第三十三話 光ノ太刀


 河田がすらりと鞘走らせた刀身はなんと、竹製の模擬刀、竹光たけみつであった。


「フフフ。拍子抜けした顔をしておるな。だが、これではどうだ?」


「っ?!」


 大地は思わず目をみはった。竹製の刀身が陽の光を吸ってキラキラと輝きだした。まるで銀紙でも表面に張ったかのように。


「特殊な油を塗っておる。水鏡流みかがみりゅうに代々伝わる秘伝の術油じゅつゆだ」


 死に土産だといわんばかりに河田がタネを明かす。どうやら河田は水鏡流という流派の継承者のようだ。


「水鏡流は一子相伝。弟は他家に養子にだされ、そこで他流を修めた。

 水鏡流をほんの少しでも修めていれば、星神道雪ほしがみ・どうせつなんぞに後れをとることにはならなかったものを……」


 悔しげに顔を歪めていう。

 弟の無念を晴らす、その一念だけで河田はここまできたのだろう。おのれの真の実力を押し隠して準決勝にまで勝ち進んだのだ。


 河田が竹光を右八双に構えた。陽光を反射して眩いばかりに刀身が輝いている。


 大地は左手で大ぶりの扇子を抜き構えている。まだ開いてはいない。


「死ねい!」


 河田が叫んだ。刀身が輝きを増し、それは光の洪水となって大地に押し寄せた。


「!――――」


 目を潰さんばかりの大光量が世界を白一色に変えて眼前に広がる。

 受けも払いもできず、大地は左に跳んだ。

 土煙を舞いあげ、地べたをごろごろと転がる。

 ヒノキの角材が数本、真っ二つになった倒れた。まるで大なたでぶった斬ったかのような断面である。


「水鏡流奥義、光ノ太刀ひかりのたち!」


 勝ち誇ったかのように河田がいった。

 大地の右の袖口から鮮血があふれている。

 衝撃で傷口が開いたのだ。



   第三十四話につづく


 

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