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 海中に騒音が響いている。

 数時間前まで悠々自適に漂っていた戦艦シュヴァイクを筆頭としたドワーチ帝国外洋派遣艦隊は転生者による艦隊に遭遇し、全滅した。旗艦シュヴァイクはライプツィヒを始めとした軽巡洋艦、駆逐艦による水雷戦隊の魚雷攻撃によって轟沈、その他の巡洋艦、駆逐艦はシャルンホルスト級戦艦二隻とアトミラール・ヒッパー級重巡洋艦三隻の砲撃によって沈没した。

 破壊された艦艇の沈降音、魚雷の爆発や砲弾の着水音の残響によって海面下の音は乱されている。これが落ち着くにはもう幾何いくばくかかかるだろう。

 潜水艦にとっては絶好の隠れ蓑だ。

 騒がしい音に紛れて前原壱成は海中から海面を覗き見する。ちょうど二手に分かれていた艦隊が合流していた。速度も一〇ノットくらいにまで落としているようだ。

 きっと相手は目の前の敵に勝った直後で油断している。「勝って兜の緒を締めよ」のことわざがあるほどに、勝利に酔いしれて油断する者は多い。しばらく様子を見て仕掛けるより、今やる方が効果的だろう。

 壱成はU-2501に接近を指示した。この騒音の中だ。全速を出しても気付かれないだろう。

 一時間かけて目標の艦体まで三〇〇〇メートルのところまで接近した。しかし、移動している間に海中が静かになってしまい、迂闊に動けなくなった。

 この距離でも十分に命中は期待できると判断した壱成はU-2501に魚雷を装填させる。もちろん六つある魚雷発射管全てに、信管は磁気信管だ。

 U-2501が魚雷を装填している間に壱成は潜望鏡を覗く。後ろにもう二本突き出ており、十時の方向に的艦隊が見える。

 眺めていると、縦一列に真っ直ぐ進んでいた艦隊が一斉に左を向いて、駆逐艦のみが黒煙を吹かせて艦隊から離れていった。

 駆逐艦は巡洋艦や戦艦、航空母艦とは異なり、火砲と魚雷の対水上艦装備の他に対潜水艦装備である爆雷を搭載している。それに加えて速力と機動性に優れるため、全ての直接戦闘に参加する軍艦の中で速力、機動性が最低である潜水艦は海中に身を隠してやり過ごすしかない。正に駆逐艦は潜水艦の天敵である。

 そんな天敵が急いで離れていく。これは前方からの雷撃である。U-2502たち第二艦隊が上手くやってくれた。ベストタイミングだ。


「全発射管開放」


 潜望鏡から狙いを定める。

 魚雷を発射して目標にたどり着くまで数分かかる。即ち、数分後にあの艦隊がどこにいるのかを予測して撃たなければならない。


「全発射管発射」


 壱成の号令と共に六本のG7魚雷がU-2501の艦首から吐き出される。G7魚雷は四四ノットという猛烈なスピードで的艦隊に迫っていく。


「次発装填! 急速潜行!」


 魚雷を撃ったら潜航。潜水艦魚雷攻撃の基本である。魚雷の航跡から潜水艦の大まかな位置がわかってしまうため、すぐに潜航、移動して駆逐艦からの爆雷を避ける。戦果の確認は海中の音で可能であるため、さっさと逃げる。U-2501たち黒鮫艦隊第一艦隊は逃げながら次の攻撃位置を目指す。





 標的となったシャルンホルストらは魚雷を探知してすぐ回避運動を取った。

 十八条の航跡が右後方から襲ってくる。駆逐艦が最初の予想魚雷発射位置に急行し、艦隊から離脱した直後を狙われた。


「左前方から魚雷多数接近!」


 別方向からさらに魚雷が迫ってくる。これによって魚雷が十字になって襲ってくる。第二波の魚雷をやり過ごすまで舵を取ることができない。今針路を変更すると第二波に命中してしまう。


「駆逐隊は?」


「現在、第一波の発射予想位置にて爆雷投下中」


「呼び戻すことは……」


「やめた方が。転進した直後に雷撃されるでしょう」


「耐えるしかないですか」


 魚雷は艦と艦の隙間を通り抜けるようにシャルンホルストほかを追い抜いていく。


――ダァァァァァァンッ


 艦のすぐ脇を通り抜ける魚雷が艦の磁気を感知して信管が起動してしまった。

 起爆した魚雷は三。


「ブリュッヒャー、ライプツィヒ被弾!」


「急いで第三波の回避を! 二隻の被害は!?」


「取舵一杯。ブリュッヒャーは竜骨をやられたようです。ライプツィヒは艦尾に被雷。舵、スクリュー共に損壊、航行不能です」


 ブリュッヒャーは両舷下方からのバブルパルスによって竜骨がへし折られ、構造の支えを失って崩壊してゆく。ライプツィヒは艦尾のすぐそこで魚雷が起爆。舵とスクリューが吹き飛んだ。第三波はもうすぐそこまで迫っている。この二隻はもう見捨てるしかない。

 二隻を置いて第三波の魚雷と正対する。

 しかし、これで一安心とはいかない。続けて第四波が来ている。

 これまでの雷撃とは異なって雷速が遅いが回避しないわけにはいかない。

 黒鮫艦隊の第一艦隊と第三艦隊が交互に魚雷による攻撃を繰り返す。

 黒鮫艦隊はUボートXXI型とⅦC型で構成されている。XXI型は二十三本、ⅦC型は十四本の魚雷を搭載しており、斉射はそれぞれ六本ずつと四本ずつ。一斉発射はどちらも三回はできる。

 襲われている方も反撃をしたいが駆逐艦は出払っている。帰ってくるまで逃げ回るしかないのだ。

 幸い第三波ではさらなる被害はなかった。しかし、例の二艦は流れ弾を喰らって海の藻屑となった。


「第四波左舷から接近中。第五波の発見。これは……同時に着弾します!」


 第四波を回避すれば第五波を喰らい、逆に第五波を回避すれば第四波の魚雷が命中する。


「ここまでですか……」


 残ったシャルンホルスト、グナイゼナウ、アトミラール・ヒッパー、プリンツ・オイゲン、ケルン。回避をそれぞれに押し付けても避けられない。

 計三十本の魚雷を喰らい、揺れながら沈みゆく様子を艦内で味わう他なかった。





「全目標に命中。すべて致命傷です」


 U-2501はパッシブソナーで聞き取り、解析した結果を自分たちの指揮官に報告する。


「だったらもう捨て置け。第二艦隊の援護に向かう。第一艦隊、深度このまま、最大戦速。第三艦隊は浮上してあとからついてこい」


 潜横舵及び横舵そのまま。縦舵は右に二〇度。

 仕上げに駆逐艦を彼女らの僚艦を同じところへ連れて行く。

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