第二十八話 弟子入り志願
「風巻さま、わたしを、わたしを弟子にしてくださいっ!」
あまりにも唐突な祐馬の申し出であった。
「お…おめさん……」
大地は戸惑うばかりで、どう返していいかわからない。
祐馬はさらに語を継ぐ。
「実は天下無双武術会、観衆に混じって密かに風巻さまの闘いを観戦しておりました。
あれはまさに人智を越えた神業。わたしに、あの風の業を教えていただきとう存じます!」
地面に額をこすりつけんばかりに平伏する祐馬を見て、大地は静かな声音でいった。
「おめさんは若槻一刀流じゃねえべか。一馬があんなことになったいま、若槻の業を継がにゃならんべよ」
この期に及んで他流を修め治す動機がわからない。祐馬がやるべきは自流の立て直しのはずだ。
「若槻一刀流の権威は兄によって地に堕ち、また、道場は叔父に乗っ取られて消滅しました」
祐馬が顔をあげた。顔は苦渋に歪み、目には涙をたたえている。
「大地さん……」
横合いから辰蔵の声がした。眉を八の字に垂れて、見るに
「弟子にしてやっちゃあどうです? その坊ちゃんがいうとおり、若槻一刀流はもうおしめえだ。いまのままじゃ、兄さんの仇は討てねえと思いやすぜ」
「一馬の仇はおらが討つだ!」
大地がきっぱりと声にだしていった。
辰蔵は三角布に吊された大地の右腕を見た。その腕では無理だ、と視線が語っている。
「おらは…おらは……絶対、松浪に勝つ……だ……」
そこまでいって大地は棒のようにその場に倒れた。ケガと疲労と暑気あたりで限界がきたのだ。
「医者を呼んでくだせえ!」
辰蔵が祐馬に医者を呼びにやらせた。
「はいっ!」
祐馬が病棟の方へすっとんでゆく。
「松浪…剣之介……」
薄れゆく意識のなかで、大地は松浪の名を繰り返していた。
第二十九話につづく
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