第9話完全実況生中継


当日の中継である。


「さあ、ついにこの日がやって参りました。宇宙中の大注目、二度見ることのできない夢の対決です。3S対レーサーの申し子、宇宙に愛された男と、大ブーイングを受けた男の真っ向勝負です。解説は元レーサー、大会二連覇を成し遂げたこの方です」

「どうぞよろしく」

「どうですか?この勝負は」

「そうですね、ストレートなら本当にいい勝負になっていたようですが、どうしても回るとなると。キャプテンジャックの昨日の記録はレーサーと比べると一分弱遅れていますからね。その差を本番でどう縮めるかですが、昨日の時点ですからね」

「ちょっと大差で、という感じですか」

「それでもこれだけで回れるというのはすごいんですよ、新人レーサーとしては十分です、ただ、ヤツのすごい所は小技も利いてて」


「ヤツ、とおっしゃいましたね。いやあ、前回のあなたとのレーサー大会での死闘はすざまじいものでしたから」

「でも結果的には差がついて、私は引退を決意しましたよ」

「宇宙の隼と言われた天才レーサーのあなたを引退に追い込んだ、彼の技術というのは、あなたから見ても・・・」

「完璧です、すきがない。キャプテンジャックが宇宙の6人の技の集大成と言うのなら、彼もレーサー技術の集大成です」

「負けない、と」

「まあ、申し訳ありませんが。私もキャプテンジャックは大好きです。しかし、ここでは、ただ頑張って、ベストを尽くしてほしいということだけですね」


「準備が・・・できましたか・・・先は勿論本職が行きます。お手本があった方がいいだろうとの事です。反省の色が見られません、あくまで強気、宇宙を敵に回しても飛ぶか! さあ! スタート! 」


「初めは当然のごとくゆっくりですが・・・あ・・・」


「いや、早いですよ、もう300です! 早い! 浮遊物の心配が全くないから始めから行くとは言っていましたが」


「浮遊物と言うのはそんなに違いますか? 」


「違いますよ、清掃してもどうしても小さい石や何かはあります。それが当たっただけですごい衝撃と恐怖になりますから」


「それとも闘っているわけですか」


「そうです、相手がいればそれともですが、今回は単独です。絶対に破られない記録を作る、とまで言っていましたから」


「さあ、もうすぐ最高速度370、出た! しかし星ですよもう」


「回る時は350で回る時もありますから」


「ああ、320、でも早い! 練習飛行では300で回ってみたということですが」


「この星の重力の関係でしょう、その読みも早いんですよ、数値的なことじゃなくて体に感じるもので、危険度を判断する」


「ああ、しかし、美しい飛行ですね、さっとペンで書いたようなヘアピンカーブです、さあ、あとはまっしぐらに帰るだけです。早い早い! もう370、375! ここまで出すか! 悪童! 」


「行け! 」


「ゴールイン!さあ、手もとのタイムは、何とこの距離の宇宙記録を20秒以上上回る! なんと、なんと、これは圧巻! これが、あれだけの事を言っておいても人をひきつける理由か! 」


「はああ・・・・すごいな・・・・これは・・・・」

「ちょっと・・・・・勝負には無理ですかね・・・・」

「ああ・・・・この飛行が見れただけでも、今回の意味があったんではと思います。申し訳ないですが・・・僕も星間レーサーだったので・・・・」



 しかし宇宙にはこの事を自分の予想より下だったと見る人間がいた。彼は自分の仕事を予定より早く済ませ、ゆっくりと飲み物を飲みながら見ていた。


「重力に負けたか、勝とうとするからそうなる」一人でつぶやき、

「レースが終わる頃には丁度ヤーマも航行を終えているはずだ、彼の航路はレベル3、音声だけしか聞いていないのかも」話す相手を待っていた。



 キャプテントミとキャプテン塩は家にいて、家族とこのレースを見ながら、ほとんど同じような会話がなされていた。

「うーん」

「あなた、ジャックは大丈夫なの? 」

「大丈夫って? 」

「星に、ぶつかったりしないの? 勝負なんて、どうでもいいわ」

「うーん、ただなあ、ジャックは負ける勝負は好きじゃないんだ、ああ見えて・・・怖いんだ・・・」



「ジャック、もうすぐだが・・・・」

「ハイ分かってますキャプテンポウ」ジャックは宇宙空間で待っていた。

「ヴェルガが心配だから音声はお互いオンにしておいてくれと言っていたが」

「聞いています、キャプテン」

「危ないと思ったら、離脱しろよ」

「キャプテン・・・優しいんですね、大丈夫ですよ。でも誰が負ける勝負をわざわざするんですか? 」

「ジャック? 」

「行きます」




一方惑星ヴェルガでは、洞窟の中みんなで中継を見ていた

「大丈夫か、ヴェルガ、疲れ果てているようだが、今の結果でなおさらか? 」

「毎日力を使っていたんだよ、ジャックが重力を感じないように」

「そんな事をしていたのか? 」

「前日に何となく気付いたようだがね、ジャックにしては遅い、それだけ必死だったんだろう」

「だが、可哀想だが・・・星間レースを見ることは少ないが、無理だろう? 」

「どうかな、試合は最後まで分からない、諦めなければ。ずっとそういうだろう、地球の頃から」




「さあ、キャプテンジャック、行きますか、どこまでやれますか」


「とにかく、星にぶつからなければそれでいいと思いますよ」


「もう勝負は・・・私も星間レースを長年見てきていますから、確かにそうかも知れません、しかしみなさん、見ましょう。3Sの力を、さあ、スタート! 」


「さて、速度は少しずつですね、250、280、300、これでは、どうしても・・・」


「安定した良い飛行ですけれど」


「うーん、330から上がりませんが、もうすぐカーブですが現時点で20秒近くの遅れ。あれ、序々に速度をあげてますね、340? そのまま回る??? 」


「これはすごいですよ!! この速度では回れません! あ?? 」


「え???? 」


キャプテンポウとサマーウインドも驚いて


「おいジャック! 何をしているんだ! 二周まわってどうするんだ!!! 」


「く! 」ジャックの苦しそうな声が聞こえた。

「ジャック! ジャック !おい大丈夫か? 」

「くそ・・・・重力なんて!・・・・・」

「ジャック! 」

「重力なんて!・・・・大嫌いだ! くそ! こんなこと・・・二度とやらないからな!!! 」

「ジャック?」


そして宇宙で二人だけ同じことを叫んだ。


「行け、ジャック!!! スイング・バイだ!!! 」


サマーウインドとポウはジャックの力強い叫びを聞いた。


「この!!! 星の重力をなめるな!!! 」




「あ! 星を回りきって、加速がすごい! なんだこれは一気に370、80、95、400!! 船体が持ちますか?」


「船体よりも、人が・・・でもまっすぐ飛んでますね、ちょっとでも動かしたら大変なことになるんですが、すごい、すごい、450超えた!機体の速度じゃありません、それに限界速度ですよ、それこそ高速実験の人間しか耐えられないような・・・」


「行くか! そのまま、キャプテンジャック!

 行け !超えろ!! 宇宙のために!!  ゴールイン!!

 タイムは・・・信じられません・・・レーサーよりさらに10秒早い! 

 なんと! 大番狂わせ!! 

 キャプテンジャック! これこそ3S、宇宙一のパイロットの証明書か!!

 最速すら、彼の技術の内なのか!! 


なお情報が入ってきました。二回まわったことにより、星の重力により加速が得られたということです。地球時代、衛生や探査船を飛ばすのに用いられていた

「スイング・バイ」という方法だそうです。何とこれは頭脳的な! キャプテンジャックは宇宙一の頭脳派、キャプテングリーンの弟子でもありますから。でも、もしかしたら知恵の宝庫、キャプテンヤーマからの財産分与かも知れませんね」

「僕は幸運ですね・・・この勝負を間近で見られたのですから・・・・」

「私もです・・・中継を見ている皆さんも・・・・」


「わーい! わーい! キャプテンジャックが勝った! 」トミと塩の家では子供達が大騒ぎして、妻たちは優しく夫に触れた。


惑星ヴェルガでは

「すごいわ! すごいわ! さすがキャプテンジャック! 」

「すごい! 勝ったじゃないか! ヴェルガ、何かしたのか? 」


「何か? いろいろやり過ぎた・・・飛行と同時に、格闘本能を目覚めさせ、スイング・バイのときは重力がかかりすぎるから、アドレナリンの分泌を促して悪いが怒りで超えさせた。後で薬がいる。速度400を越えた時点で、操縦桿はロック、外壁の剥離を防ぐために、強力な電気溶接、回路の誤作動を防ぐため楯をはりながら溶接したんだ。機械の中に入りたい気分だったよ・・・・」

「お疲れ様・・・ヴェルガ・・・・・」

「早く普通の仕事に戻りたい・・・・」


「ジャック! お帰り! やったな! 」しかしジャックはうれしそうな顔一つ見せず、きつい眼つきでレース機から降りてきた。


「ジャック、祝杯だ」

「キャプテンポウ、僕は酒は飲めません」

「わかっているよ、水だ、水分も補給しておかないと体に悪い、なあ、ジャック、飲めよ。無理してでも」

ジャックが一口飲むと

「何ですか? 変な味」

「特殊な栄養剤だ、クリームが心配して」

「ドクターヴェルガが? 」

「そうだ、わざわざだ。飲めよジャック。これで終わりだ、こんなことは。すまなかったな、さあ本業に戻ろう」

「はい、キャプテン」素直に飲み干した。すると力が抜けたのか、笑みもこぼれて、

整備の皆が祝福した。


「すごいですよ! 何であんな奥の手を隠しておいたんですか? ヴェルガが何か回路をいじっているとは思ったんですが」

「二回目は重力から推進力を得られるよう、より近くを飛ぶように、多少プログラムしてもらったんです。あの星は小さいが質量がケタ違いで、重力も大きいですから。タイムロスの分だからそれぐらいはいいでしょう? 」

「もちろん、ルール違反にもなりませんよ、コース設定は許されていますから」

ジャックの関係者は全員うれしいばかりだ。




「グリーン、おまたせ」


「すまないな、私は先にゆっくりしていて、ヤーマ」


「君の功績だ、私のでもあるが」


「最高だ、乾杯でもしよう、大人の知恵と」


「大人の解析力と」


「地球と」


「優秀な二人の生徒に」


「乾杯! 」酒ではない飲み物を二人は飲んだ。




 ジャックはデッキに一人の男が入ってくるのを見るなり彼の方向へ足早で向かった。

「あれ、例のレーサーだろう? 大丈夫かな・・・・サマーウインド」

「うーん・・・・・・」


「どうも有難うございました、いい経験になりました」ジャックがそう言った。するとレーサーは睨むようにジャックを見て


「次は! 」


という言葉と同時にジャックは彼軽く抱き寄せて、お互いの健闘をたたえ合ったように見せて、耳元でこう言った。


「いい加減にしろよ、小僧・・・俺は格闘星出身だ、その細腕、二度と操縦桿を握れないようにするのは難しいことじゃないんだぞ・・・・・」



遠目に見ていたポウとサマーウインドは

「なあ・・・・何言ってるか分かるか? 」

「あのなあ、ポウ、俺が一番ジャックと長いんだぞ、分からないはずないだろう? 」 

「羊の皮をかぶった、だな・・・・」

「何だろうな・・・・この後も怖いぞ・・・・・」


ジャックは皆の所に帰って来た。

「ジャック、うちに来ないか? お前の好きなケーキを作ってハーナも待ってる」

「うちの方が近い。女房が料理材料も買ってるって言ってたぞ。特殊空間航路を通る間に丁度料理もできるだろうって、なあジャック」

「・・・・・・・」

「ジャック? 」

「また寄らせてもらいます! ママハーナには真空パックして頂けると助かります」「そう・・・・・伝えておくよ」

「キャプテンポウ、「可愛いママ」にはわざわざ買い物をしてきてもらったのにすいませんと伝えてください。私はヴェルガを迎えに行きます! 」

「わかった・・・・気をつけてジャック・・・」


すると総司令部の子なのかレーサーが連れてきたのか、女の子達が10人ほどジャックのそばにかけよった。

「キャプテンジャック、おめでとうございます! 」

「ああ・・・どうも・・・・」

「すごい! レーサーやっつけちゃうなんて! 」

「たまたまだよ」

「どうですか? 私達とお食事なんて・・・・」

「ずるい !私達とも! 」小さなことが起こった。


「悪いけれど、先約があるんだ」

「え? 彼女ですか? 」

「ああ、そうだよ。食事を・・・・捕ってきてくれる彼女と」

「捕ってきてくれる???? 」



「ねえ、ねえ、ヴェルガ、今から狩りに行くけれど、キャプテンジャックは鳥がいい? 猪? それとも水牛? 」

「どれでもいいんじゃないか・・・多分、食べないと思うけど」

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