第3話暴露と大会



 時折宇宙が静まりを見せ始めると、賭けの対象ではなく、宇宙の広い範囲と分野に経済的な効果をもたらし、さらに安定を見せる特殊空間航路を人々に知らしめるためと、総司令部は「エン・ラン全宇宙大会」の再開を宣言した。

これに対し星間レーサー協会は猛烈に抗議した。しかし様々なボール、特に決まりのない選手の競技服から、今の科学技術の粋を集めた義手、義足までの宣伝、販売を促すからとの理由を総司令部が掲げたので、彼らはしぶしぶ納得せざるを得なかった。しかも「優勝者、森のハーナとキャプテンビューティーの恋」は「どうなるかしら・・」という人々の不安をよそに、一年後のエン・ラン大会の会場で結婚式を行うという、一大イベントになった。


「公私混同」協会はそう書面を送って、総司令部はしぶしぶ彼らの要求を受け入れたが、時すでに遅しなのか、宇宙大星間レース大会は、期待したような盛り上がりも、収益も上げられなかった。しかも徐々にではあるが、特殊空間航路を使って行く娯楽が復活してくると、急降下するように星間レースは人気が落ちて行った。一方特殊空間航路のパイロットの方は人気が衰えず、天才的若手パイロットと久々のパートナーのヴェルガが登場、しかも電気ヴェルガとして極めて優秀とくれば、幼い子供達は「特殊空間航路のパイロットになりたい」

と口にするようになり、また6人の技の集大成の様なジャックと言うパイロットがいて、どうも彼もヴェルガを持ち、そのヴェルガの能力が常識を覆すかも、とささやかれるようになると、特殊空間航路の安定と共に、人々は明るいその話題に熱中した。


  天才的な二人、しかし面白いことに、星間レーサーの世界でも「超天才児」が現れた。記録を次々に塗り替え、難易度の高いコースを見事に一っ飛びし、一大ヒーローは星間レース界の救世主であった。人々はまたこの世界に興味を持ち、彼の勝ちっぷりに酔い知れ、負けることが少なかったから賭けとしては面白くはなかったが、協会の収益金は上がっていった。当然彼は周りの人間全てから持ち上げられ、生活も派手になり、周りにはボディーガードと女の子が同数いるような感じだった。年齢はジャック達より若く、それ故に、尚更だったのかもしれない。


「面白くないよ、一人勝ちなんて、みんなに頑張ってもらわないと」レースに負けると

「わざとじゃないよ、たまたま調子が悪かっただけ、今度は絶対勝つ」勝つと

「俺は有言実行だよ、こう見えても努力家なんだぜ、キャプテンジャックだけがそうじゃない」と、一度キャプテンジャックの名前が出てしまうと、芋蔓式に言葉を出すようになった。

「そうだなあ、キャプテンジャックぐらいのライバルがいたらなあ、おもしろいんだけど」

「特殊空間航路のパイロット? なろうと思ったことはないね、でも出来るだろう、簡単に。何なら勝負してやろうか? 特殊空間航路でキャプテンジャックと」

「勝てるか? 当り前だろう? レーサーだよ俺たち。命がけの技術、見せてやるよ」

周りが煽りたてたせいもあるだろうが、とうとう、言ってしまった。


「3S? 大したことないんじゃない? 本当に特殊空間航路が荒れてたの?信じられないよ。腕がよっぽどないか、幻でも見てたんじゃないの・・・・・」



「アース! うるさい! 」

「やめろ! カズ! レーサー協会に行ってどうする? 」

「すぐそばなんだよ! 謝らせてやる! 許せるか! こんなこと! うわっ、アース! 緊急停止させたな! 」

「お前の軽はずみな行動で、事がもっと大きくなってしまう、落ちつけ! 」

「お前こそ知らないんだ、荒れてた時の怖さを! 」

「お前は越えた回数も少ないじゃないか! 」

「・・・・・」

「6人やキャプテンジャックが言うのなら分かるが」

「・・・・・お前最近言うこときついぞ・・・・・」

「とにかく、落ちつけ! 話そう、キャプテンジャック達と」


ニュースでスキャンダルのように報じられたこの発言に、ジャックは何も言わず、「何ということを」ヴェルガの方が呟いた。そしてアースから通信が入った。

「キャプテンジャック、言ってやってくれ、カズが・・・・悪いことに協会本部の星の近くで・・・・・」ジャックはゆっくりと言葉を考えながら言った。


「カズ、私達が怒ったって仕方がないよ、キャプテン達がそうするならわかるけれど。でも多分、すぐに総司令部から警告なり、謝罪要求なりがあるだろう」

「ジャックは落ち着いてるな」

「そばにあるから尚更だろう? 空域から離れた方がいいよ、逆に何を言われるか分からない、色で2Sの船だって分かるから」

レベル7・8を数回超えると船体の塗装の色がくすんだ銀色になる。ジャックの船も、6人の船もそうである。

「そうだな・・・・・そうする」



通信を終え、カズは空域から離れようとした、すると

「カズ、星のそばの通信衛星の横をゆっくり飛んでくれ」

「え? 離れるんじゃないのか? 」

「いいから」アースの言う通りにすると

「もういい、離れてくれ、あんまり早くなくていい、自然に・・・」またその通りにするとアースはしゃがみこんだ。

「アース? 何か力を使ったのか? 」

「ロックがかかってたからな・・・ちょっと面倒だった」

「何をした? 」

「協会の裏帳簿を表に・・・税務局に送った」

「ハハハハ! さすが三大ヴェルガの最後の一人アース様だ! 」

「その命も短そうだ、歴史は繰り返すだよカズ、私はお前のヴェルガにふさわしいかも」

しかしまだまだ、アースの時代は続く。

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