第37話 初魔法

 ソフィアの澄んだ声が部屋に響く。

 その瞬間、テーブルに置いたコップが誰も触っていないのに震え始める。

 カタカタとコップが震えた。


「成功だ!」

「やった!」


 俺たちは手を取り合って喜んだ。


 バキ!


 コップの振動が加速度的に大きくなり、最後にコップは割れてしまった。


「すみません」


 ソフィアは謝って、コップを片付けようとする。

 この魔法、使い方によってはすごい武器になるのでは?


「大丈夫、あとで片付けるから。それよりも、この魔法をもっと使いこなしてみないか?」


 俺は興奮して思わずソフィアの肩を掴んだ。

 ソフィアは俺の興奮した顔に驚いたが、頭を縦に振った。


「は、はい! ただ……」

「ただ?」

「ただ、今日は一度、家に帰ってお母様とお父様にこの事を報告させて下さい。二人とも私がゼロなのは自分達のせいだと酷く気に病んでいるので、安心させたいのです」

「わかった。ただし、俺が魔法を習得させた事は誰にも言わないでくれ」


 ソフィアは微笑みながら俺の言葉に返した。


「分かりました」



 それからソフィアは家に戻り、俺はレイティア達のいる酒場へ向かった。

 三人はとっくに出来上がっていた。

 俺は注文を済ませて席に着くと、三人の話は南から来た商人達から聞いた魔物の大発生の話題で盛り上がっていた。

 魔物は通常の生物とは違い、マナ溜まりから産まれる魔法生物の事らしい。

 魔物の多いところはマナの凝縮したマナ石が見つかりやすく、高値で売れるらしく、危険にもかかわらず一攫千金を狙った冒険者が危険地帯に入っていくらしい。


「そのマナ石ってなんに使うんだ?」


 俺は茹で卵を頬張りながら言った。


「マナ石を持ってるとマナの補充が早くなるから、魔法が連続で使えたり、魔法の威力や範囲が広がるのよ」


 ほ~。そんな便利な物があるんだ。俺には関係無いけど。


「でも貴重なんで警備隊が魔物退治を兼ねてマナ石捜索隊を結成するか持って話なのよ。ねえリタ」


 レイティアとリタが魔物の話で盛り上がった隙にムサシマルが小声で話掛けて来た。


「そういえば、キヨ。どうだった?」


 俺はテーブルの下で親指を立て、ニッコリと返す。


「な~に、男二人でコソコソ話ししてるのよ」


 リタが目ざとく俺たちの様子を見ていた。


「いやあ、そんなに儲かるなら、俺たちもマナ石取りに行けないかなって話してたんだよ」

「駄目よ。魔物は基本、魔法しか効かないんだから、危険なのよ。そうでなければ、警備隊が魔物退治に乗り出さないわよ」


 何か魔物対策も考えておかないとな。

 それにソフィアの魔法のこれからの状況も確認しないといけない。やることは山積みだ。

 魔法技術院に目をつけられる前に手も打たないと、自由に活動ができなくなる可能性もある。

 俺はレイティア達と別れた後、自分のベットの中でこれからやらなければならない事の多さに頭を悩ませていた。明日、ムサシマルに俺の魔法の話をする約束もしている。

 いつのまにか寝ていたようだ。


 なんか暖かい。そして柔らかい。


「起きられましたか。ご主人様」

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