第三十八話 求愛もしくは神託


「そ…そいづはどうゆう……」


 大地は思わず暮葉に尋ね返した。


「わたくしの手当はあくまでも一時的な処置に過ぎません。

 風巻さまが風の業を遣えば、肩の腱は切れ、二度と刀を握れなくなります」


「そ…そだなこと……」


 風門流の業を遣わずして対戦相手に勝てるのか?


「理外の剣は体と魂に負担をかけます。それはおわかりでしょう」


 暮葉がたしなめるような口調になって大地にいった。肩に瓦の破片を受ける前から、既に大地の体は限界を迎えていたのである。


「こうなったら理合いの内で闘うしかありません」


 要は通常の剣術で闘えということだ。風門流の業は飛び道具に過ぎない。


「風巻さまなら理合いの剣でも闘えます。だって、あなたは……」


 暮葉がまた間をためた。今度はなぜか恥ずかしそうだ。


「あなたは……なんだべ?」


「将来……わたくしの夫になるお方ですから」


「はあ?」


 唐突な求愛……というよりかはこれもまた、なにかの神託の一種かと戸惑っていると――


「やったーーっ、松浪さまが勝ったぞーーっ!!」


 幕舎の外で歓声が沸きあがった。

 準決勝第二試合は、松浪剣之介まつなみ・けんのすけ太牙虎之介たいが・とらのすけを打ち破ったようだ。

 これで決勝の大地の相手は松浪に決まった。

 と、そのとき――


 ガサ。


 幔幕の合わせ目が揺れて人影が走り去った。だれかがこちらをじっと見張っていたようだ。


「やっぱり、あいづだべか」


 人影の正体の見当はすでについている。


「ただのネズミに過ぎません。放っておいても問題はないでしょう、いまのところは」


 暮葉も武術会の裏で蠢く勢力には心当たりがあるようだ。


「とにかく勝つしかねえべ!」


 裏でどんな陰謀が蠢いていようが関係ない。松浪に勝って一馬を廃人に追い込んだ真相を聞き出す。

 いまの大地を動かすのはその一念のみであった。



   第三十九話につづく


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