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 軽巡洋艦ライプツィヒを先頭として本隊から分離した艦隊は、敵艦隊の先頭を務めていた艦に砲撃を行っている。すでに何発かは命中してはいるが、少し炎上しただけであまり被害がないように見える。それでもライプツィヒは後ろに続く軽巡洋艦ケルンと三隻のZ23型駆逐艦と共に四五・五キログラムの砲弾を放ち続ける。

 離脱直後は最大戦速である三二ノットで航行していたが、速力を維持したままでは追い抜いてしまいそうだったので、現在は第二戦速まで落としている。

 ライプツィヒは歯噛みする。自分たちの砲撃では思ったほどのダメージが与えられたいない。同じ軽巡洋艦の装甲であれば、こちらの主砲で貫けてもいいはずだ。十五センチ砲で加害できないのであれば、あの艦は重巡洋艦以上の装甲を持っている。加えて、こちらとあちらの水柱。こちらにできるもののほうが大きい。こんなものを食らったら、入渠は必至だ。

 母港を持たず、修理拠点がない今、損傷は好ましくない。それよりさっさと沈めてやりたい。


――ドーン


 轟音と共に激しく艦体が揺れる。被弾した。

 ライプツィヒはすぐさま、被害を確認する。

 直撃したのは後部甲板、第二砲塔のすぐ手前だ。運がいいことに当たったのは副砲弾らしく、砲塔内の弾薬庫と艦内の機関室には被害がない。しかし、第二砲塔の砲身は使い物にならなくなってしまった。中砲はへし折れ、左右の砲身はそれぞれ外側に曲がってしまっている。これでは第二砲塔で射撃ができない。軽巡洋艦ライプツィヒの攻撃力は三分の二に低下してしまった。

 そんなことよりも、あんなドンガメの攻撃を喰らった上に、九つある主砲の内三本も使用不能にされた。これはライプツィヒの逆鱗に触れた。


「コンニャロー! クソヤロー! 今すぐに沈めてやる! 左水雷戦!」


 僚艦に打電。「我レニ続ケ」。増速する。

 煙突から吹き出る黒煙は勢いを増し、横になびきだす。速力が最大になったところで舵を右に切る。互いにこのまま進めば、ライプツィヒが敵艦に突っ込む形になる。

 八〇〇〇メートル。

 互いに進行方向に変わりはない。ただ、至近弾が多くなってきている。この状態が続くと浸水が始まってしまう。

 六〇〇〇メートル。

 ドンガメはまたもや転進。今度は左に舵を取る。再び反航になろうとする。しかし、これは好都合。おかげで距離が縮まるのが早くなる。加えて、ライプツィヒたちはドンガメの後ろを通り抜けるコースを通ることになり、雷撃後の回頭の手間が省ける。

 四〇〇〇メートル。

 相手は舵もどんくさく、戦艦並みに利きが悪い。おかげでこの距離で発射しても外れることはないだろう。

 魚雷到達時の目標の未来位置に狙いを定める。魚雷に気付いて速度を落とされたり、針路を変えられたりされることも考慮して、基準線をやや艦尾側に設定する。


「魚雷! 一斉射!」


 ライプツィヒの二基の53.3cm三連装魚雷発射管から六本のG7魚雷が放たれる。ケルンからも六本。さらにその後ろに続くZ23型駆逐艦Z23、Z24、Z25からはそれぞれ八本もの魚雷が発射された。

 合わせて三十六本。これが一隻の軍艦目掛めがけて進んでいく。海面にくっきりとした白線を残しながら。これだけの魚雷攻撃を受ければ、もう逃げ場は無い。

 魚雷群が半分ほど進んだところで、てき艦は一瞬立ち止まったかのように見せ、首を左に振る。おそらく舵だけでなく、右のスクリューは前進一杯、左のそれは後進一杯にして無理やり曲がって魚雷を躱す腹積もりだろう。

 しかし、もう遅い。

 G7魚雷は一本、また一本と命中し、爆発していく。加えてその爆発は周りの魚雷を誘爆させて、非常に強力なバブルパルスを発生させる。水中爆発により発生するバブルパルスは、水面下の艦体を凹ませ、大きな亀裂を生む。

 ボロボロの艦体に容赦なく海水が浸入。左舷側に寄っていた重心がさらに偏っていく。三本の煙突は海面に向かって倒れていき、赤い腹が丸出しになる。

 の戦艦大和でさえも片舷に集中された魚雷攻撃には耐えきれなかったのだ。そんなものに他の艦船が耐えられるわけがない。

 最期に大きな爆発音が響く。黒い柱が立ち上る。真っ二つに割れた艦体はゆっくりと海に消えてゆく。

 沈みゆく敵旗艦シュヴァイクに目もくれず、ライプツィヒらは黒柱を背に彼女たちの旗艦が待つ、本隊との合流に舵を切っていた。

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