第4話 人の夢は人の夢

 暴走したドリーマーを止める方法は一つしか無い。

 「意識」が無くなるまでボコボコにするしか無い。

 山田がゆっくりと立ち上がる。

 

 「吹ぎトべ!!!」


 どおっ、と言う音と共に山田から風が起こってくる。中腰に成らないと倒れそうだ。


 「山田やめろ!」


 三田が掌を山田に向ける。彼の顔が強張っている。出すつもりだ。


 「手から雷!」

 

 もうちょっと技名ひねれよ。

 三田の手のひらから雷の矢が飛び出す。風のせいで狙いが定まらないのか山田には当たらない。


 「手から雷!」

 

もう一発撃つ。外れる。ウツツが小さく吹き出す。ますます風は強くなる。俺は、ちょっとしゃがむ。無理。

 

 「だいじょうぶ?」


 そういってウツツは俺の肩に手を置く。飛んでいくとでも思っているのか押し付けるように力を入れてくる。三田はまだ雷雷叫んでる。


 「平気だから、いちいちカラダ触るな!」


 風のせいで目にゴミが入って痛い。ああもう。


 「みんな!!俺の身体を支えてくれ!!」


 三田が叫ぶ。二人の男子生徒が三田の身体を両側から支える。相変わらず山田は風を吹いている。


 「お前も三田を支えてやれよ」


 俺は目をこすりながらウツツに提案する。


 「え?ヤダよ」


 ウツツの冷え切った返答。


 「早くしないと生徒会が来るぞ!」

 

 誰かが叫んだ。俺としては望むところだが。

 俺の肩を掴むウツツの手に力が入る。


 「でっかい雷!」


 だからネーミングひねれよ。

 今度の雷は山田に命中した。フリー素材みたいな悲鳴を上げて山田は倒れた。

 生徒たちが大の字になった山田に飛びかかる


 「手ェ抑えろ!手ェ!!」


 「なんかで縛れ!」


 あーあ、もうちょっとねばってくれれば副会長に会えたのに。

 山田縛りに加わらないクラスメイト達は自分たちの教室に戻っていく。

 良心的な生徒は壊滅的な2組の教室のお片付けを始めている。

 俺は、

 

 「トイレ行ってくる」


 目をこすりながら立ち上がる。するっと肩からウツツの手が落ちる。


 「わかった」


 当たり前のようについてくるウツツ。もう慣れた。

 3組の教室に戻ろうと黒板に出来た「穴」を潜る。


 「あの風で黒板吹き飛ぶかな?」


 ウツツが呟く。確かに山田程度の風なら黒板は飛びそうにないしましてや「粉々」にはなりそうにもない。


 「瞬間風速すごかったんじゃないの?」


 教室に戻って吹き飛んだ自分の教科書とノートを机に突っ込んでからトイレに向かう。


 「2組は体育だよね?」


 「たしかな」


 トイレに着くなり鏡の前で目を調べる。特に何も無い。鏡の隅に心配そうにこっちを見つめるウツツが映る。うぜえ。とりあえず両手で即席の桶をつくって顔を浸して瞬きを繰り返す。


 「山田は忘れ物でも取りに来たのかな」


 「ジャージでも取りに来たんじゃねえの?制服だったし」


 鏡で目玉を確認する。やはり何も無い。ウツツが距離を縮めている。


 「授業の最中に?ジャージを?」


 ウツツしつこい。

  

 「どうでもいい」


 もう一度桶を作って瞬きする。ウツツは俺の直ぐ側に立っている。


 「俺が気になるってことはサメルも気になってるんでしょ?」


 「その論法むかつくからやめろよ」

 

 レバーを上げて水の勢いを強める。


 「目、大丈夫?」


 ウツツが俺の顔を覗き込みながら言う。


 「まだ違和感あるけど、まあいいや」


 「ちゃんと流したほうが良いよ?」


 「あのさぁ・・・」


 バァンっ!!と叩きつけるように個室のドアが開いた。


 「そうだ、ちゃんド流しタほうが良いいい」


 個室から男子生徒が出てきた。

 彼の名前は知っている。名前どころか誕生日も出身地も好きな料理も叶えた『夢』も知っている。

 彼の名前は堺ジュン。


 「ちゃんと流しダほウが良いいいい」


 堺の後ろから水流が蛇みたいに付いてきた。


 「トイレでは会いたくなかったな」


 水道を止めながらウツツは言った。

 トイレでは堺は水を得た魚だろうが、こっちはまな板の鯉だ。


 彼の名前は堺ジュン。

 別名『運動会の救世主傘要らずのメシア』。


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