その2 『スイーツ・テンプテーション』
お題……「陰」「プレステ」「ゆがんだ廃人」
ジャンル……「スイーツ(笑)」
コンコン
「ご飯……置いておくわよ」
ドアの向こうから声がする。無視。声帯を使う暇があったらボタンを押す。
あー、リアルの返事も選択肢から選べりゃ楽なのにな。
そう思いながら中ボスの長ったらしい説教をスキップする。
興味ないから、バトルだけさせてくれよ。どうせつまんないんだからさ。
高校に馴染めずに引きこもってから、何年経っただろうか。
もう三年目で数えるのを止めてしまった。今や、先公も親も何も言ってこない。
まあ、どうでもいいけどさ。
ネットもロクでもない奴らがロクでもない話題で集まってるだけでつまんねえ。
だから型落ちのプレステで、こんな昔のRPGをプレイしている。
ガキの頃はこんな陳腐なストーリーで感動できたんだから、単純だよな。
今じゃ鼻で笑えるぜ。
中ボスを余裕で倒したところでセーブしてコントローラーを投げた。
はあ、もう何もかもつまんねえ。いっそ、死んじまおうか……。
退屈を紛らわせるための雑誌を探して視線を泳がせていると、あるゲームのパッケージに吸い寄せられた。
散らかった部屋でも分かるほどのパステルピンク。
「……?」
全くもって部屋に似つかわしくないそれに手を伸ばすと、少女漫画じみたキャラクターが現れた。ゴチャゴチャして読みづらいが、『スイーツ・テンプテーション』というタイトルが辛うじて読み取れる。
「スイーツ・テンプテーション……?」
そんなゲーム、買った覚えも見た覚えもない。そもそもジャンルはなんだ?
ギャルゲー……にしては、ヒロインらしいキャラは、パッケージにデカデカと描かれた金髪のギャルみたいのしかいない。
裏面を見てみると、『憧れのスイーツ女子になっちゃおう!』という売り文句。
どうやらこいつは、ギャルの生活を追体験するゲームらしい。
「バカバカしい……」
部屋の隅に捨てようとした手が止まる。
何故だか、このゲームは遊んだ方がいい気がしてきた。
……未開封だし、昔テキトーに買って放置してた積みゲーの一つだったんだろう。
今あるゲームは全部クリアしちゃったし、まあ、一回くらいは……。
おそるおそるビニールを破る。取り出したディスクをハードにセットして起動した。
『スイーツ・テンプテーション!!』
キンキンに高い少女の声がタイトルを読み上げる。ボタンを軽く押して進んでいくと、キャラメイク画面に辿り着いた。
ランダム作成にすると、かなりの美少女が出来上がった。……悪くない。むしろいい。
『○○〇! 原宿いこーよ原宿! ●●っていうお店のクレープがおいしいんだって!』
どうやらこの茶髪の女の子が友達……ナビゲーターらしい。
>うん! いこーいこー!
そう答えると、ミカは笑顔で答えた。
『そうこなくっちゃ!』
それから、ミカとゥチゎふたりでめちゃ×2遊んだ……。
学校ゎ、とてもたいくつだったケド……、ミカがいれば毎日がキラキラしてた……。
ミカとゥチはズッ友だょ……!!
ってゅったのに、ミカはいきなり、学校をゃめた……。コドモができたって……。
ゥチはショックだった……。
ミカのいない学校なんて、ぜんぜんっまんないょ……!
ゥチは学校をサボって、あちこちウロウロしてた……。すると、イケメンが話しかけてきた……。
『キミ、カワイイね。イイコトしない?』
ゥチはカレとホテルに行った……。でも、カレはホストだった……。
ゥチはヤクを打たれて死んだ。
スイーツ(笑)
DEAD END
「ゲーム……終わっちゃった……」
またヒマになっちゃったょ……。
「あ、そうだ……」
……ミカと一緒にタピオカ買いに行かないと……。
完
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