第5話盗聴と兄弟


「やあ君! 」

ジャックは訓練校生の入った店で彼に声をかけた。

少し後ずさりするような感じだったので、小さな声で


「驚いた? 俺は反ヴェルガ組織の人間じゃない、ほら」

彼の胸ポケットには生徒の認識カードが入っていて、ジャックが船長の腕時計をそこにかざすと、「ピン」と音がした。昔反ヴェルガ組織が特殊空間航路のパイロットを装って、訓練校生をさらおうとする事件が起こったので、その対策に講じられた手である。

「あ・・・・の・・光栄です・・・この音は2Sの音ですね・・・」Sと2Sでは音の高さが違う。3Sの音はない、持っている人間が少なすぎるためだ。

「どう? 食事でも、おごるよ」

「え、でもなぜ? 」

「さっきから見てたんだよ、それで聞きたいことがある」二人は店を出て、ジャックは車に手を振り、食事をとれる店に入った。


「食べなよ、どんどん、心配しなくていいから。それこそ俺達は星間レーサーじゃない、狭い所に入るために痩せなくてもいいんだから」「はあ・・・・」個室とはいかないが間路切りがあって、両隣りには見えない、声も聞こえない席に二人は座った。

「いくらでも食べられる年だろう? 」「はあ・・・・」遠慮しているというより、さっきの事が頭から離れていないようだった。

「何であんなことされてるんだ? 」


「知らないんですか??! 」


責めるように言われてジャックはたじろいだ。


「僕らは今度何か起こしたら退学です! なのにあいつらは・・・ただの注意で・・・だから皆なるべく外に出ないようにしているんです、僕は、どうしてもいる物があって買いに来たんですが・・・」

「そうか、でも問題は君が下を向いて歩いていたことだ」するとピピピと時計が鳴った。


「ヴェルガ」ジャックは心の中で呟き、言葉を続けた


「そんなさあ、暗くうつむいてると、訓練にも気合いが入らないだろう、だめだぜ」

さっきの音は口調が自分のものに戻っている、というヴェルガからの厳しい警告だ。


「もしかしたら、学校中そんな感じ? 」

「・・・・・なんか変な感じで、みんないらいらしてて、生徒同士が・・・」

「そこまでなってるの? 」

「あいつらひどいんです! キャプテンジャックなんて、ただのコピーされたロボットみたいって言うんです! 3Sがどんなにすごいか分からないくせに・・・校長先生なんて、あの事件のあと泣きながら僕らに話してくれて・・・」彼も少し泣きだしてしまった。

「なあ、若いから言葉で傷つくのは分かるけど、人の言うことをいちいち気にしてたら、特殊空間航路なんて飛べないぜ、言うだろう? 自分の心の闇だ、他人のじゃない、他人に振り回されてどうする? 」

「あ・・・・・・」

「わかったか」

「違いますね・・・・言われることがぜんぜん・・・2Sってすごいんですね・・・・」

「そうでもないけど」

「あの・・キャプテンジャックに会ったことは・・」

「う・・・ん会ったというか見かけたことはある、俺は空域が違うから」

「やっぱり全然技術が違うんですか? 」

「あ、まあね、3Sだから」

「3Sは早くも飛べるんでしょう? 」

「早さは競わないよ、俺達は危険レベルの問題だから、星間レーサーとは根本的に違う、そうだろう? コースと、何が起こるか予想は付くがそれが完全じゃない所を飛ぶんだから」

「じゃあ、特殊空間航路のパイロットの方が優れていませんか? 」

「そういう問題じゃないよ」

「だって航路安全局には小型艇で特殊空間航路を通る人間がいるじゃないですか、やつら、それも否定して、俺たちの方が上手く出来るって・・・」

「いいじゃないか、言わせておけば。彼らは特殊空間航路には入れないんだから」「でも・・・悔しくて・・絶対キャプテンジャックの方が上手いのに」

「何が? 」

「パイロット技術ですよ! 僕親戚が航安のパイロットなんです。キャプテンジャックが、反ヴェルガ組織の船の攻撃の死角をずっと航行したって聞いたんです、そんなことできますか? 」確かに一度反ヴェルガ組織の船の砲が壊れていると気付き、攻撃ができない場所を探しだして、そこを「安全に」飛んだことはある。

「でもそれは、違うだろう? 」

「速度が350って、星間レーサーの速度と変わらないじゃないですか」

「瞬間的にだ、彼らはずっとそれで飛ぶ、違うよ、訓練の仕方も何も、目的も、仕事内容も、比べることがどうかしているんだ」

「でも・・・・もし・・・レーサーと競争したら・・・」

「負けるに決まっている、他人の土俵で相撲を取って勝てる訳がないだろう? かといって彼らは特殊空間航路には入れない、勝負事態が不平等だ」

「負けてもいいんです」

「は? 」

「負けてもいいんです、僕らだって勝てるとは思っていません、ものすごい差がつかなければいいんですよ。友達に詳しいやつがいて、もしストレートのタイムレースをするんなら、通常コースで20秒差だったら僕らの勝ちです」

「何故? 」

「例のレーサーは勝つ時はそれぐらい離して勝ちます、ちゃんと訓練していないキャプテンジャックが二位なら・・・すごいことです。そいつが言うには、訓練年数、成長性、意識レベル、判断力などを数値化した場合、もし20秒以内だったら、星間レーサーとしてのキャプテンジャックは彼以上になるんです」

「ゲームみたいだな・・良く分からないが・・・つまり20秒と言うのは訓練年数の差ということか? 」

「そういうことだろうと思います、レーサーの学校の生徒は勝って喜ぶかもしれませんが、僕らはそうじゃない、20秒それに近ければいいんです。そいつが今の時点で出してる予想では25秒って」

「負け・・・だろう? 」

「そうでもないですよ、立派です、そいつが言ってたんです。総司令部の高速実験場でやれば、全く浮遊物もない、危険物もない、キャプテンジャックは船の安定性が抜群にいいからそこでやれば、きっともっといい結果が出るって」

「彼も出すだろう、いい結果を」

「そうかもそれませんが、でも、その・・・・」

「見たいの? 」

「見てみたい・・・です。そうすれば僕らも自信を持って街を歩けるかなって・・・」

「しない・・・だろうね」

「どうしてですか? 」

「意味がない、やるべきことがいっぱいある、特殊空間航路のパイロットには。それに・・・ジャック・・・には今ヴェルガがいるだろう? 」

「聞いてます、聞いてます、なんでも医学も電気も機械もできるとか、信じられないけど、でも友達の親が医療星で会って、すごく良い医学ヴェルガでって。それなのに反ヴェルガ組織の船の回路に入って止めたとか」

「ヴェルガを持つ者は無茶はしない、できない、パートナーのためにも。わかった? 」

「そうですね・・・そんなヴェルガを育てているんなら・・・・忙しいですね・・・・」納得したようだったので

「食べなよ」

「ハイ・・・ありがとうございます」

自分も訓練校時代こんなに食べていたかと思うほど、見ていて、気持ちがいい食べっぷりだった。


「お帰り、ジャック」

「面白かったかい? 」

「まあな、いろいろな人間がいるのだな」

「若いから、そういうもんさ」

心が晴れて二人は仕事に戻り、また別の星に降りた。


「今日こそは郊外でのんびりしたいな、ヴェルガ」

と言って同じような感じで車を止めると、前から下を向いた訓練校生がやってきて、後ろからちいさな物が飛んできている。元をたどるとこの前見た制服が同じように数人。宇宙に二つしかない星の二つ目だ。


「ジャック! 彼らはお互いがこの前の星の兄弟同士なのか? 全く同じことをしているが? 」

「はぁ・・・・・」ジャックは出て行かなかった。

「ジャック・・・・・まさか何か良からぬことを考えているのじゃないか?」

「実験場なら危険物はない・・・多分・・・死ぬことも・・・・」

「冗談じゃない! 私は何のために能力を伸ばしたのだ? そのあなたが危ないことをしてどうする! 」

「訓練校生全員に同じようにするわけにはいかないだろう?そんなに給料もないのに・・・・」

「ジャック!! 」

「はぁ・・・・・」


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