第六話 勝利なき闘い。


 ゴウ


 旋風が音をたてて一丸に襲いかかる。


 トゥ


 一丸が全身のバネを使って跳んだ。

 太陽に届かんばかりの驚異の跳躍である。

 旋風を足元にやり過ごし、そのまま虚空からまっすぐ振り下ろす。

 大地は木刀を真横に構えて上段囲い受けの体勢をとりかけたが、とっさの判断で横に跳んでかわした。


 一丸の木刀が空を打ち床板をたたく。

 大地は木刀を抱えたままごろごろと転がると、素早く起きあがり体勢を整えた。


「な、なんだ、いまのは!?」


「あれが風遣いの業か?」


 観客がいっせいにざわめく。

 観客にしてみれば“跳びの一丸”の跳躍は見慣れている。

 だが、大地の“つむじ”ははじめて目にするものだ。

 本来なら瞬時にかわして攻撃につなげた一丸の反応こそ褒め称えるべきなのだが……。


「しかし、大地さんの動きが妙でやした」


 辰蔵が首をひねる。なんで大地は途中で受けをやめたのだろう。


「前の攻撃で木刀にひびを入れられていたからや」


「あっ!」


 辰蔵が声をあげた。そういえば瞬時に距離を詰められ、大地は一丸の激しい打ち込みを許した。

 あの怒濤の上段からの面打ちで大地の木刀は削られていたのだ。


「あいつの勝ちはもうあらへん。一回戦敗退は決まったで」


 虎之介が残念そうに断言する。


「だからゆうたやないか。カネをケチるからこうなるんや」


 事前情報の仕入れを怠ったからだといわんばかりだ。


「でも、大地さんなら……」


 辰蔵が途中でいいかけてやめた。


「大地さんなら、なんや?」


「風で相手を斬ることもできるんじゃ」


「あッ!」


 ただの風ではない。風そのものが鋭利な刃物となって相手を切り刻むことができるとしたら……。


「カマイタチか……」


 だが、それだと確実に相手を殺傷することになる。どっちにしても失格だ。


 ごくり。

 虎之介は思わず生唾を呑み込んだ。

 この試合、殺し合いのような凄惨な試合になるのか?

 虎之介は台上の大地を見た。

 すでに抜刀の体勢に入っている。

 一丸は警戒して間合いに入ってこない。


「ま、まさか、そこまでやるんか?」


 脳裏に吹き出す朱を描いて虎之介は身震いするのであった。



   第七話につづく


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