第7話郷愁と感心


 険悪では全くないが、良好には遠い雰囲気が呼び込んだのかも知れない。ドアが不意に開いた。


「ああ、これはこれは・・・宇宙の6人のうちお二人がいらっしゃるとは・・・光栄ですな、宇宙も落ち着きを取り戻したと言うことですか。ハハハ。私は」

彼は自分の名前と協会の何とかという役職を述べ、レース機を持ってきたのだと言った。

「ああ、キャプテンジャックはさすがにお上手ですね、うちの新人レーサーよりちょっと劣るくらいですか・・・短期間で・・・面白いレースになりそうですね。そうそう、今回は賭けになっているんですよ、 皆さんはそうかできませんが・・・でも内密になら・・・承りますが。実は私も特殊空間航路のパイロットに一度は憧れましたが、なにせ・・戒律が厳しすぎて・・・私には無理でしたよ。でもレーサーになってよかった。あなた方もレーサーであればもっと人生を楽しめたのでは、とね・・・」


一人で喋っていた。あれだけ勢いづいていたサマーウインドもポウも黙ってしまって、明らかに作り笑いをしていた。

ヴェルガも何かがおかしいと思っていた。今まで会ったことのないタイプの人間だった。それが何なのかずっと考え、そう長い時間6人といたことはないが、その時に会った別の人間と比べてみた。


「感謝の気持ちが全くない」


 彼らに一般の人間が会うと「貴方が薬を運んでくれたから、私の妻が」と泣きながら言う人もいたし、「私の知り合いが医療星へ運んでもらって」「あの種を運んでもらえたから、食料危機が救われた」そう言われ続けていた。

「すごいな」キャプテントミに言ったら


「全部できたわけじゃないよ、感謝されるのは上手くいったからで、そうじゃない人は、俺たちの顔も見たくないかもな、ヴェルガ」そう答えた。皆何かしらその思いがあるのだとジャックは言っていた。


「有名な整備の方がここにいらしていると」

「いえね、彼が「私が行った方が公平に公正にやっている証明になるだろう」ということで、私達もしぶしぶですよ・・それに、ああ、申し訳ありませんでしたね・・・若い子というのは思ったことをすぐ口に出してしまう、私達のしつけ不足で」まるでつけ加えるように言った。ヴェルガはこの男をキッと睨みつけると、その視線に気づいたのか


「貴方はキャプテンジャックのヴェルガですね、噂はかねがね」

そのあと、はっきりとしたヴェルガの声が部屋に響いた。


「私にとってはアースもクリームもボルトも先生だ。私はここで、そのボルトと同じことを言わねばならないのか、貴方に」その言葉に彼は驚いて、動きが完全に止まってしまった。

死線を何度も越えて航行する彼らに、口数の少ないボルトがこう言ったという。


「お前たちを悪く言う者は、よっぽどの馬鹿か、本当に心のねじ曲がった人間だ」

彼は足早に部屋を出て行った。


「人間は・・・・わからん・・・・」


吐き捨てるようにヴェルガが言ったので、サマーウインドがなだめた。


「いろいろいるんだ、ヴェルガ。パイロット訓練校で落とされてレーサーになったってやつもいる。もしかしたら彼はそうだったのかも知れない。落とされた理由が

「占い」じゃ泣くに泣けないだろう? 」


「貴方達の活躍を見て、自分もできると思うのか? 出来ないと思うだろう、普通は」


「わからないぜ、俺達より上手かったかも知れない、なあポウ」


「かもな、代わってやれるなら代わってやるよ。願ったりだ」


「キャプテンポウ、あなたまで・・・・」


「その代り、記憶も忘れたいことも全部つけてな・・・・・」

今まで見たことのないような、深刻なキャプテンポウの顔だった。


「すまない・・・・私も無神経だった。あなた方を責めて。これでは彼らと一緒だ」


「違うよヴェルガ、男って、人間の男って言うのは生まれつきプライドの高い生き物なんだよ、早々他人を認めない」


「他人を否定することがプライドなのか? 」


「・・・・・ヴェルガ・・・もしジャックに何かあったら俺の所に来ればいいから」


「その次俺! 」


「ジャックと一緒じゃないか! 」


「多いぜ、ああいう大人は、どんな世界でも、なあポウ、生まれつきのプライドをそのまま持っているやつ。他人から傷つけられるのが死ぬ程嫌なんだ」


「そう、そう、だったら自分で一回崩せばいいんだ。まあ俺達の場合、グリーンとヤーマが半分以上やってくれてたけどな。それから本当に自分で作り上げる。俺達が訓練校でそうやり始めて、宇宙で何とか形になったように」


「大人・・・なんだな・・・・」


「尊敬した?」

ヴェルガは声もなく頷いた。


 ジャックがデッキに戻ったようだったので、三人は仲良く彼の所に向かった。ジャックは例の整備士と話していて、ゆっくり近づくと、ジャックが


「キャプテン方、この方は花星ご出身だそうで」

そう言った。整備士は近寄ってポウとサマーウインドの手を握り半分泣きながら言った。


「どうも有難うございます。あなた方のおかげで、どれだけ沢山の命が救われたか・・・・もしワクチンを届けてくださらなかったら、あの星は「花の咲かない星」になっていたでしょう。実は私はもともと特殊空間航路の船の整備がしたかったのですが、どうしてもその頃は、とても狭き門で入れませんでした。今はレーサー機に愛着を持っていますから、私としてはあなた方に会うこともできて、キャプテンジャックのお手伝いも出来るなんて本当に光栄です」


「でも、レーサー協会から睨まれるでしょう? いくらあなたでも」サマーウインドは気遣った。

「いいんですよ、私は年です。それに今日来たばかりなのに、総司令部がそのままここに残って、実験艇の整備をやってもらえないかと。定年後の就職活動をしにきたわけではないんですが」みんな笑った。そしてその笑いが収まって、もう一度彼が話し始めた。


「今回の事は本当に申し訳ありません、ただ分かって頂きたいのはレーサーの中にも整備の、協会の中にも、あの発言に心を痛めている者が大勢います。例のレーサーに食ってかかった若いレーサーもいたんです、報道はされていませんが。私がここに来たのは一応それを知っていただきたくて」


「わかっています」ポウが答えて、ジャックのほうを向いた。


「ジャック、すまなかったな・・迷惑かけて。小型艇はちょっとコツがある、俺が教えられるところは教えるから」


「私は回路を見ようか? ちょっと反応が遅くないかジャック? 」


「そうなんだヴェルガ、見てくれるか? 」


「ちょっと強めの電気を流して癖をつけようか・・ああ、回路の専門家も来ていたな」


「お願いしますヴェルガ、私は機械専門なので・・そのことは本当に、だめなのですよ・・・」

それぞれ仕事をし始めた。何か雰囲気が違うとジャックは思った。


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