理だ。どうにかこの魔法を跳ね除けなければ!)


 ガディスは全身に魔力を込め光の球体を解除しようとした。だが、解除出来ず、もがけばもがくほど光の球体が縮みガディスを圧迫した。


「ガディス。その球体はそう簡単に解くのは無理よ。それに、魔力が強いほどその球体は効力が増すのよね。」


 そう言われガディスは全身に魔力を込めるのを止め、ルナソルを見ると、


(ん?魔力が強いほどって事は……なら魔力を使わなければ解けるという事なのか?そうなると力技か剣となるが。ここで、考えていても仕方ない。試してみるか……。)


 一方ラザリオはユリナシア達の方に向かっていた。


 クルテルはラザリオを警戒しながら、ガディスを見ていた。


(あらあら、ガディスまた捕まっちゃいましたね。さっきは、難なく光の鎖を退ける事が出来ましたが。今度はどうこの場を切り抜けるつもりでしょう。さて、私はそろそろ攻撃体勢を取った方が良さそうですね。でなければユリナシア様や涼香達がラザリオにやられてしまいますしね。)


 クルテルは杖を握り直しラザリオの方に向け、いつでも攻撃出来るように身構えた。


(あらまぁ。流石のガディスも、その圧縮魔法からは逃れる事が出来ないのかしら?仕方ありませんね。ここはもしもの時を考え、攻撃体勢を整えておいた方が良さそうですね。)


 ユリナシアはクルテルの後ろでラザリオに悟られない程度に右手に魔力を溜めていた。


(ガディス!今度ばかりは無理なのか?やれるか分からないけど。やっぱ、俺が向かって来る男と戦わないとならないよな。)


 要は涼香を庇いながら身構え、向かってくるラザリオの動きを見ながら、いつ攻撃してもいいように頭の中で炎をイメージした。


(ねぇ、バルロス。このままだと不味いんじゃないのかな?)


 “そうだろうな。ガディスがあのような状態では、それに確かあの2人はブレグラン国の四天王のラザリオとルナソルだったはず。我が涼香と入れ替わっても良いが……今はあの2人に涼香と我の事が知られるのは不味い。”


(確かにそうかもしれないけど。)


 “うむ。今の状況をガディスがどう切り抜ける事が出来るか。要、クルテル、ユリナシアがどこまであのラザリオと渡りあえるかにもよるだろう。これは賭けになってしまうが、ここは4人に任せるしかないだろうな。”


 涼香は不安だったがバルロスの言う通り今はそうするしかないと思い心の中で頷いた。


 そして、ラザリオは涼香達の前まで来ると、


「さて、恐らくここで先に始末しておかないとならないのはドラゴナードではないこの2人だろう。」


 そう言うと、要と涼香目掛け斧を振り下ろそうとしていた。


 要は攻撃をしようと手に炎を纏わせようとしていた。


 クルテルは呪文を唱えようとしていた。


 ユリナシアは詠唱を唱え始めた。


 そして、2人目掛け斧を振り下ろしたその瞬間、冷たい冷気とともに一陣の風が吹いたかと思うと、ラザリオの背部を凍てつく鋭い刃が襲い斬りつけた。


 ラザリオは、余りの速さで一瞬何が起きたのか分からず、その攻撃に対処出来ず背中に傷を負い地面に膝をついた。


「クッ……だ、誰だ?まさか……。」


 そう言いラザリオは膝をついたまま後ろを見て驚いた。


 涼香達も一瞬何が起きたのか分からずにいたが、ラザリオの後ろにいる者を見て驚いた。


 そうそこには何故かガディスがいてラザリオに剣を向けていたからだ。


「はぁはぁ。ラザリオ。お前達のお陰で、自分の魔法を使っていたせいか、唇の痛みも引いて来たようだ。礼を言わないとな。」


「ガディス!何故ここにいる?確かお前は……。」


 そう言いラザリオはルナソルの方をみた。


 するとルナソルは腹部を刺され血を流しうつ伏せで倒れていた。


 そして、ガディスは剣先を向けたままラザリオを鋭い眼光で睨み付けていた。


「さて、始めるとしようか……。」

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