魔術の証明

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 魔術バシュツなき世界は魔法バホウの価値を実感させない。


 フルクリント王国の建国者ヒノ・ノワール[男性]は『証明できない事を理由に否定すべきではない』と語っていたが全てのフルクリント王国民が彼と同じ思想ではない。


 この世界に魔法バホウをもたらした魔導士バトウシを信仰するショナ教の信者でも魔法バホウの実在を妄信する者は限られる。


 両親がショナ教の分派ストレティ教会の信者シャホレー[当時は少年]は幼少に魔法バホウの伝承やショナ教の教祖テリシャスの教えを聞いて育った。


 ホルシャン地方の小さな農村に暮らすシャホレーが十歳になった頃、農村を訪れた科学者から学問の才能を見出されたシャホレーは『都市ミュンシーニにあるマールクラン学校で学問を学ばないか?』と誘われた。

 農村に訪れた科学者を師匠と呼んで学問に興味を持ったシャホレーは科学の社会を知らない。と考える両親から『できっこない』と止められたが『本人の意思を尊重すべき。彼の才能を伸ばすべきだ』と師匠が両親を説得した。

 両親から見送られたシャホレーはホルシャン地方で最大の都市ミュンシーニにあるマールクラン学校へ入学した。

 マールクラン学校の卒業生である師匠の推薦で入学したシャホレーはミュンシーニにある寮で生活を始めた。



 シャホレーが通ったマールクラン学校はフルクリント王国で一二を争う科学の学び舎だったが同じ学び舎で励む人々から『科学の時代に魔法バホウを信じている事』を侮辱された。

 科学を学ぶ人々はヒノ・ノワールの様に安易な否定を行わないと思っていたシャホレーは抱いていた期待と現実の違いを知った。

 学内でショナ教の信者である事を隠し始めたシャホレーはすでに知っている人々から情報を拡散された末に揶揄われた。

 隠して逃れようとした安易な逃避は事態を悪化させた。


 人目を避けながらストレティ教会のホムトール教会堂へ通っていたシャホレーは信仰する宗教を誇れず隠している自分に嫌悪感を抱いていた。

 シャホレーはホムトール教会堂で頻繁に会っていたストレティ教会の上位者、魔法バホウ司教シコウのアンヒシャスから『魔法バホウを否定しなかったヒノ・ノワールの意図を理解できぬ者はノワールの足元にも及ばない。その様な者らを恐れた末に価値ある機会を失ったなら、私は雑念に惑わされた者を心中で蔑むだろう』と告げられた。


 『侮辱する者たちを否定する為に魔法バホウを証明したい』と決意したシャホレーは信仰する気持ちを隠さなくなった。

 在学中に魔法バホウを証明する方策は魔術バシュツの実証で叶えられると考えたシャホレーは混沌コントンを調べていた。


 学校の図書館に置かれている混沌コントンの資料は怪物カイブツに関する本が殆どで魔法バホウ魔術バシュツに関する物は少なかった。

 人同士の戦争を終わらせたフルクリント王国が本格的に取り組み始めた『怪物カイブツの領域サウルウェルスを調査する計画』がある。

 広大なフラシリア大陸の四分の一は人の領域クインスラントだが人々の生活水準が向上した影響で人口の増加は始まり増加量に比例した土地が求められている。現状は足りていても将来的に不足する事は考え得る。

 人口が増えれば資源も多く消費する事から鉱物資源や海洋資源など人の領域クインスラントを広げる計画は正しいと思われる。

 人の活動領域を拡大したいフルクリント王国は怪物カイブツに対して有効な武器の開発や生態の研究に注目している。

 高みを目指す学生なら需要が高まる怪物カイブツに関わる就職先を目指すことは自然であり、必要な知識を得るために存在する学校の図書館には相応な学術書が置かれる事から宗教より怪物カイブツが優先されている。



 マールクラン学校を卒業したシャホレー[当時は青年の男性]は都市ミュンシーニにあるストレティ教会シャホル教区中央教会を管理するアンヒシャス魔法司教バホウシコウの補祭になった。

 マールクラン学校の教員からは科学者の道を強く勧められたが深く魔法バホウを学ぶためにストレティ教会の上位者を目指した。



 ストレティ教会の魔法司教マホウシコウアンヒシャスの魔法助祭バホウソセイに成ったシャホレーは『魔術バシュツに入れ込むな』と注意されたが魔法バホウを証明する手段が魔術バシュツしかないと信じて疑わないシャホレーは忠告を軽んじて(魔術バシュツは必要悪だ)と考えた。


 それから四年が経ち、シャホレーは魔法司祭マホウシセイに成った。


 シャホレーはストレティ教会の上位者から魔法司祭マホウシセイに成る事を妨害されたがアンヒシャスの口添えで成れた。が魔法司祭マホウシセイに成った後も嫌がらせは止まなかった。

 最終的には目論んでいた魔術バシュツの実証が知られた末に『魔術バシュツに魅入られた彼は魔術バシュツが成す混沌を鎮めた魔法バホウを重んじているショナ教の理念に反する』と魔法司バホウシ会議かいぎの議題にされた。

 シャホレーは魔法司バホウシ会議かいぎでストレティ教会の上位者である大魔法司教タイバホウシコウから不相応な思想を持っていると結論付けられた。

 今まで味方だったアンヒシャスからも守られることは無くストレティ教会の脱退を余儀なくされたシャホレーは保身の為に自分を迫害したストレティ教の大魔法司教タイバホウシコウ魔法司教バホウシコウたちを嫌悪した。


 脱退後、個人で研究を続けたが異教徒である魔神バシン系の宗教を除いて魔術バシュツに投資する資産家を見つけられず資金難に陥ったシャホレーは好奇心が強いと噂されていたコールト・テルモンテ侯爵へ融資を求めた。※魔神バシン系の宗教は異教徒だから駄目


 魔術バシュツの実験を行わない条件付きで融資を得られたシャホレーはテルモンテ侯爵が統治するフラシル地方で魔術バシュツの研究を再開した。※テルモンテ侯爵は趣味でシャホレーに個人的な資産から融資している

 住居と研究室を与えられたシャホレーはテルモンテ侯爵から『魔術バシュツの実験を行いたければフルクリント王国に実験の必要性を証明すればよい』と助言されて身勝手な行為を抑制された。




 テルモンテ侯爵から融資を受け始めてニ年が経った頃。

 フラシル地方にある混沌コントンの遺跡調査を終えて都市アルセンへ帰還したシャホレーはテルモンテ侯爵から呼び出された。

 テルモンテ侯爵から『リア山地の異物調査』を命じられたシャホレーはネクローネ戦士団と共にソリエスが待つナイシェ村へ向かうことになった。


 遠征中の自分に黙り魔物バブツかも知れない何かの調査にソリエスを先行させていた事に不満を抱いたシャホレーは(結果的に魔物バブツの可能性が高くなっただけ)と考えて(テルモンテ侯爵の判断は正しい)と自分に言い聞かせて冷静さを取り戻そうとした。


 調査に用いる道具を運びたいと馬車の荷台に混沌コントンの遺跡や地層から発見された〝人口遺物ジンコウイブツ〟を乗せたシャホレーはネクローネ部隊員から必要性を理解されず不満を抱いた。が(理解できない者に多くを求めるべきではない)と心を落ち着かせた。


 ネクローネ戦士団の総数は五十人ほど。

 魔物バブツの対処に相当の人員が必要と判断したソリエスに応じたテルモンテ侯爵は相応の物資や馬などを用意していた。

 ネクローネ戦士団員から準備を手伝われたシャホレーは早々にアルセンを出ることが出来た。


 ナイシェ村に着いたシャホレーは逸る気持ちを抑えて休息した。


 翌朝、朝食を食べ終えたシャホレーは一晩寝たことで気持ちを切り替えることが出来た。

 沢山の人口遺物ジンコウイブツを持ち運びながらティムラ山の森林を散策するには人手が欲しいと考えたシャホレーは馬車の荷台から降ろした数個の人口遺物ジンコウイブツをネクローネ戦士団員に預けた。

 シャホレーは人口遺物を混沌コントンの遺跡や地層から発見された〝魔術バシュツ道具トウク〟と考察している。


 シャホレーは以前、ソリエスたちが魔物バブツと思われる存在に遭遇した地点へ向かい森林の中を歩いていた。

 遭遇した地点へたどり着く前、森林の浅い場所でシャホレーが手に持っていた球状の魔術道具バシュツトウク魔灯光バトウコウ〟が光を発した。


 驚くソリエスたちを気にも留めずネクローネ戦士団員に預けていた人口遺物ジンコウイブツを確認したシャホレーは数個の魔術道具バシュツトウクが変化している事に気付いた。




 魔法バホウが正常に機能する限り魔術バシュツ道具トウクが機能することはあり得ない。

 それが機能したなら、その区域はにとって無法と言えよう。

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