第32話レティシアの気持ち

 両親に自分の気持ちを話していくレティシア。ハワードはうつむいて泣いているようだが、メリーナは嬉しそうに聞いている。


「初めてお会いした時は私の誕生日パーティでした。私を見つめる熱い眼差しとルーサー様の真剣な顔を見て、この時は私を睨んでいるのかと思い、この方どうしてくれようかとしか思いませんでした。」

 メリーナは微妙な顔になる。そうね、レティシア気が強いものねと心の中で思った。


「次にお会いした時は、シーナの家族を助けるために協力して頂いていた時でした。

 怪しい人間を見つけたけれどお父様達がいらっしゃらなくて、どうしようかと思っていた私達の所に、ルーサー様はすぐ駆けつけて下さり、当家の護衛達と一緒に捕縛に向かっていかれました。物事に迅速に動く事の出来る行動力の高さと、自ら現場に乗り込んでいく勇気に、有能で頼もしい方だと思ったのを覚えております。」

 ハワードは落ち込み、メリーナは嬉しそうに聞いている。なる程、ここでレティシアがルーサーに興味を持ったのか。2人揃って思った。


「3回目にお会いした時は、魔法研究所を案内して下さった時でした。

初めてゆっくりとお話して、とても才能が豊かで素晴らしい発想力のある方だと思いました。

 私は魔道具の難しい話は良く分かっていなかったのですが、丁寧に分かりやすく、時に面白い話も混ぜて説明してくださったのでとても楽しい時間を過ごせました。色々と気遣って下さり、優しい方だなと思ったものです。

 そして、研究所の方々と身分関係なく楽しそうに話しているのを拝見していて好ましく感じたのです。」

 ここで嬉しそうに微笑むレティシア。がっかりした顔のハワードとなぜかガッツポーズのメリーナ。


「私の魔法に関する考え方を話した時、研究としてやるべきだと進めてくださったのはルーサー様でした。分からない時や悩んでいる時に、相談に乗って頂いたり励ましてくださるのもルーサー様です。

 2人で一緒に研究の事を話しているうちに、互いの趣味や興味のある事を話すようになりました。好きな音楽も似ていたり、2人でいると話が尽きないんです。

 2人で過ごしているととても楽しいですし、穏やかな温かい気持ちになるのです。ルーサー様も、一緒にいる時には楽しそうに話してくださっています。

 メイド達は一緒ですが、街でも人気のカフェや食堂に連れていって下さる事もありました。メイドもいますが、2人でいると時間がたつのがあっという間で、次にお会いできるのが楽しみで仕方がない気持ちになります。


 私は早く、婚約候補者を辞退したいですわ。

ルーサー様とは年齢の差があるので、私では至らない点もあるかとは思いますが、婚約候補者教育のお陰で、少なくともルーサー様の隣に立てるだけの実力はつけました。

 後は、辞退出来次第ルーサー様にアプローチをしていくのみです。」


 レティシアの演説が終わると、メリーナは立ち上がってレティシアを抱きしめた。ハワードは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちで2人を見つめている。


 メリーナはレティシアの恋の相手がルーサーで大喜びだった。

 ルーサーがレティシアに好意を持っているのは誰が見ても分かる。

ルーサーは、王妃の弟だけど権力争いとか面倒なのはないし、なかなか良い領も持ってる。今迄も女性に人気があったが、魔法研究にしか興味がなかった為、女性達の事を相手にしていなかったのだ。

 公爵家のレティシアが嫁いでも問題のない相手。良い人を好きになってくれてよかった。

 レティシアなら両想いになった相手が、身分などの原因で結婚できないなどなったら、あっさりと公爵家から出て行きかねないわ。自分の娘と仲たがいなんて嫌よ。


 ハワードは、ルーサーの横に立つために婚約候補者教育がある訳じゃないのにとか私の天使が恋をするなんて早すぎるとか呟いている。


 ハワードの事は気にせず、メリーナはレティシアに伝える。

「レティシアに恋する人が見つかるなんて、本当に嬉しいわ。良かったわね、レティシア。

焦ったらだめよ。恋に夢中になりすぎて、酷すぎる結果に向かって一直線に進んでいる例が身近にあるでしょう。

 まだ婚約者候補なのだから、身辺には十分に気を付けてね。

 ハワードは、さっさと辞退の許可を頂かないといけないわよ。あの王太子殿下の素晴らしい行動を映像に沢山貯めて、一緒に持っていかないとね。」


「そうだな、ルーサー様の事はともかく、まずはあれとの婚約者候補辞退をしないと。

万が一を考えて、他国に脱出できる準備は整えてあるが、そうならない事にこした事は無い。

 レティシアの気持ちはよく分かったよ。大切なレティシアの為だ。できる限り早く辞退になるように頑張るよ。


 王弟に頼んで今は男爵家の事を調べて貰っているから、彼らが逃げるつもりなら何が何でも先に辞退しないとな。最後まで残っていたら他国へ逃げるしかなくなるから。」


 メリーナは少し考えた後話し出す。

「私は男爵家逃げると思うわ。男爵家が逃げたら、王太子からの恨みはドレーブ家に向く。

 ドレーブ家の次期党首の実力を見せる、絶好の舞台になるわね。第1王女の部下だったのだから、この位は難なく収めて逆に自分の力を周囲に見せつけるような結果になるでしょうね。

 だからバレット家が、巻き込まれたり利用されない為にも、早く辞退してルーサー様との事を進める必要があるわよ。」

「そうだな、さすがにそろそろ国王夫妻も認めざるを得なくなるだろう。中等部での行動を纏めて映像で送っているからな。次回でそろそろ認めると思うんだが、しぶといな。」


 その時執事が王弟の訪問を告げに来た。

「何かわかったらしいな。ちょっと行ってくるよ。メリーナ、レティシア。」

「ええ、王弟殿下によろしくね。あなた。」

「よろしくお伝え下さい。お父様。」


 ハワードを見送った後、メリーナとレティシアは楽しそうに恋の話で盛り上がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る