第三十四話 瓦版屋の謎


(竹光で角材サぶった斬るだか?)


 大地は戦慄を覚えると同時に納得した。これなら木刀でも同じことだろう。

 河田は剣王位戦に出場して光ノ太刀で星神道雪を斬殺するつもりなのだ。


 大地の傷口が開き、右袖から血がだらだらと流れだしている。


「素直に勝ちを譲ると約定やくじょうしておれば死なずに済んだものを……」


 河田が双眸に酷薄の色をにじませていう。


「愚か者めが!」


 再び右八双に構えた。

 大地は激痛に襲われ立ちあがれない。地べたを転がった拍子に扇子も放り出し手元にはない。


(こんなところで、おらは死ぬだか)


 まさに犬死にだ。これも師匠との約束を破った罰なのか?

 ……と、大地が覚悟を決めた、そのとき――


「火事だーーっ! 材木置場が燃えてるぞーーっ!

 大変だーっ、だれか、きてくれーーーっ!!」


 突然、叫び声があがった。


「火事だって?!」

「どこだ? 材木置場か?」

「消火だ。水桶を持ってこい!」


 ざわざわと人々の声が聞こえ、足音が響いてきた。


「チッ、運のいいやつだ」


 河田は竹光を鞘に納めると、


「よいか、次の試合、勝ちを譲るのだ。さもなくば必ず、おぬしを殺す!」


 そういうと風のように走り去った。

 大地が血まみれになった右肩を押さえ、なんとか半身を起こすと、瓦版屋の辰蔵が血相変えて駆けつけてきた。


大丈夫でえじょうぶですかい、大地さん!?」


 どうしてこんなところに都合よく……と、いおうとして大地は辺りを見回した。

 確か複数の声がし、複数の駆けつける足音も聞こえた。だが、眼前にあらわれたのは辰蔵ひとりだ。他にはだれもいない。


 大地は眉をひそめ低い声音で辰蔵にいった。


「おめさん、なにもんだべ?」



   第三十五話につづく


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