第11話マリーのいとこ 男爵家子息ダン・モコノ
盗賊が全員捕まった頃、家来からの報告を聞いてダンは焦っていた。
「頭領に知らせてすぐに別の拠点に移動、退去したら燃やせ。拠点にある商品は値がついてたな。一緒に持っていって、連絡するまで拠点で待機させろ。
なぜばれたのか、いつから監視されていたのか分かったのか。」
まずいぞ、あの方に怒られる。いや、事故に見せかけて消されてしまうかも。
せっかく、良い仕事を見つけて私腹を肥やしているっていうのに冗談じゃない。
「伯爵家の使用人の家族を誘拐するなんて、誘拐したんなら街に留まっていないで拠点に移しておけばいいものを。なぜそんな事も出来ないんだ。」
報告に来た家来のお腹をを蹴りつける。
「申し訳ございません。伯爵家の関係者だとは気づかなかったそうです。」
「誘拐した相手を、調べもしないのか。あいつらが馬鹿だから、お前たちに管理させているんだろうが。奴らの管理者は誰だ。」
「ポールでございます。(終わったなポール。恐ろしい。)」
「ポールを捕まえておけ、どうするかは後で考える。」
頭領達は逃げたのか、頭領から連絡はまだか。」
「はい。(だからケチらないで転移陣を渡しておけばいいものを)」
家来の心の中の愚痴が止まらない。家来は転職を決意した。
「頭領達の移動、前の拠点の破壊が完了しました。
どうやら、地下通路の出入り口と街の拠点、城壁の抜け穴までばれているようです。
魔道具が監視者と魔力を感知しました。」
怒りで顔が赤くなり、クッションに拳を叩きつけているダン。
男爵家は騒いで家族に気付かれないほど大きな屋敷ではない。
「暫く街での活動は無理だな。関係者とこちらの接点はないな。」
「はい、街の盗賊はすべてポールが管理していました。こちらとはポールを介してのみですので大丈夫です。」
「頭領も逃がしたしな。ポールは始末しろ。証拠は残すな。」
「受けた分の取引は完了させろ。今からすぐにな。
それとは別に、活動できそうな候補地をいくつか上げろ。
候補地のメリットとデメリットを一緒に記載しておけよ。夜までに報告しろ。」
そういうと、ダンは少し寝るために寝室へ向かった。
朝、メイドが起こしに来る。
「ダン様、起きていらっしゃいますか。失礼します。」
眠そうに起き上がるダンに、心配そうな顔になるメイド。
「お疲れのご様子ですね。お忙しいのでしょうが、ご無理はなさらないでください。」
「うん、ありがとう。でも一生懸命勉強しないとね。
中等部は優秀なライバルは沢山いるから、頑張らないと。」
眠そうにしながら身支度を整えた平凡な成年、ダン。家族との朝食に向かった。
「おはよう、ダン。」
「おはようございます。お父様、お母様。」
「おはよう、ダン。昨日も遅くまで勉強していたんですってね。
無理しすぎて体を壊さないようにね。」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、お母様。鍛えていますからね。」
「そうだぞ、ダンは、剣で鍛えているんだから大丈夫だよ。」
楽しそうに会話をしながら朝食を食べている男爵家一家。
「そうそう、今度あなたのいとこのマリーが、うちに養子に来ることになったからよろしくね。魔法が使えるから貴族になるのよ。」
「お父様のお姉さんの娘さんでしたよね。魔法が使えるなんてすばらしいですね。」
「そうだな、それに優しくて明るい子だそうだ。街で暮らしていたから貴族になると大変だろう。色々気にかけてやってくれ。」
「勿論です。家族と離れて寂しいでしょうし、貴族の世界は慣れるまで大変ですから。」
「良かったわね、あなた。きっとダンとも仲良くなれるわ。」
善良な夫婦は気付けない。笑顔で話している優しい平凡な息子が犯罪を行っている事を。
魔力のある娘でいとこ、どう使うか楽しみだな。一番利益が高いのはなんだろう。
今日一番いい情報を聞いて嬉しそうに笑うダン。
マリーが来て新しい家族が増えても、上手くやっていけそうと喜んでいる両親。
笑いの絶えない穏やかな家族の朝食風景だった。
そして夜、家来からの報告を聞く。
「取引は無事完了しました。候補地を3つ選定、メリットとデメリットを申し上げます。
メリットはどこも同じで、顧客の需要、よそ者が多く紛れ込みやすい、犯罪の拠点に出来そうな物件が多い、騎士や治安部隊が無能で危険が少ない等です。
デメリットは、他の裏組織との争いに発展する可能性が高い街、辺境でこちらの監視が不安な街、ドレーブ家が治めている街の1つであること。以上です。」
「取引と候補地の件、短い時間でよくやってくれた。デメリット対策の案もあるんだろう。」
「はい、裏組織は取引すればよいかと。盗賊から犯罪組織になりあがったものなので、こちらの後ろ盾を魅力に感じるでしょう。」
「それは却下だな。俺を通さず、直接あの方と繋がる可能性がある。あの方にとって切り捨てる駒はどちらでもいいかもしれない。少しでも不安のある案は駄目だ。
取引ならどの位の時間と金が必要かな、いや勿体ないな、潰すか。上を全部殺して下の人間を家の配下と組ませて客との仲介にあたり、有能なら使い続ければいいし無能でも何かに使える。これが良さそうだな。」
「次は、距離が離れすぎているので、辺境にしっかりとした組織を作り、重大な事だけこちらから指示を出すとしか思いつきませんが、あまりいい案ではないと思います。」
「そうだな、辺境は機会があれば。一応誰か潜入させて情報は集めて置け。」
「次はドレーブ家か、これはあの方の返答次第といったところか。」
「ありがとう。よくやってくれた。後は街の治安部隊の動きに注目しておけ。
騎士団には近づくなよ。奴らは近づくと、こちらの事を勘づきそうだからな。」
そういうと、あの方の部下へ連絡を取った。
「回収中にトラブルが起こり未予約の商品と作業員を失いました。倉庫にあった商品は無事だったので応援の作業員が取引を完了させ、作業員は別の店で待機中です。」
「そうか、今日はあの方は忙しいので私が代わりに報告を聞く。」
「はい、現在進めている支店の出店ですが1つは候補地にライバル店がおりますが、吸収できそうなので進めたいと思っています。
もうひとつは、ドレーブ家の治める土地のひとつなのですが、どうしますか。」
「支店の出店先に関しては追って知らせる。取引はご苦労だった。今回のトラブルは運が悪かっただけだと、あの方はおっしゃっていた。」
「そうそう、街で何かあったようで騎士団が調査に乗り出すそうだ。」
「騎士団が乗り出すならすぐに解決するでしょうね。何の心配もいりませんね。」
「そうだな、次はこちらから連絡する。」
そういって通信は終わった。無事全てが終わり、ダンはほっとして眠りについた。
騎士団は王弟から盗賊と被害者を引き取り調査したが、盗賊の拠点は燃え、街にあった拠点でも何も見つからず、指示を出していたポールという男の事も消えていた。
地下通路をつぶし、空き家の対策を治安部隊に指示して、今回の事件は終結した。
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