一章

自由な信仰

【読み方】三段の改行は区切り、ルビのカナは専用の読み方でひらがなは常用


 混沌期こんとんき。蘇る死者に襲われた人々は魔術バシュツを用いた儀式を行い死体を埋葬していました。葬儀は死別を受け入れて決別する側面もあります。

 魔法バホウに入ってからも魔術的な儀式を行う人々は居ました。




 二千年前、ショナ教の教祖テリシャスは『人間が互いに思い合う調和』を説く中で『魔法が有効な今、魔術は無駄』と語りながらも『葬儀を不要』とは言い切りません。

 教祖の教えに習い魔術を捨てた人々は無駄な儀式を阻害しませんでした。




 今から百五十年程前に生まれたイート教会は自らを魔法王バホウオウと名乗る男によって設立されたショナ教の分派ぶんはです。


 初代イート魔法王のツカルは自らを『テリシャスの子孫』と語りました。

 ツカルは『世界には魔術を探求者〝魔術師バシュツシ〟がいる。魔術の発現は秩序の終わりと混沌の再来を意味する。発現した魔術を鎮められる存在は魔導士バトウシの他に居ない。そして――魔導師を呼べる者はテリシャスの血族を除いて他に居ない』などと語り人々を説得しました。

 当時の科学でツカルの言葉を理論的に否定できる者は現れず混沌の再来を恐れた人々は魔法王の言葉を信じました。




 今から百年程前、イート教会は大国シナノスの国教としてフラシリア大陸の諸勢力や人々へ強い影響力を有し始めます。

 イート教会はシナノスに不都合な者たちを魔術師と認定する為に裁判を用いました。

 科学的な分析から判決の誤りや間違いを指摘した者も証明する機会すら与えられずイート教会から『魔術師の仲間では?』と疑われて速やかに裁判が行われます。

 イート教会に脅えた学者は歪んだ科学へ異を唱えず暴力と権威を伴った圧力に屈し始めました。


 当初は控えめな裁判でしたが調子に乗ったイート教会は諸外国をも標的にし始めました。※控えめな裁判=個人を標的とした

 イート教会は裁判の結果を受け入れない相手へシナノス軍を用いて暴力的な圧力を掛けました。イート教会の権威に依存し続けるシナノスは共犯関係のイート教会を止められません。

 やがてシナノス(イート教会)はフラシリア大陸を権威と暴力の恐怖で支配しました。※権威=魔法王(当時、フラシリア大陸で最大の宗教、最大分派の長)




 今から十数年前、裁判で仲間を失った科学者ヒノ・ノワールは同士を集めて圧政に反抗する組織を作ります。

 『過去にイート教会が行った裁判の判決理由は非科学的である』と誤りを指摘しながらも信仰対象の魔法は否定しなかったヒノ・ノワールはシナノスの圧政に脅えるショナ教信者の拠り所になりました。


 ヒノ・ノワールの下に集まった者たちはイート教会とショナ教を同一視して嫌う者も居ます。

 『宗教を信じるか信じないかは各々の意思に任せるが可能性を否定するべきではない』と語り魔法そのもの、ショナ教の教祖を嘘つきと侮辱した者へ『魔法の存在を否定できない限り――魔法は否定すべきではない。現状、ショナ教を否定できる科学的な根拠はない。根拠なく否定したらなイート教会と同じだ』と説いた。

 ヒノ・ノワールは科学的にイート教会の魔法師が語った判決理由の誤りを指摘しながらシナノスに苦しめられる人々や集団、諸国を説得した末に統一する。

 統一された反抗組織はフルクリント王国と名乗りヒノ・ノワールを長に科学を主体とした常識が育まれます。※シナノスは意図的に誤った理屈の科学を用いています


 ヒノ・ノワールは宗教組織が軍隊を保有する事を禁止して役割を明確化した。

 人を精神的に生かす方策と人を物質的に生かす方策は区別すべきであるとヒノ・ノワールは考えます。※宗教は精神を生かし、国家は肉体を生かす


 自らついた嘘に苦しむ人々を見て育ったヒノ・ノワールは嘘が強要される自由無き社会を嫌っています。※自らが信じる思想や理論を語れない社会に不満なヒノ・ノワール

 信仰の自由を望みながらも処刑された友から夢を託されたヒノ・ノワールは国教を定めませんでした。

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