その3 『窮魅中学校 墓守物語』

お題……「東」「墓場」「最強の中学校」

ジャンル……「学園モノ」


 現在2999年! つまり世紀末!!


 暴力が支配するようになった日本改め極東帝国ごくとうていこくの帝都には、何人もの総刕大刄そうりだいじんを生み出した最強の中学校、その名も『帝国立窮魅きわみ中学校』があったッッッ!!


 これはそんな窮魅中学校の裏門、志半ばで散った学生の墓場にて──


「今日も暇だ。ま、いい事なんだろうけど」


 墓守を務める男の物語であるッッッ!!



 この墓守、名は無い。否。誰も知らぬし、彼自身一度も名乗りを上げていないというのが正しい。

 彼はただ一人で、墓場が荒らされないように守っている。

 故に墓守。代にして十一代目。

 血縁関係ではなく、学生の上下関係のみで紡がれた歴史ある役職である。


 墓守の主な仕事は三つ。

 一つ、運ばれる死体の埋葬。

 二つ、墓場の維持管理。

 そして三つ──


「よお、墓守ィ……」


「…………」


 【来客】への、【もてなし】。


 窮魅中学校の墓場に来る者は、その殆どが死体である。

 墓参りなど無い。何故ならば、ここに入学した時点で待っているのは、栄光と死の二択しかないからだ。

 栄光に辿り着けなかった敗者に用はない。世紀末あるあるである。


 つまり訪ねてきたこの男は、


「さっき運ばれたヤツがいるだろォ……? 墓まで案内しろ……。取り損ねたんだよ……【証拠】をよォ……」


 窮魅中学校にて、敵を討った【証拠】──即ち【第二ボタン】を求めてやってきた不埒者である!!


「ここに運び込まれる前に、【証拠】くらいさっさと取っとけよなー。知ってるだろ? 一度埋葬した死体は掘り出せない。例え討ち取った本人でもな。学生手帳、読んだか?」


 頭を掻きながら、気だるげに墓守が立ち上がる。腰掛けていたのは名も無き墓石。

 その手に武器は無い。見た目は2010年代に見られた、平凡な中学生そのものである。


 対する男は巨躯。手にはめられているのは血染めのナックル。背を丸め立ちはだかる姿は熊を通り越し、まるで山のようだ。


 男がガチガチとナックルを擦り合わせる。威嚇だ。

 チキンならば、既にションベンを漏らして逃げ帰る殺気だが……


「うるせーよ、バカ」


 墓守は不動だった。恐怖に汗をかく様子もない。


「どうやら、度胸だけは一人前らしい……。だが武器も持たずに、この窮魅中学校三年、第二ボタン二百個持ちの伝説剛力山鋼牙ごうりきざんこうがに勝てると思うなァ!!」


 男が駆ける。巨体に不釣り合いな俊足! 見る見るうちに墓守と距離を詰め、地を蹴り飛び上がった!!

 その幅およそ二歩! 高さは墓守二人分!

 落下の衝撃と怪力の前に、赤い花となって地面に咲くのは必至!!


 だが墓守は未だ不動!

 やはり彼も、圧倒的力の前では無様で無力なチキンだったのか──!?


「なあ、いい事教えてやろうか」


 ──結論は、否である。


 墓守はゆっくりとしゃがむと、先程腰掛けていた墓石の下、地面に手を伸ばした。

 そこに飛び出す小さな十字架を、人差し指と親指で摘まむ。

 そして、【それ】を引っ張り上げた。


「な、なんだ……それはァ!?」


 未だ上空にいる男が、驚愕に目を見開く。無理もない。


 それは──


「この学校で、一番総刕大刄に近い役職を。それは生徒会長でも、風紀委員長でもない」


 死神の如き──


「俺達、【墓守】だ」


 巨大な、鎌!!!


「冥途の土産に教えてやるよ。【こいつ】を仕舞っていた墓石は、お前の物だ」


 墓守は自身の身の丈を超える鎌を持つと、片手で野球バットのように振るった!!


「ナンバッ」


 男の首と胴体が鮮やかに離れる!!

 爆ぜた血は辺り一面を赤く濡らしたが、鎌を振り回して避けた墓守の学ランには一滴もかからなかった。


「……あー、今回も暇だったな。まあ、いい事なんだろうけど」


 左に墓石、右に首の無い巨大な死体を持ち上げ、墓守は墓場の奥へと消えていく。


「おっと。第二ボタンは取っとかないとな」


 ブチリと無造作にむしり取られ、彼の物となった第二ボタンは、これで千二百枚目。


 序盤の言葉を訂正しよう。


 これは窮魅中学校の裏門、志半ばで散った学生の墓場にて──


「早く放課後にならねーかな」


 墓守を務める、史上最強の男の物語であるッッッ!!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る