第十八話 戦慄


 赤いタスキは上位者の証である。

 風巻大地かざまき・だいちははじめて赤いタスキをかけ、下位者である白いタスキの葛城暮葉かつらぎ・くれはに対峙した。

 第三席と七席の闘いだが、大地に暮葉を侮る気持ちはない。


(この巫女さん、底がしれねえべ)


 大会初日の一戦で暮葉の闘いを大地は見ている。対戦相手の動きが不可解で、まるで吸い込まれるかのように暮葉の間合いに飛び込んでいった。


(まんず出たとこ勝負でいぐしかねえ!)


 大地は覚悟を決めた。不思議の業ならこちらも負けてはいない。


 ゴロゴロゴロ……。


 暗雲が重く垂れ込め、いまにも泣きそうな空模様になっている。

 行司の指示で二人は中央に歩みより、剣武台正面に位置する安国殿に一礼、そして互いに黙礼をかわし相正眼に構える。


「一本勝負、はじめッ!」


 開始の合図である手刀が切られた。

 大地は距離をとるため、二、三歩後退すると居合い腰に沈んで木刀を左腰につけた。


 半身に構えた右の前足をあげ、床板を踏み鳴らさんとした、そのとき――


「ッ!」


 足がりない。

 大地は右足を見た。

 光る糸のようなものが大地の右足首を縛りあげている。

 糸は構えた暮葉の剣尖から出ていた。

 大地は暮葉を見た。

 紅を差した唇に笑みが浮かんでいる。


「これでかぜわざは遣えません」


 暮葉がいった。

 大地の背にはじめて戦慄せんりつがはしった。



   第十九話につづく


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