第4話学生と派手


 キャプテンジャックの予想通り、総司令部から謝罪要求、協会に対し、懲罰金、税務局からの査察が入った。穏やかな花星の人々は怒り「彼らの運んでくれたワクチンで私達は救われた。きちんと6人のパイロットに謝罪を」と求めた。謝罪会見は行われたが、涙を流しながら原稿を読んでも、伝わる気持ちは少なく、そのあと笑っていたとかなんとかいう噂もあって、ジャックの心は晴れずにいた。その後しばらくしてキャプテンサマーウインドと話すことがあり


「いいんだよ、ジャック、お前がそんな暗い顔してどうする? 俺達はアースのやってくれたことで十分だ。ヴェルガ、見習えよ、カッコいい先生を」

「見習ってるよ、この話をする時の記録は全て消してある。あとはキャプテントミの船だけだ。明後日会うからやっておく、こんなことに力を使いたくないのに・・・」

「お願いしますヴェルガ様」

事件はこれで終ったものだと、大人は思った。


 しかしこの世を構成しているのは様々な年齢層であり、大人に近く、子どもの力ではないものを持っている人間と言うのは、何故か不安定になりがちである。そして思った通り、宇宙にたった二つしかない、パイロット訓練校と、星間レーサー養成学校がともにある星で「衝突」が起こった。双方とも暴力沙汰はご法度であったが、ここで大人が重大な失態を犯す。星間レーサーの言葉に怒り頂点に達していた訓練校の教師たちは

「彼らに関わってどうする! いいか、今度こんなことを起こせば即、退学だ! 」と言ったのに対し、養成学校では厳重注意、で留まったのである。もし二つの学校の大人たちが処罰について足並みをそろえていたのなら、わざわざジャックが出て行かなくともよかったのかもしれないが、お互いが連絡を取ろうとするはずもなく、生徒達にとって極めて不平等なこの結果は、火種をくすぶらせるだけのこととなった。


 ジャックは宇宙を飛び回っているが、そんなに全ての星の事を知っているわけではない。自分が興味のあることは専門家並みに詳しいが、人が当然のごとく知っているようなことが、すっぽりと欠落している。ヴェルガもパートナーになってすぐにそれに気付いたが、しかしそれは生活には直接何の影響もないことで、二人とも全く気にはしていなかった。

ある星に降りて車を運転している時のことだった。


「店で食事をしてきたらどうだ、ジャック? 」

「一人で? 」

「眼鏡、サングラスと言うのは古くからあって、便利なものだから存在していると思えたよ。簡単に変装できる、人間はいいな」

「何か買って、郊外の景色の良い所で食べよう、のんびりと」

「君がいいならいいが」

そんな風に話をして、食事を買おうと車を止めたときだった。

歩道の向こう側から、パイロット訓練校の制服を着た男の子が下を向いて歩いて来る、時々チラッ、チラッと後ろを見る素振りをして。すると彼の頭に何か小さな木の実の様なものが当たって、「ハハハハ」笑い声がした。よく見ると彼の後ろに、数人の同じ服を着た若い男の子がいて、ジャックは記憶をたどりながら、それがやっと星間レーサーの養成校の服だと気付いた。同じことはずっと繰り返され、物は木の実から少しずつ大きくなってきているようで、当たらずに落下した音が道に響いていた。


「何だ? あれは? 」ヴェルガは生まれて初めて見る光景に戸惑い、ジャックを見た。

「からかわれているんだよ」訓練校生は身を隠すように、ある店に入って行った。ジャックは、私服ではあったが、サングラスをかけ、わざと髪を乱し、目に入った衣料品店で、ショーウインドウに飾ってある、およそ自分の好みではない、派手な服をサッと買って車で着替えた。

「ヴェルガ、ちょっと待っていてくれ、悪いけど車で食べていてくれるか? 」

「いいが、何をするのだ? キャプテンウナバラの様な格好をして? 」

「ちょっとね、聞きたかったら聞いてもいいよ、腕時計はオープンにしておくから」

「そう・・・・・」要は盗聴状態である。ヴェルガは食べながら聞くことにした。

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