第三十七話 禁じられた風


「お手伝いいたしましょう」


 暮葉はそういうと、右の手のひらを大地の右肩にそっと押し当てた。


「!――――」


 痛みがスッとひいてゆく。

 右手の握力がもどってきた。これなら木刀を握れる。


「タスキを替えて差しあげます」


 暮葉は大地の赤のタスキを解き、白いタスキをとって結び直した。

 ぐいと肩を引っ張られても全然痛くない。

 大地は立ちあがって木刀をとった。


 ブン


 と思い切り振ってみる。

 以前と変わりない。腕に伝わる力感も戻っている。

 大地は喜色を露わにすると暮葉に振り返った。


「み…巫女さん!」


暮葉くれは、と申します」


「あ…いや、暮葉さん、おら、なんといっていいか……」


 感激のあまり、大地が言葉に詰まった。


「礼はいりません。元はといえば、あなたのケガはわたくしを庇ってのこと」


 暮葉が落ち着いた口調で大地の礼を固辞する。


「それよりも次の試合、ぜひとも守っていただきたいことがあります」


「な…なんだべ?」


 大地が気になって先を促す。

 暮葉はひとつ間をおくと、ぴしゃりといった。


「風の業を遣ってはなりません!」



   第三十八話につづく


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