第36話 遭遇
「誰だ。ソフィアの第二の人格か?」
ソフィアが多重人格者という可能性を失念していた。
「私は集合的無意識体だ。この世界には第一階層までしか侵入を許していなかったはずだが、人は第二階層まで潜れるようになったのか? 調停者(コーディネーター)のしわざか?」
集合的無意識!
「集合的無意識はもっと深い階層にいるはずだろう。何でたかだか第二階層や第三階層程度で現れる? ……もしかしてお前がこの世界に魔法を教えているのか?」
「ご明察だな。人は私のことまで発見していたのか?」
ソフィアの瞳は白目を剥き、完全にトランス状態のまま奴の言葉を伝えて来る。
「俺がソフィアの意識の第二階層まで潜ったので、お前が出てきたんだろう。目的は何だ」
「私に目的はない。ただそこにあるだけだ。ただ、私の背中に始めて触れる者が現れたので様子を見に来ただけだ。今後は人々は頻繁に第二階層まで潜って来るのだろうか?」
「いや、おそらく今は俺以外は第一階層止まりだ。ただ、俺は状況によってはこれから第二、第三階層まで潜る可能性はある。その時は見逃してくれ」
集合的無意識体と同調しているソフィアは首を縦に振った。
「わかった。お前の波動は覚えた。ただし、まだこの世界の人間には第三階層はまだ早いだろう。極力第二階層までで留めておくなら、私の方も協力しよう」
俺はホッとした。彼? のさじ加減でソフィアは精神崩壊を起こしかねない。
「わかった。ちなみに魔法の数の上限があるのも貴方が制限しているためか?」
「その通り。魔法の数が多いとこちらの世界にも影響が出てしまうからだ。では、この女性には魔法の発現をしておく。今後、過大な干渉がない限り、会うことがないし、会ってしまう場合はそれなりの代償を覚悟しておきたまえ」
そう言うと彼は消えてしまった。
ソフィアが心配だが、手順を間違えると大変なことになってしまう。落ち着いていつもの手順通り、ソフィアを覚醒させた。
スッキリとした顔でソフィアは言った。
「あたし、なんか世界と一つになっていた感じがしました」
ああそうだろう。まさにその通りだろう。
「そうか、それでソフィア。変わったところはないか?」
彼は魔法を授けた筈だ。
ソフィアは俺をまっすぐに見つめたその瞳から涙が頬を伝い、床へと吸い込まれて行った。
涙は止まることなく、小さな滝のように流れ落ちた。
失敗か、それともさっきの現象の副作用か?
「あたし……まほう、覚えてる。使える! これが魔法を覚えたって感覚なの?」
ソフィアは涙を拭うことさえ忘れて俺に言った。
俺はタオルを渡す。
「まずは涙を拭いて落ち着け、ソフィアが魔法を使えれば、俺が魔法を覚えた証拠にもなる。落ち着いたら、一度使ってみようか。部屋の中でも使える魔法か?」
「魔法の使い方は分かりますけど、初めてなので力加減が出来るか分かりません」
ソフィアは初めの興奮から少し落ち着いたようだ。
「ちなみにどんな魔法だ?」
「振動の魔法です。物に振動を与える魔法。例えば、そこのコップに振動を与えるとかです」
使い方が試される魔法だな。
「試しにコップに魔法をかけて見るか?」
ソフィアは新しいオモチャを与えられた子供のように目を輝かせた。新たに得た力を使いたくて仕方がなかったようだ。
ソフィアは大きく深呼吸をすると右手をコップに向けて叫ぶ。
「バイブレーション!」
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