第3話 悪夢
ドリーマーである前に俺たちは高校生だ。
一日の半分は勉学に勤しむ。
時刻は10時25分、科目は数学。担当教師は高木おじいちゃん。
教室の机の並びは列の左が男子、右が女子だ。男女で並ぶ。しかし男の俺の隣は男のウツツだった。このせいで最初はウツツ女の子説が出た。担任のキョウコ先生が強引に俺の隣にウツツを置きやがった。絶対にキョウコ先生腐ってると思う。
まだ窓際だから良かった。授業中にウツツの方を見ることなど全く無いし。あんなイケメンの顔を見るぐらいなら黒板でも見ていたほうがマシだ。
いや、でもほんと顔だけはキレイなんだよなぁ。睫毛なんか姉貴より長いし。人の目には睫毛が有る、という事実に気づいたのはウツツと出会ってからだ。消しカスどれだけ乗るか挑戦したい。動画上げたい。そしたら俺のゲーム実況チャンネルも少しは登録者が
「ん?」
イケメンがこっちを見ている。
「!?」
俺は思わず顔を背ける。ほ、微笑んでいらっしゃった。きめえ。
「どしたの?」
ウツツが小声で聞いてくる。
「別になんでも…」
俺の言葉は轟音でかき消された。眼の前の黒板が粉々に砕けていく。女子の髪が逆立つ。殴るような風圧を顔に感じる。ノートや教科書が飛んでくる。
「サメル!!」
ウツツはいきなり俺に飛びかかる。血迷ったか?
俺の後頭部に腕を回して力強く自身の胸に押し付ける。硬い胸とかうれしくない。胸板越しに彼の背中に何かがぶつかるのを感じる。ウツツが呻くと胸が小さく震える。くすぐってえ。風は未だ止まない。女生徒の悲鳴が聞こえる。
「はなせ!!」
くぐもった声で俺は叫ぶ。
「だめ!」
ウツツは腕に力を込める。これ絶対に下心入ってるだろ。フリーに成ってる俺の左手に何かが当たった。
「
「えーやだー」
「山田?山田の夢??」
生徒たちが騒ぎ出す。俺にはウツツの制服しか見えない。誰かの『夢』が暴走したらしい。胡蝶学園では稀によくある。風が弱まってきた気がする。
ドタドタと人が駆けていく。ガツガツとモノがぶつかる音が聞こえる。ウツツの呼吸が小さく聞こえる。なんだこの状況。
風が収まる。
「は な せ 」
「ああ、ごめん」
やっとウツツのクリンチが解かれる。あれ?2組の教室が見える。黒板の左半分が無い。高木おじいちゃんは教室の右の隅で腰を抜かしている。あちこちに教科書やノートが散らばっている。俺は恐る恐る黒板の方に進む。
2組の教室はもっとひどかった。机や椅子が廊下の壁際に吹っ飛んでいる。画鋲を失った掲示物がぴらぴらと虚しく揺れている。スッキリした教室の真ん中で体育座りしている生徒がいる。こいつはたしか
「どした山田?」
いつの間にか隣に来ていた三田が声をかける。
山田は答えない。どう見ても原因は彼だろう。次第に俺の周りに生徒が集まってきた。どいつこいつも実戦的な『夢』を持つドリーマー達だ。
「ちょっとごめん通して」
当たり前のようにウツツが俺の隣に来た。
「山田くんの『夢』っぽいね」
山田から俺を隠すようにウツツが俺の前に立つ。
暴走したドリーマーを止める方法は一つしか無い。
「山田」
三田が2組の教室に入っていく。体育座りのままの山田の髪が微かに揺れる。
山田が顔を上げた。目に力が無い。ただ、悪意だけは感じる。
ぜんぶ、ふっとべばいい
そういう悪意を感じる。
高校生である前に俺たちはドリーマーだ。
一日の半分は
暴走したドリーマーを止める方法は一つしか無い。
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