第12話男爵家令嬢マリー・モコノ

 マリーは、男爵家からもらった服を着て家の間で祖父母とお別れをしている。

「おじいちゃんおばあちゃん、今まで育ててくれてありがとうございました。

一緒に過ごせて本当に幸せだった。

 男爵家に行ったら、ほとんど会えないと思うから、お手紙を書くね。

おじいちゃんおばあちゃんの事、色々知らせてね。体に気を付けて元気でいてね。」

寂しいけれど、いつもと同じ元気な笑顔で笑うマリー。


「マリーはいつまでも私達の大切な孫だからね。

貴族の生活は大変だろうけれど、マリーならきっと上手くやっていける。

 離れていても、いつも思っているからね。耐え切れなくなったらいつでも来なさい。

いざとなったら違う国にでも行けばいい。」

「そうよ、私達の可愛いマリー。何があっても、あなたを大切に思っているわ。」


そういって、2人は綺麗な小箱を渡してくれた。

「これは魔道具なんだけど、中にネックレスが入っているの。

 あなたのお母さんがお父さんから貰った物なのよ。対象者をマリーに変更したの。

防御の魔道具だから、出来る限り付けておいてね。箱の下に金貨があるわ。

何かの時役に立つから持っていて頂戴。」

 マリーにこっそりと渡すと、2人はマリーを抱きしめた。


 男爵家へ向かうマリーを乗せた馬車を見えなくなるまで見送っていた。


 男爵家につくと、ダニー・モコノ男爵、マリナ・モコノ男爵夫人、男爵子息のダン・モコノが出迎えてくれた。

「男爵家にようこそ、マリー。これから君の父になるダニーだ。

こちらは妻のマリナと、息子のダンだ。これからよろしくな。」

「初めましてマリー。マリナよ。慣れるまでは大変だと思うけれど、私もできる限り付き添うし、不安な事や困ったことがあったら、遠慮なく相談してね。」

「ダンです。マリーちゃんよろしくね。」

「初めまして、マリーです。お気遣いありがとうございます。

どうぞ皆さま、よろしくお願いします。」


 皆の挨拶が終わると、お茶会が始まり今日の予定、屋敷や使用人の紹介をしていく。

「それじゃあ、夕食までお部屋でゆっくり過ごしてね。ルカを付けるから何かあれば彼女に言ってね。ルカ、マリーをよろしくね。」

「はい、奥様。 マリー様、ルカと申します。よろしくお願いします。」

「よろしくね、ルカさん。皆様、それではまた夕食で。失礼します。」

「またね。マリーちゃん。」


 マリーが退出すると、みんなの感想が始まった。

「緊張しているようだったが、良い子だね。言葉遣いやマナーはすぐに覚えてくれるかな。」

「そうですね、そこは問題ないでしょう。後は魔法や勉強と貴族社会の渡り方ね。」

「マリーちゃん、可愛い子だからトラブルに巻き込まれるよ。嫉妬とか男爵家だと軽く見られて遊ばれるかもしれない。貴族のかわし方と護身術は必須だね。

 貴族として言葉の裏を読んで返事をしたり話に参加しないと、大変な事になるよ。

男爵家の動き方を、お母様の指導で重点的に学ぶのが一番大切だよ。」


 ルカが当然のように部屋へ入り荷物の整理や紅茶の準備をしていたが、マリーは気疲れしていて1人で休みたかった。

「ありがとうございます。後は1人で大丈夫です。」

「マリー様、私達使用人に敬語は不要です。お世話をさせて頂くのが私達の仕事でございます。慣れるまでは大変でしょうけれど、ご理解ください。」

「そうね、分かったわ。夕食まで少し休みたいの。

部屋にいられるとゆっくり休めないわ、そういう時はどうしたらいいのかしら。」

「その場合は、休むから下がっていいとおっしゃってください。今回は扉の前で待機させて頂きますが、次回からは御用の時にお呼びいただく形になります。」

「わかったわ。ありがとう。休むから下がって良いわ。」

「かしこまりました。扉の前で待機しております。」

 お辞儀をして部屋を出て行ったルカ。マリーはため息をついて紅茶を飲んで休憩した。


 扉がノックされ、マリーは起き上がって返事をした。

「はい、どうぞ。」

「ルカです、失礼します。ご夕食の準備が出来ましたのでご案内いたします。」


 食堂に行くと、3人とも席についていた。

「遅れてしまい申し訳ありません。」

 慌てているルカに、皆微笑んでいる。

「いや、まだ時間になってないし私達が早く来ただけだから気にしなくていいんだよ。」

「食事は基本的に皆でとることになっているの。

でも、時間に遅れたわけじゃない時は私達より遅くても気にしなくていいの。」

「はい、ありがとうございます。」

 ルカが席に着くと食事が運ばれてくる。食事が終わると執事が資料を持ってきた。

「マリーちゃん、来たばかりで可哀想なんだけれど、学校入学までに約1年しかないの。

マリーちゃんは可愛いでしょう、貴族社会で男爵家としてトラブルを減らしながら対応していく為には、身に着けてほしい事がたくさんあるの。

 敬語や貴族の略式のマナーは慣れだから大丈夫。問題は正式なマナーと言葉選びに表情やしぐさね。ここを重点的に教えていくから、頑張ってついてきてね。

「はい、よろしくお願いします。精一杯頑張ります。」


 優しく微笑みながらダンが、街のお菓子をマリーにプレゼントする。

「そんなに固くならないで。気軽に愚痴でもいいに来てね。頑張りすぎると破裂しちゃうから、息抜きしながら上手くやっていこう。僕達をいつでも頼ってね。」

「ありがとうございます。」

 マリーが失敗したら男爵家にその影響が出るからだけでなく、自分の事を温かくで家族として迎え入れてくれていると感じ、マリーは嬉しかった。


 次の日の朝から早速厳しい指導が始まった。

 午前中はマナーと言葉使いにダンスレッスン。午後は護身術にお茶会。マリーに想定されるトラブルに対する対応の仕方

 マナーと言葉遣いができるようになると、その時間は初等部の勉強予習と魔法授業に変わる。

 他にも、服や装飾品の選び方や場面に合わせた表情・しぐさの作り方、モコノ家の歴史や立ち位置と貴族関係の情報等。

授業はどんどん進み、半年で何とか男爵夫人の基準を超えたマリー、実践が始まった。

 他の子爵・男爵家の子供のお茶会に参加したり、習った楽器や歌の発表。

 忙しい日々の中でも祖父母との手紙や、マリナとダンの励まし。

ダニーは美味しいお菓子や気分転換の家族外出等、皆の支えで乗り切ったマリー。


あっという間に、1年が過ぎマリーの初等部入学の日が近づいてきた。


「いよいよだね。この1年間マリーちゃん本当に頑張ったね。

これなら、嫉妬や妬む子がいてもうまく対処できるね。余りに幼稚なら、僕みたいに飛び級すればいいよ。飛び級したら良い友人に巡り合うかもしれないし。」

「そうだな、本当に頑張った。素晴らしい男爵家令嬢だな。マリナもありがとう。」

「マリーは完璧よ。でも、何かあればいつでも頼るのよ。私たち家族なんだから。」


 自信を持ったマリーは、さらに輝いて可愛らしくなった。

「はい、お母様。本当にありがとうございました。お父様とダン兄様も。」

 そこにいるのは彼らのサポートで貴族の一員となった女の子だ。


 【乙女ゲーム】の映像のように、王太子や高位貴族を侍らしたり、貴族としてのマナーがなかったり、勉強も出来ないようなマリーではない。


 レティシアがマリーを見たらきっと驚くだろう。

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