第30話婚約者候補の模擬戦
レティシア達婚約者候補は、中等部に来ていた。
今日は、中等部の3年生への飛び級が決まるかどうかという模擬戦が行われる日だ。
飛び級の試験は次の学年が始まる前に、行われる事になっている。
学業の試験はミーナはギリギリだったが、3人とも試験に合格していた。
後は戦闘クラスで合格すれば3年生への飛び級と戦闘クラス卒業が確定になる。模擬戦で合格できない場合は、今後の戦闘クラスは、通常訓練のみ参加となる。
なんとしても、圧倒的な力で勝ちたい3人。その為に、騎士団の厳しい訓練を行ってきたのだから。
中等部側は成績上位3名の3年生の生徒を対戦相手として用意した。
騎士団と訓練しているのは知っていたが、婚約者候補の教育内容は秘密にされていたので、公爵家令嬢が騎士団の新米に8割がた勝っていたなんて情報まで伝わっていなかったのだ。
組み合わせは、成績1位の生徒パズ様とカトリーナ様、2位のカンナ様とミーナ様、3位ハンナ様とレティシア様に決定した。
婚約候補者達の模擬戦と知って、派閥の生徒達はもちろん関係のない生徒や王太子達とマリーまで観戦に来ていた。
「レティシア様、頑張って下さい。ここからレティシア様の試合を楽しませて頂きますわ。」
楽しそうに余裕の表情で笑い合う令嬢3人に、ムッとする教師と生徒達。
「ええ、軽く遊んできますわ。フフフ。」
「では、両者壇上に上がって下さい。ハンナ様とレティシア様の試合を開始します。」
開始の合図の鐘が鳴るのと同時に、レティシアの目つきが変わった。
本気で相手を殺すつもりで殺気をハンナに送る。そして演出として自分の周りにうっすらと色を付けた炎を纏うレティシア。殺気とレティシアの迫力に一瞬固まったハンナの隙を逃さず、レティシアは少量の魔力で、見た目が派手だがダメージが少ない大きな炎を、ハンナに向かって放つ。そして殺気を消すとハンナに向かって素早く走り出した。
すぐにハンナは魔法の壁を出すが、そのせいで、レティシアの姿を見失った。レティシアはハンナの斜め後ろに立っている。ハンナの足に向かって小さな炎を当てハンナの体勢が崩れた時にはもうハンナの首に剣を当てていた。
「そこまで、勝者レティシア様。」
驚き騒めく生徒達。2人は礼をして壇上から降りた。レティシアの思った以上の強さに、パズとカンナは気を引き締める。レティシアは、ハンナにまず殺気に慣れないと試合も出来ずに終わってしまいますよ。とアドバイスをしてあげた。
「次は、カンナ様とミーナ様壇上に上がって下さい。試合を開始します。」
合図の鐘が鳴る。カンナもやはり殺気に一瞬固まるが、ミーナの一撃目を落ち着いて受け流す。5回6回と剣で打ち合いをしながら魔法でミーナを牽制しようとするが、魔法を出されたくないミーナに素早く剣で攻撃をされて魔法が放てない。
ミーナの剣を受け続けて10回目、ついにカンナの手がしびれ剣を落としてしまう。その瞬間カンナの首筋に剣が当てられ試合は終了した。
「勝者ミーナ様。」
礼をして壇上を降りた2人。ミーナはやはり魔法による対策が必要だと感じた。
今回は相手が弱くて勝てたけど、もし騎士団のような強さの相手だったら負けていただろう。自分の下手なプライドなど捨てて、次の訓練からは魔法も牽制に取り入れて練習して行く事を決めた。
カトリーナの試合が始まる前に、レティシアが微笑みながら話し出す。
「思ったよりもあっさりと終わってしまってますわ。皆様つまらないのではないかしら。
次は1位の方ですし、少し楽しい演出をなさったらいかがかしら。」
「そうですわね、レティシア様も炎を纏う演出をなさってましたし、私も少し遊んできますわ。彼には1人でダンスをして頂きましょう。」
「最後は、パズ様とカトリーナ様試合を開始します。」
合図の鐘が鳴る。パズの周りにとげの土が飛び出した。次々に飛び出すとげをよけて踊りだしたパズ。カトリーナへ魔法を放つもすべて届く前に土魔法で防がれる。とげと防御の魔法を同時に繰り出すカトリーナ。段々とパズの動きに切れがなくなってくる。
ワザとらしくため息をつくカトリーナに、苛立ったパズが出てくるとげを、剣で叩き壊しながら突っ込んでくる。カトリーナに斬りかかったと思った瞬間、自分の首に冷たい剣の感触がした。前にいたはずのカトリーナが一瞬でパズの背後に回り、剣をパズの首に当てていたのだ。
「勝者、カトリーナ様。」
礼をして壇上から降りるカトリーナと呆然としているパズ。
レティシアがカトリーナのとげの出し方について褒めている。
とげを出すタイミングと場所が素晴らしく楽しいダンスになっていたと。カトリーナはお礼を言いつつ、もっと細かく魔力をコントロールして繊細な動きをさせたかったと話していた。
模擬戦は婚約者候補達の圧勝で終わり、3人の戦闘授業の卒業が認定した。
それを見ていた生徒達は騒めいていた。その時、騎士団に訓練してもらったならあれくらい当然じゃないかという意見を言う生徒がいた。それを聞いたダニエル・トーン伯爵子息、発言した生徒に向かって歩いて行く。
「それは正確な言葉じゃないな。騎士団の訓練が継続される実力の持ち主だから、あの結果が当然だというなら正確な発言だが。
王族からの命による訓練であっても、騎士団は暇団じゃない。最初は騎士団が訓練をしても、彼らの出す訓練についてこれない実力なら、別の教官達に交代する。
彼女達は、外交歴史マナー学力芸術交流会の実績等、沢山の素晴らしい成果も出したうえでのあの模擬戦の結果だ。
想像も及ばない程の努力をしたこと位、普通は感じ取るものだよな。騎士団の訓練なら当然だなんて言うのなら、騎士団で訓練して来たらどうかな。自力で騎士団に入れるだけの訓練もこなせない人間には入団すらできないだろし、入った所でついて行けずに潰されて終わるだろうけれど。
人の努力を気付く事も称える事も出来ない人間と友人じゃなくて良かったよ。まだ言い足りないけれど、僕は優しいからね。ここで止めてあげるよ。」
その生徒を冷たく見つめてそういうと、ダニエルは寮に帰っていった。
そんな雰囲気の中でも王太子は変わらない。マリーを見つけた王太子、ジャンと一緒にマリーの方に向かって走っていった。周囲の生徒達は同じ高位な身分でも随分と違うんだなと思う。
マリーは3人に圧倒されていた。素直に凄いと思って感動していると、後ろから声をかけられる。
「マリー嬢もいらしてたんですね。いつもお忙しそうでなかなかお話ができなくて、残念に思っているんです。」
振り返ると奴がいた。王太子とジャンだ。思わず顔をしかめると、ため息をつく。
「王太子様の婚約者候補の令嬢たちは素晴らしいですね。あのような女性達が婚約者候補であられるなんて、王太子様は本当にお幸せですわ。」
「そんな事ありません。彼女達と婚約するつもりなんてないんです。今度父に婚約の事は相談するつもりなんです。」
「そうなんですか、確かバレット公爵は辞退をずっと申し入れてると伺いました。あんなに素晴らしい御令嬢達と婚約できないのは残念ですわね。
でも御令嬢達も大変ですわ。高位貴族の生まれというだけで、模擬戦であれほどの実力をつけるまで努力せねばならないのですから。ジャン様も騎士団で訓練なさっているのですか、妹のミーナ様はとても厳しい訓練を乗り越えておられるように拝見しましたが。」
マリーは王太子を無視してジャンに質問する。マリーの自分を見る目に、自分に対する嫌悪と嘲笑を感じ取ったジャン。
「いえ、私は学校に通っているので騎士団の訓練には参加していません。」
自分で聞きながらどうでも良さそうに返事を聞くマリー。
「そうでしたか、申し訳ないのですが。私予定がありますので、ここで失礼します。」
必死でマリーを引き留めようとする王太子。
「予定とは外出されるのでしょうか。王太子の私も是非ご一緒したいです。」
「申し訳ございませんが、個人的な予定です。王太子殿下が私の個人的な予定に同行される事はございません。気分が悪くなりました。失礼します。」
「気分が悪いなんて大変だ。送りますよ。」
そう言って手を差し伸べようとするが、マリーがため息をついて避ける。
「失礼します。」
礼をした時に小声でウンザリだわ。とつぶやいて去っていった。
王太子達にも声は聞こえ、ジャンはやっと自分達が嫌われて迷惑に思われている事に気がついた。だが、王太子は自分の聞き間違いだったと考えた。
王太子が、自分の取り巻く状況に気がつくのはいつだろう。
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