その7 『草指輪の約束』

お題……「草」「指輪」「新しい流れ」

ジャンル……「指定なし」


 昔々、とある国では、恋人同士の約束事に『草で編まれた指輪を交換する』という風習がありました。

 使うのは猛毒の草で、もしも約束が破られてしまうと、破った方の人間は死んでしまうと伝えられています。


 だから、草指輪の約束は、何よりも大切なものなのです。


 その日も、国の外れにある草原で、草指輪を交わす二人がいました。


「明日、とうとう革命が起こる。だけど僕は絶対に生きて、君の元へ戻ってくるよ」


「……はい。待っています」


 この国では、とても強欲で民の事など少しも考えない王族に業を煮やした民衆が、革命を起こそうと動いていました。

 神の啓示を受けたという聖女に率いられた民衆は、今か今かとその時を待っています。


 そしてとうとう訪れた革命の前日、つまり今日に、二人は約束を交わしたのです。

 革命は無傷では終わらないと、二人はよく分かっています。

 きっと、王族側も、民衆側も、多くの人が死ぬでしょう。

 それでも、革命がどのような結果であれ、必ず帰ると。


 その時まで青年は固く決意していました。


 ……だけど。


「……どうして、君が」


 王とその家族を乗せた馬車から、青年が顔を出しました。

 彼の目の前には、草指輪を交わしたはずの少女がいました。


「初めまして、王子様。私は神の啓示により民の自由を導く者です」


 それが、王子と聖女の出会いでした。

 驚きで動けない王子を斬るために、聖女は腰に下げた剣を取りました。


「貴方達王族は、余りにも民を虐げすぎた。今こそ、裁かれる時です」


「待ってくれ!!」


 王子は馬車から飛び降り、聖女の前に立ちました。


「どうして君がそんな……! 僕に近づいたのも、それが目的だったのか!?」


 王子の言葉に、聖女は少し揺れましたが、ぐっと堪えて言いました。


「……さあ、何の事かしら? 少なくとも、私が貴方を好きになる事などあり得ません。貴方は民の、そして私の敵です」


「……分かった」


 それを聞いた王子は、王家に代々伝わる剣を抜きました。


「ここで、決着を付けよう。僕が勝ったら、皆を見逃してくれ」


「ええ。いいでしょう。ですが、私が勝った場合は、罪を償っていただきます」


 見つめ合う二人は、風が木の葉を転がした音で同時に踏み込みました。

 剣がぶつかる鋭い音が、静かに響きます。


 ……先に倒れたのは、王子の方でした。



「やったあ! さすが、聖女様!!」


 次の瞬間、周りの茂みに隠れていた民衆が一斉に出てきました。

 ある者は馬車から王様達を引きずり出し、ある者は聖女を讃えます。


 聖女はそれらの喧騒を全て無視して、王子の亡骸に近づきました。

 そして、何故かその亡骸を抱きかかえたのです。


「聖女様……? し、死んでる……!?」


 聖女に駆け寄った男性が声を上げました。


 聖女は、すっかり冷たくなっていました。

 その小指からは、草指輪から滲んだ毒液と血液が混ざったものが流れていました。

 それは王子の草指輪と繋がり、まるで運命の赤い糸のようでした。


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