第29話ドレーブ公爵からの養女話とモコノ男爵家決意

 王太子の学校での行動を聞いたドレーブ公爵。マリーという少女は自分の派閥の男爵家の令嬢だし、当家で養女にしてしまえば婚約者候補に推薦できる。

 カトリーナを、何か適当な理由で辞退することにして、代わりにマリーを婚約者候補にあげたら、熱を上げている王太子は当家の娘を婚約者に選ぶだろうと考えた。

 早速男爵家に使いを出して、公爵家に呼び出した。


モコノ男爵が来ると、マリーを養女にするからその準備をするように命じる。

「公爵、いきなり男爵家の娘を養女にするとはどういう事でしょうか。」

「男爵家の娘場公爵家の娘になれるのだから、理由などいいじゃないか。君が知る必要などないんだよ。」

「申し訳ございませんが、理由も知らされずに娘を差し出す事は致しません。当家はただの男爵家です。爵位にしがみつく必要もなければ、爵位が無いと困るわけでもないので。」

 断りそうな雰囲気の男爵に、驚いた公爵。


「なるほど、では、子爵にあげるというのはどうだ。」

「先程申し上げた通り、当家の者達は爵位が無くても困りませんので、お断りします。」

「実はな、王太子殿下が男爵家の娘に好意を抱いているんだ。国を導く王族の方の思い人が男爵家では、恋人と別れる事になる。だが当家の娘になれば2人は幸せに結ばれることが可能になるんだ。王太子の為なのだから勿論断らないよな。」

「そういう事でしたら、娘を養女にするお話は了承します。但し、在学中に男爵家から公爵家に入ると、娘が危険になる確率が上がります。卒業後という事なら安全でしょうが。」

「それもそうだな。余計な心配事は避けた方が良い。では卒業後にマリーを養女にする手続きを始めよう。申請はこちらで出すから、時期が来たら承諾するように。」

「かしこまりました。では、失礼いたします。」


 公爵家を辞去したモレノ男爵、すぐ家に帰り家族に伝える。

「ドレーブ公爵が乗り出してくるとは、このままだとマリーは婚約者候補になるでしょうね。

レティシア様は婚約辞退なさりそうですし、ミーナ様も王族から言われたら辞退するでしょう。マリーは婚約してしまうかもしれませんね。」

「ダンはどう思う。男爵家としてマリーの意思を尊重するかしないか。」

「個人的にはどちらでも楽しんで対応できますね。

 男爵家としては、マリーが婚約者になると周囲の注目と嫉妬の嫌がらせ等、警戒する事が増えるでしょうね。旨味もないですし、マリーを逃がして我々も逃げるのが一番いいと思います。」


「そうだな。マリーの祖父母が他国に商会を出店していたよな。マリーは卒業前に、祖父母と一緒に他国に逃がしてしまえばいい。2人も協力するだろう。

 後は、我々自身の事と逃げる経路をどうするかだな。」

「そうね、私達も国外に出た方が良いでしょうね。マリー達とは別の国が良いと思うわ。」

「大人数で同じ国に行くのは目立ちますからね。当家と取引をしている商会の1つが海の近くのあの国にありますよね。あそこはどうでしょうか。」

「良いわね、漁師の国で少し荒い人も多いけど楽しそうよ。結構サッパリとしている人達だし。他人の事情に口は挟まないしね。じゃ早速、資金を向こうに移しましょう。

 資金を作るカモフラージュにマリーの洋服の注文をするわ。前払いにして3着で良いかしら。パーティー用としてね。今までドレスを作ってなかったのが逆に良かったわね。」

「そうですね、誤魔化せますし。家具と屋敷は我々が出た後は国に没収でしょうね。お気に入りで持っていけそうなものは、先に転移で送ってしまいましょう。」

「そうだな。では、マリーの祖父母殿に連絡してくるよ。」


 そう言うと部屋を出て行った男爵。連絡すると、2人ともすぐに相談したいという事で男爵家に転移してきた。

「お久しぶりです。お会いしたのはマリーの両親の結婚式依頼ですね。お元気そうで何よりです。」

「すっかりご無沙汰してしまい申し訳ありません。マリーの養子の件ではありがとうございました。きちんと教育までして頂いたのに、このような事になり申し訳ありません。」

「いえ、今回の事はマリーにはどうしようもない事ですので、お気になさらすに。」

「そうですわ。お2人もマリーもこの件では何の落ち度もないのですから。」

 そういうと、男爵が現在の状況を詳しく説明する。


「というわけで、マリー自身は王太子との関係を望んでいないそうです。公爵家の養女となるまでの猶予は卒業までとなりましたが、すぐにでも逃げられる場所を作ります。

 お2人は、こんな時の為なのか近隣国に商会を作られましたよね。マリーが当家にいた数年で調度良い規模の商会になったと聞いています。

 マリーと一緒に逃げる気持ちがおありなら、お任せしますし。無理なら私達と一緒にマリーは逃げる事になります。」

「私達はマリーを連れて一緒に逃げます。ですが、男爵御一家まで逃げることは無いと思います。」


 呆れた様な顔をしたダン。マリーの事が原因で家を捨てる事になった自分に対して失礼だなと思う。街の犯罪組織は潰れているが、他の街で犯罪組織乗っ取り作戦中なのに計画を変更しないといけないじゃないかと苛立っていたのだ。


 口出しさせないように両親を見た後、マリーの祖父母に向かって話し出す。


「マリーが逃げれば、公爵家の怒りは男爵家のみに向くのは当たり前の事です。我々がそんな事も分からずに逃げないで屋敷に残る程の馬鹿だとでも思っているのですか。


 残っていたら、表向き男爵家は存続するでしょう。その後私の父親や俺が生き残れるかもわからないような、犯罪者が活躍している領に送られ弄り殺されるか奴隷のように使われるのはいつ頃でしょうか。公爵家が裏から借金を背負わして、母が身を売るか腐った貴族に引き取られるのは、いつでしょうね。

 公爵家を敵に回すようなことをして無事でいられるなんてことはあり得ないんですよ。貴族と取引をしているのにお分かりになっていらっしゃらないのには驚きました。


 マリーの意思を尊重すると決めた時点で男爵家は終わったんですよ。我々の決断ですが、その原因となっている者や関係者にそのような事を言われるのは腹が立ちますね。


 マリーの身内が我々の思いを踏みにじるような態度を取るのなら、私からの協力は無くなると考えてください。両親がどうしようとも、私にはマリーを公爵家に差し出すくらい訳もないですし、あなた達や両親に私のやる事を防ぐ力はありませんよ。」

 冷たくマリーの祖父母を見つめるダン。


「あら、あなたの邪魔なんか私達はしないわ。私達にとってマリーよりダンの方が大切なのは当たり前の事なんだもの。」

「そうだな、実質男爵家の事はダンに任せてあるし。私達はもう引退するだけだから、マリナと一緒に幸せに暮らせたら男爵であろうとなかろうと、どちらでも良いんです。

 それに我々の場合、男爵家でなくなっても場所と身分は変わるが、今までと大して変わらす幸せな生活をおくれますし。」


 幸せそうに見つめ合う両親は放っておいて、ダンは考える。今進めている乗っ取り作戦が成功したら、あいつらを更正させて商会にしてしまうのもありだな。そこの会長になるか。

 男爵という貴族に縛られるより好きにやれる。

 両親は、好きな所に住んでもらおう。苛々してああ言ったけど、マリーの事を理由に逃げだすのは結構良い案だな。


 必死に謝罪する2人を見ながら、ダンは、マリー逃亡は2人に任せる事にする。

「あなた方の為ではなく、マリーの意思を尊重するだけなので謝罪は結構ですよ。

 マリーの逃亡に関しては、日時以外はこちらは知らない方が良いでしょう。逆に我々の事もお知らせしません。

 マリーには、学校から直接逃げてもらいます。今後当家とあなた達に監視がつくことを考えるとその方が良いでしょう。

 護衛はいりませんよ。マリーが倒される相手なら、その前にあなた方の雇える護衛なんか死んでます。中等部の模擬戦で上の順位を叩き出しているんですから、騎士団でもない限り負けません。魔力量も多いですしね。


 マリーが隣国に脱出して、あなた達の商会か隠れ家に到着する為の地図が必要です。それは、私からマリーに渡しましょう。あなた方は防御のネックレスと金貨を、マリーに渡しましたよね、旅にはそれだけあれば十分でしょう。

 では、地図を渡した日から中等部卒業まで、いつマリーが逃げ込んでも良いように準備を。」

 話が終わると、こちらも準備があるからと2人には帰ってもらう。


「やはり、大きな商会であっても貴族の事に関しては少し疎いですね。私は最初に話した場所に行くつもりです。部下が情報収集の為に作った商会があるので、そこで商会の会長をやっていくことにします。お2人も近くで暮らしますか。最初はやはり近くが良いですよね。」

「そうね、ダンももうすぐ結婚しちゃう年になってきたし、それまでは一緒に暮らしたいわ。」

「そうだな、私は釣りが出来そうな領だから楽しみだな。連れて行く使用人の厳選をせねばな。連れて行けない者達の就職先も考えないと。」

「そうですね、我々だけなら今すぐにでも移動出来てしまいますが。

 念の為、転移陣を渡しておきます。防御系の魔道具と武器はいつも持ってらっしゃいましたよね。」

 頷く二人を見て、微笑むダン。家族3人で今後の生活について話しているとマリーの祖父母からの地図が届いた。


「早いですね。では早速マリーに会いに行ってきます。今回の事を説明して地図を渡さないと。

 逃げ回っていたマリーに辛い結果を伝えるように演技をしないと。マリーの悲しむ演技は大丈夫かな。」

 苦笑いしている両親に挨拶をして、ダンは学校へ向かっていった。

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