第十九話 幻術


 足がりない。

 傍からみれば、大地が右前足を宙にとめたかのように見える。




「なにをしとるんじゃ、あやつ?」


 腕組みした諏訪が首をかしげた。諏訪のみならず、会場にいる全員が大地の右足首を縛りあげている妖しの糸が見えない。


「術にかかったみたいだね」


 一丸がいった。見えずともなんらかの策に大地がかかったことはわかる。


「術?」


「幻術だよ。あの巫女さん、幻術をつかってるのさ」


「そんなことができるのか?」


「先ほど、前を通ったとき、いい匂いがしたでしょ。幻覚をみせるあさこうを衣装に染みこませてあるんだと思う。

 けっこう曲者だよ、あのひと。試合がはじまる前、大地のそばにいてイチャイチャしてたし。そのとき風遣いさんはたっぷり吸い込まされたんじゃないかな」


 イチャイチャは過大表現だが、一丸は大地の傍らに腰を下ろした暮葉の姿を見ている。暮葉の闘いはそのときからはじまっていたのだ。




「これで風を起こすことはでけへん」


 太牙虎之介が口をへの字に曲げていった。虎之介もまた、風の業のからくりをつかんでいる。


「え? どういうことでやす?」


 傍らの辰蔵がきいた。


「大地が抜刀する際、前足をどん、と踏み鳴らすやろ。

 あれは要するに種火や」


「種火?」


 ますます訳がわからない。辰蔵は筆先をなめて詳しい説明を虎之介に求めた。



   第二十話につづく


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