渡らない橋

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 人の領域クインスラントを統べたフルクリント王国を建国したヒノ・ノワール。の盟友コールト・ハレルは侯爵としてフラシル地方の統治を行っていた。

 努力を怠らなかった祖先が百年ほど守り続けたコールト家の領地は現当主コールト・テルモンテ侯爵が受け継ぎ守っている。




 二年程前『魔導士バトウシがもたらした魔法バホウ』を信仰するショナ教の分派ストレティ教会で魔術バシュツの実証を目論んだシャホレーが脱退させられた。

 支援者を求めていたシャホレーから混沌コントンの研究内容を聞かされたテルモンテは能力ある者を野放しにする無益さを嫌い支援を申し出た。


 シャホレーが目指す魔術バシュツの実証には魔術バシュツの実験を行う必要がある。

 科学社会に不都合な魔術バシュツの実現はフルクリント王国の現国王ヒノ・ムニエから好ましく思われないと考えたテルモンテは『フルクリント王国から承認されるまで魔術バシュツの実験を禁止する』条件でシャホレーに支援を行っている。


 抑圧されていたシャホレーが固執し続ける手段は受け入れ難い内容だがそれを安易に否定したなら信用を得る事は難しい。

 (シャホレーから信用を得るには微かでも良いから希望を与える必要がある)と考えたテルモンテは『フルクリント王国から承認されたなら』という可能性を告げた。

 資金や環境の提供しているテルモンテはシャホレーから依存される関係を築くことが出来た。




 シャホレーと出会ってから二年程が経った今、彼の目的は果たされようとしている。

 リア山地の調査を命じていたシャホレーから送られた報告書を読んだテルモンテはフルクリント王国のヒノ・ムニエ王へリア山地さんち魔物バブツ調査ちょうさの報告と調査の助力を求める書状を記した。

 使者に書状を託したテルモンテは調査団の負担を軽減させるために急ぎ向かわせた。




 コールト・ハレルはフルクリント王国が出来る前からヒノ・ノワールに協力し続けた影響でヒノ・ノワールから盟友と呼ばれた。

 以後、コールト侯爵家とヒノ王家の関係は表向きな盟友であるがフルクリント王国やヒノ王家から特別扱いを受けた事は一度もない。


 テルモンテはコールト家を存続させるために領民が誇れる『盟友』は有益であると考えているが状況次第で鞍替えもあり得ると不忠な思いを巡らせた事もある。

 フルクリント王国へ不満を抱く事は有っても利があって仕える今の関係を壊す予定はない。



 (世界が科学社会から魔術バシュツ社会に移り変わった時、フルクリント王国が科学に固執したなら……)などと可能性としてあり得ると想像した事があるテルモンテは今回の出来事がどのような結末を迎えるか注視している。



 人口遺物ジンコウイブツ魔術バシュツを行う道具だと考えていたシャホレーが正しかったと裏付ける報告書は転機に成りえた。

 魔術バシュツを手に入れる事が出来たならクインスラントを統べられるかも知れない。がフルクリント王国と戦って失う資源を考えたら損失が大きすぎると結論付けたテルモンテは王より臣を選んだ。それが今であるなら……。

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