その6 『絶対領域欠乏症』

お題……「島」「金庫」「きわどい世界」

ジャンル……「純愛モノ」


 今からそう遠くない未来。

 行き過ぎた校則は、ついに絶対領域をも「欲情を誘う」として禁止した。

 そして何をとち狂ったのか、国家もそれに倣い『絶対領域禁止法』を制定。

 世の中にあったニーソックスと絶対領域にまつわる物は全て、とある無人島の巨大金庫に隠されてしまった。


 それから数年後、謎の病がにわかに流行りだした。その原因は──


「ぜ、『絶対領域欠乏症』?」


 あかりは素っ頓狂な声を上げた。目の前にいる医者は、いたって真面目に言う。


「絶対領域が禁止されてしまったせいで、萌えが不足してしまったんですな。数ある萌え欠乏症の中で、今現在、最も危険な病です」


「そんな……」


「心も絶対領域も、かなりきわどい世界ですから……」


「そんな事はどうでもいいです!!」


 激情に身を任せて立ち上がると、燈は医者を揺さぶった。


将貴まさたかは、将貴はどうやったら元気になれるんですか!?」


 二重顎を揺らしながら、医者は深刻で残酷な事実を告げる。


「それはもちろん、絶対領域を摂取するしかないでしょう……。ですが、この国でそれが出来ない以上、外国に渡るしかありません。しかし、『洋モノの絶対領域では萌えない』とそのまま死んでしまう人もかなりいます」


「ああ……嘘……」


 燈は深く項垂れた。確かに、将貴は黒髪で大和撫子なミニスカニーソ姿が好きだった。

 何故、茶髪でガサツ、更にくるぶしくらいの靴下しか履かない自分を好きになったのか分からないほどに。


 髪なら、染めればいい。性格も、頑張れば直せるだろう。……だが、絶対領域だけは。


「私には、何も出来ないの……!?」


 燈の目に一筋の涙が光る。愛する人の命の危機に、何も出来ない自分が悔しかった。


「せめてニーソさえあれば……!!」


 それを聞いて、医師は牛乳瓶の底のようなレンズをした眼鏡の奥を光らせた。


「ニーソ……欲しいですか?」


「えっ!? でも先生、ニーソは……」


「はい。ニーソは現在、製造禁止で出回っていません。ですが……。いえ、これは見た方が早いでしょう。ついてきてください」


 燈は医師の後を追う。すると、病院の地下に辿り着いた。


「先生、ここは……?」


「実は、島の監視人と少しだけ繋がりがありましてね……」


 そう言うと、医師はそこにある奇妙な塊にかけられた布を取った。


「こ、これは……!?」


「貴方の望んだ、ニーソとミニスカです」


 そこには絶対に手に入らないはずの、絶対領域を構成する二つの神器があった。


「これを使えば、貴方の恋人はすぐさま元気を取り戻すでしょう。ですが……」


 見つかれば、燈は捕まってしまうだろう。

 だが、燈は迷わなかった。


「私、履きます。履いて……、絶対領域を、彼に見せます!!」


「……その覚悟、しかと受け止めました」


 医師は将貴を連れてくると言って、部屋を去っていった。

 燈はミニスカニーソと向き合う。


「待っててね、将貴。私今から、貴方の絶対領域になるよ」



「……先生、ここは?」


 車椅子に乗った将貴が、医師と共に部屋を訪れる。


「貴方を治療するための部屋です」


「こんな所で、一体どんな治療を……?」


「百聞は一見に如かず。──いざ、スイッチオン!!」


 医師が照明のボタンを押した。

 スポットライトがを照らし出す。


「あ……燈!?」


 将貴の目の前には、ミニスカニーソで絶対領域を作った燈がいた。


「お前、なんでそんな……」


「私、将貴のためなら捕まっても構わない。何度でも、貴方のために絶対領域を作るよ」


「燈……!!」


「将貴……!!」


 二人は強く抱き合った。


「……うむ。やはり、ミニスカニーソの絶対領域こそが至高……」


 後ろで医師が大きく頷く。

 ここにまた一組、絶対領域により救われたカップルが誕生した。


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