第8話退去と知恵
科学と言うのは本当に日進月歩で、どういうシステムなのか、ジャックはレーサー機で思ったほど重力を感じなかった。毎日タイムが更新され、あと一週間で本番と言う頃になると、タイム差は一桁になった。
「悪いですが半分出まかせに「勝とう」と言ったんですよ。そう言った方が士気も上げやすいですから。でも本当にそうなるかも知れません、キャプテンジャック」
整備士の話はレーサー協会の耳にも入ったらしく、本当は本番でしか会わないはずだった例のレーサーが様子見に来ることになった。
「やあ、キャプテンジャック。早くなりましたね、整備もいいし」
「どうも」細身の、引き締まった体の若者だった。
「いいなあ、全く浮遊物が無いなんて羨ましい、これならタイムは相当上がります、思いっきりね」にこりと笑ってすぐに帰って行った。
その時に何かジャックは、自分の体に火がついたような感じがした。そして、何か嫌な気もした。案の定「まっすぐでは面白くないでしょう?丁度星が一つあるんですから、そこを一周しませんか」そういう申し出があった。
「やめましょう、回るのは危険です! 断ればいいんです! 」
整備士はそう言ったが、ヴェルガはジャックの目を見て何も言わなかった。自分も整備士も丁度いないときにジャックは彼と会ったようだが「謝る気もなかったみたいだ・・・・」それを見ていた人間は言っていた。
ヴェルガは考えた。
年齢はジャックより若いとはいえ、嵐の事を知らないはずはない。花星の人の怒りようを見て、そう言ったことが本当にすまないと思っているのなら言葉になろうし、それに、全く思ってもみないことを人間はそんなに口には出さないだろう。観覧室で会った男とレーサーは同じ種類の人間で、感謝した人間と整備士は同じ種類の、別のタイプの人間、そういうことなのかと思った。
ジャックは決して始めから許していたわけでも、落ち着いていたわけでもない。冷静を装い、閉じ込めていただけだ。そのたがが、外れてしまった。もう止めても無駄だ。
「くそ!」
デッキに着き、ヘルメットを脱ぎながらジャックは言った。回る、しかも速度を落とさずヘアピンカーブだ。一歩間違えば星に衝突、どうしても恐怖心が来る。離れれば一分以上のタイムロス、テクニック不足は否めない。当然の事だ、彼らの練習はこの事に半分以上を費やすのだから。「受けない」といえば済むことだったのに、後何日かしかないのに自分で自分の首を絞めてばかばかしいことだ。
でもあの彼の態度は、レースが何よりも大事というレーサーのお手本なのかも知れないが、それが全てで、あまりにも足りないものが多すぎる。いずれそのことは彼の人生に大きく影を落とすだろう。
「そう若くもないぞ坊や・・・お前のためだ・・・絵にかいたような小生意気な態度はやめてもらおうか」
一度気持ちを整理した。自分はここで負けても、そう失うものはない。
「何で止めなかったんだヴェルガ! 勝てる勝負をみすみす」ジャックのいないときにヴェルガは四人から言われて、
「しょうがないだろう、ジャックがやる気なんだから、わかるだろう? 」
そう答えるとみんな黙った。
「20秒って言うのが広く一般に漏れてしまったんだ。それで協会もレーサーも慌てたんだろう。ジャックも上手く乗せられたな、冷静さを欠いている。彼に直接会って怒り爆発という感じだったのだろう、違うかいヴェルガ・・・」
「見ているようだ、キャプテングリーン」
「ヤーマからどうにかならないかと言われたんだが、手が無いわけじゃないがジャックは練習中か」
「何か秘策があるのか? 」
「あることはあるが、君の力をフルに活用しなければならない、医学から機械まで。でも本番は君は惑星ヴェルガに行っているんだろう? 」
「一緒にいたら、また遺恨を残すことになるからとジャックが」
「ウーン、明日から準備すればいいが」
「聞かせてくれ! キャプテングリーン! 」
「じゃあなジャック、ガンバってくれ」
「終わったら、すぐ迎えに行くよ」レースの前の日、ヴェルガは出発することになった。
「ヴェルガ」
「なんだい? 」
「君は・・・何か私の体に」
「何を言っているのだジャック? 」
「そうだな、そんなはずもない。とにかくキャプテングリーンと君のおかげで何とかなりそうだ」
「キャプテングリーンは来ないのか? レースを見に」
「キャプテンとキャプテンポウがまた来る。自分は二人の航路を航行するって。任せたって上の空で危ないからと。それじゃあキャプテンヤーマによろしく」
「ああ、言っておくよ」
いろんな船を乗り継ぎ、惑星ヴェルガへ向う特殊空間航路で、キャプテンヤーマの船に乗った。
「もともとはあなたの案なのだろう? キャプテンヤーマ」
「案と言うか、古い地球時代の文献であったんだ。その頃の技術では画期的で面白い方法だよ、今は全く必要ないが。試しに数値をはじきだしてみたら結構いけそうで、こういうことはグリーンの十八番だから任せたら、その星がとてもそれ用に適してるって分って。ラッキージャックだな、相変わらず。まあ生真面目に君を自分のそばに置いておかないから、神様も幸運を授けてくれたのかな。でも大丈夫かい? ジャックの精神面は? 」
「時間が来ればそうなるようにしている、暗示の一種だ。その後は、二人に任せる」
「大丈夫だろうな? あの二人は」
「貴方の方が詳しいだろう? 」
「ウーン・・・いざという時は役に立つから大丈夫かな、本番に強いタイプだ、私とは違って」
「貴方が本番に弱い? そうなのか? 」
「そうやって褒めたら育つタイプだった。二人とも面白いように」
「それはすごい話だ、聞かせてもらえるか? 」
「もちろんヴェルガ、いつも長い航路を一人っきりだから、飽きるまでね・・・本当の話が一番面白い」
「大賛成だキャプテンヤーマ」ヴェルガはヴェルガで貴重な体験をしていた。
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