第二十三話 地獄の暮葉
気がつくと暮葉は騒音と雑音のなかにいた。
いつもの江戸の風景ではない。
まるで異国、いや異世界に飛ばされてしまったかのようだ。
「あれ、巫女さん?」
「カワイイ、写メ撮ってもいいですか?」
次々とひとが寄ってくる。
手に手に細長い板のようなものを持っている。
服装は小袖や袴の姿ではない。どこか西洋ふうの身なりのひとたちだ。それでいて日本語を喋っている。
暮葉が黙っていると――
パシャ!
パシャ!
手に持っている細長い板から光が発せられた。
閃光を浴びて暮葉は逃げた。
継ぎ目のない石畳の往還には四角い鋼鉄の箱が走っている。
身を風にさらして鋼鉄の馬に乗っているものもいる。
「危ねえな! 信号は赤だろうが!」
鋼鉄の馬に乗り、丸い兜を被った男が往還に飛び出た暮葉を怒鳴りつける。
暮葉は男が指さす「信号」と呼ばれるものを仰ぎみた。
高札と呼ぶには丈高い、火の見櫓ほどの高さにある三つの目玉の色が切り替わってゆく。
「ごほっ、ごほっ!」
後ずさり暮葉は咳をした。空気が濁っている。空は巨大な墓石のような建物に塞がれ、息が詰まりそうだ。
「ここが地獄……」
暮葉が独りごちた。大地の背後から現れた光のものは暮葉に向かって「地獄に堕ちる」といった。
暮葉は六道の輪廻から時空を超えて別の六道世界へきてしまったのだ。
――と、そのときだ、法螺貝のような音が天空に轟いた。
『緊急避難警報が発令されました! 至急、近くのシェルターに避難してください。
繰り返します。避難避難警報が発令されました。ただちに付近のシェルターに避難してください!」
道行くものたちが慌てて洞窟の入口のような場所に駆け込んでゆく。
辺りがふいに暗くなった。
暮葉が空を見あげると――
「っ!!」
細長い円筒形の物体が尻から炎を噴きあげてこちらに向かってくる。
それはちょうど墓石のような建物の上部に炸裂して轟音をたてた。
暮葉は思わず悲鳴をあげた。
炎を帯びた大小の瓦礫が暮葉の頭上に降り注ぐ。
暮葉は為す術もなくその場にうずくまる。
それは安易に
第二十四話につづく
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