第四章
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グアム島西約一〇〇カイリ。
水平線を太陽がさんさんと照り付け、真っ白に染め上げる。海面に反射された
そんな熱いだけで何もない外を眺めながら、白夜はクーラーの効いた艦橋で湯気が上がるコーヒーをすする。海面からおよそ四〇メートル離れた鋼鉄の箱から青白い空を覗くと幾分か涼しく見える。そんな清涼な気分も視界の隅に映る仁王立ちの少女で台無しになっている。
「何時までこの海域に引き籠ってるんだ?」
「もう少しデータが揃ってからだ。お前たちには八十年後のものに積み替えたものが多い。初陣は上手くいったが、次からはしっかりと慣れておいてもらわないと困る」
グアム島アプラ湾に設置されていた軍港を母港にして駐留を始めてからずっとこの調子の超弩級戦艦様である。大戦中、ずっと母港に押し込められていた彼女は戦いたくてしょうがないようだ。正直見ているだけで暑苦しい。
しかし、黄昏が施した改装は電子兵器を中心とした兵装システムと対空兵装が主である。これらを十全に使えなければ、攻撃どころか防御すらままならない。「必要な時に使えない」が一番困る。
「それならウチの妹の方が……て、言うだけヤボか」
それならいうなと意思を込めて白夜はコーヒーをすする。信濃はこの一か月間しっかりと習熟訓練をみっちりと行ってきた。今日は本体である艦体は基地内に格納し、人間体の“アバター”はお留守番組と一緒に冥霞とゆっくりしているだろう。
「っと。
「そうか」と呟きながら席を立つと白夜はコーヒーを片手に窓の上の画面を見る。それらの内の一つである対水上レーダーの画面上で前後に合わせて三つの輝点が
「武蔵、筑摩対水上射撃試験用意。方位二七〇距離二〇〇〇〇に仮想的を作成」
「対水上射撃試験用意! 方位二七〇距離二〇〇〇〇に仮想的」
ムサシは命令を復唱すると共に、後ろに続く筑摩にも伝達する。さらに対水上レーダーに新たな輝点が灯る。これは艦隊内のデータリンクによって僚艦の三隻、観測機を出している信濃にも共有される。
「目標仮想的」
「了! 目標仮想的!」
目標指示を受けて、武蔵と筑摩は主砲及び副砲を右に旋回する。
「弾道を観測するから各主砲塔ごとに斉発な」
「了!」
「よし――打ち方始め」
「
――ドゴォォォン
主砲発射の轟音と衝撃波によって艦橋の窓ガラスが揺れ、白夜のコーヒーに波が立つ。
武蔵から飛び出した三つの輝点は真っ直ぐ進んで行き、目標の輝点と重なる。この画面では細かいところまでは確認できないが、そこのところは信濃艦載機がしっかりと記録してくれている。
――ドゴォォォン
続いて第二主砲塔。弾着を観測してから、さらに続いて後部の第三主砲塔。そして再び第一主砲塔に戻る。筑摩も第一主砲塔、第二主砲塔、第三主砲塔、第四主砲塔と順に射撃を繰り返す。
一分ごとに二つの
「試験終了。打ち方止め」
超重量の金属の塊を打ち付けられ続けた海面には非常に多くの細かい
「駆逐艦と対潜警戒を交代する。哨戒ヘリ発艦用意。全機発艦完了次第、前の涼月には岸波の前に行くように伝えてくれ」
戦艦、巡洋艦の次は彼女らの護衛をしていた駆逐艦涼月、岸波の射撃試験となる。艦隊前衛として対潜・対空警戒をしていた涼月は対潜警戒任務を武蔵艦載機に、対空警戒任務を信濃艦載機に託し、艦隊後方へ異動することとなる。
一機目の対潜哨戒ヘリSH-60Kが発艦準備を終え、メインローターが円を描いているところで武蔵はお預けを喰らった。弾道の観測と早期警戒のために随伴している信濃艦載機E-2Dが所属不明の艦隊の接近を知れせて来たのだ。
選択肢は二つ。戦うか逃げるか。
「撤収だ」
腕を組んでドヤ顔をキメていたムサシに砲弾が突き刺さる。
アンノウンを背に艦隊は進む。いくら大駒である武蔵が戦いを臨んでも指揮官の意向には逆らえない。
白夜の選択に鬼と
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