第二十二話 理外の理
大地も構えを同じくする。
足元を風が吹き抜ける。
風は暮葉が立つ
「おめさんも風門流を遣うだべか?」
試合中に無駄なおしゃべりはしない主義の大地だが、あえてきいてみた。風門流はだれもが簡単に修得できる業ではない。
「
三昧とは、一切の雑念を捨て去った境地で、その世界に没我することで通常ではみえぬものを感得できるという禅や密教の教えである。
大地が天狗の師匠から教えられたものはまさしくそれであり、山岳密教の根本原理であった。
葛城神社の巫女である暮葉は修験道の開祖・
すすっ。
暮葉がさらに低く腰を落とした。
三昧が深まる。
暮葉の耳には観客の声援や怒号、空に轟く雷鳴はもう聞こえない。
生暖かい湿気や頬を打つ雨粒もない。
ただ風の流れだけがみえる。
すると――
大地の背後から光があらわれ、ひとの形をとりはじめた。
子供とも大人とも、女とも男ともつかぬ光のものである。
淡い光を発し、白い
「やめよ暮葉。おまえはそこから先に進んではいけない」
「やはり、あなたさまでしたか」
うっとりしたした声で暮葉はつぶやく。
「お会いしとうございました」
「刀を納めよ。おまえが
「構いません。わたしはもう、六の目にいることに飽きました」
光るものの警告も届かず、暮葉は風の流れに乗せて木刀を抜き払った。
大地も木刀を抜き打つ!
旋風と旋風がぶつかりあい、凄まじい轟音をたてた。
刹那――
眩光がはじけた。
その光は瞬く間に広がって暮葉の体を呑み込んでゆくのであった。
第二十三話につづく
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