第31話マリーの養女話とドレーブ家の子供達

 模擬戦も終わり、マリーは王太子から逃げ回っていると報告を受けているレティシア。

王太子のマリー大好き以外は、あの映像とは全然違う状況だ。これも必死で頑張ってきた成果だと、自分を褒め称えている。

 あのマリー嬢も映像とは違って、優秀な令嬢じゃないの。今は、あんなのに追いかけ回されてお気の毒にと思っているレティシア。


 これで、私の婚約者辞退が実現すれば、あの映像通りにはもうならないわ。だって、婚約者じゃなければ人質なんかに送られないもの。

 カトリーナ様とミーナ様は分からないけれど。2人とは仲良くなったし、出来るなら2人も人質にならない様にしてあげたい。自分の辞退がすんだら次は彼女達の為に動こうと決意したレティシア。気合を入れて叫ぶ。

「あんな映像、踏み潰して消し去ってやるわ。どんどん変えて行くわよ。」

 一緒に部屋にいたシーナ。よく分からないが、大切な主人と一緒に気合を入れて叫んでおいた。シーナは誘拐事件の後、レティシアに恩義を返す為に必死に努力をして実力を高め、有能で信頼されるな部下として仕えている。


 そんな中、カトリーナから薬草園に招待される。レティシアが行くとカトリーナの兄達も一緒にいた。

「初めまして、レティシア様。私が長男のアレクでこちらが次男アークです。いつもカトリーナがお世話になり、ありがとうございます。」

「初めまして、アレク様、アーク様。お世話になっているのは私の方ですわ。カトリーナ様には仲良くして頂いてとてもうれしく思っているんです。」

 にっこりと可憐に微笑むレティシアに、少し赤くなったドレーブ家子息達。


「まあ、お兄様達が照れていらっしゃるわ。レティシア様だもの当然だけれどね。」

 なぜか、自慢そうに言うカトリーナに微妙な顔の兄達。

「まあ、カトリーナ様ったら。ご冗談を。」

 フフフと笑う2人とからかわれて苦笑いをしている兄達。

「カトリーナは、本当に明るくなったね。冗談を俺達に言うようになるなんて。」

「ええ、でも今日皆様に来て頂いたのは冗談では済まない話なのです。」

 そういうと、薬草園の奥の東屋に案内する。

「実は、父であるドレーブ公爵が、マリー・モコノ男爵令嬢を養女に迎えて婚約者候補にすると言ったんです。在学中に養女にするとマリー嬢に危険が及ぶ可能性があるので卒業後に迎えて、その時に私は婚約者候補辞退をするようにというお話でした。

 私はどちらにしても、辞退したほうが良いと考えているんです。ですから彼女を養女にして婚約者として推すとなると、当家が王太子を支持する立場になります。

 王太子を支持するのは当家としては不利益にしかならず望ましくありません。」

 カトリーナの言葉に難しい顔をする3人。


「ドレーブ家の内情に私は口出しできません。ですが、1つ気になる事があります。

 マリー嬢は、王太子に追いかけ回されて逃げ回っていると聞きます。モコノ男爵家が立場的に公爵家から養女の話を受けないわけにはいかないでしょう。

 本当にマリー嬢を養女に差し出すような家族ならば、王太子から逃げる事を許すとは思えません。彼らがもし逃げだしたらどうなるのかしら。

 養女にするといった話はすぐに広まります。知られずに済むわけがないのに卒業まで期限を延ばすという事はそれまでに何らかの行動を起こすつもりがあると考えておいた方が良いかもしれません。」

「そうですね、貴重な意見ありがとうございました。」

「いえ、皆様ならお考えになる事でしょうし。たいしたお役に立てそうもなくて申し訳ありません。カトリーナ様、お話を聞かせて頂いてありがとうございました。」

「いえ、レティシア様ご意見参考にさせて頂きます。こちらこそありがとうございました。」

 皆に挨拶をすると、レティシアは帰っていった。


 レティシアが帰ると早速長男アレクが話し出す。

「レティシア嬢の意見は鋭くて参考になるな。男爵家が逃げるつもりか探ってみよう。

 男爵家が逃げなかった場合は、王太子の行動や周囲の評価を纏めて王太子が王になれそうにないのに、公爵が王太子を支持している。このことが当家の不利益になっている等の理由で責任を取らせて隠居してもらう。

 公爵の隠居によって第1王女の支持に回れる、状況を十分に理解してもらって穏便に隠居してもらいたいな、無理な場合は強硬手段だ。

 隠居にちょうどいい、気候も穏やかな田舎の領がある。遠い領だからこちらに帰ろうとしたらすぐにわかる。

 その後はカトリーナの婚約者候補辞退申し込みとアークの領主就任だな。

カトリーナを王弟か第一王女の部下に推薦したいと思っているんだが、カトリーナはどうだ。面接があるだろうが挑戦してみるか。」

「ええ、是非やりたいですわ。私頑張ります。」

「多分チャンスがあるのは王弟の方かもね。第1王女の側近達には優秀な女性が全体の半分位いるから。王弟はまだそこまでいなかった。」

「ああ、頑張れよ。そうだ、レティシア嬢に話してみたらどうかな。バレット公爵と王弟は親友だから。

 よし、じゃ公爵家代変わりに向けて進んでいくぞ。まずマリー嬢たちが逃げるかどうか確認する、どちらにしても1年以内にすべて決まる。」

「はい、頑張りましょう。お兄様達。」

「うん、僕たちの未来がかかってるからね。絶対に上手くいかせるよ。」

 ドレーブ家兄妹は固く結束した。


 家に戻ってきたレティシアは、両親にカトリーナ嬢達との話を伝えていた。

「そうか、やはりあの兄弟が戻ってきたとなるとカトリーナ様は婚約者候補辞退の方向で動くよな。」

「それはそうですわよ。だってあの王太子よ。誰だって危ないと思うでしょう。」

「分かった。男爵家の事は王弟に丸投げしたから、事情を話して相談してみるよ。」

「はい、よろしくお願いします。お父様。」

「ドレーブ家交代劇は、いつ頃開催されるのかしら。」

「マリー嬢の動向を見極めてからだろうな。彼女が逃げたらその事の責任を取らせて引退させるのが一番穏便に早く片がつく。」

「じゃあそろそろレティシアの辞退確定に向けて動かないとね。」


 ハワードが急にそわそわしながらレティシアを見て話を切り出した。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ。レティシアはルーサー様の事をどう思う。」

 真剣に見つめる両親を見て考えるレティシア。

「好ましく思っています。」

 ハワードは泣き崩れ、メリーナは飛び上がって喜んだ。


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