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「あ~も~。どうしてこうなるのよ~」
そう口にするのは信濃の艦橋でふてくされている冥霞である。
自分ではあまり指揮を執りたくないとあらかじめ言っていたのに、この空母部隊の指揮を白夜に任されてしまった。
他に艦橋にいるのは信濃と明石である。この部隊には他にも護衛として秋月と涼月が振り分けられているが、いつ戦闘になってもすぐに迎撃できるように自艦に戻っている。「あ~も~。どうしてこうなるのよ~」
そう口にするのは信濃の艦橋でふてくされている冥霞である。
自分ではあまり指揮を執りたくないとあらかじめ言っていたのに、この空母部隊の指揮を白夜に任されてしまった。
他に艦橋にいるのはシナノとアカシである。この部隊には他にも護衛として秋月と涼月が振り分けられているが、いつ戦闘になってもすぐに迎撃できるように自艦に戻っている。
「そんなことおっしゃらないでください。
「そうよね!」
冥霞は勢いよく椅子から立ち上がる。元気良く前を向くと正面に来ていた信濃と目が合う。シナノの目に陰りがあるのを冥霞は見逃さなかった。
「不安?」
「――!?……そんなことは……」
シナノはピクッと肩を震わせて答える。声にいつもとは異なり感情が乗っている。
「いいのよ、不安で。他の娘とは違ってあなたにとってはこれが初陣なんだから」
「はい」
史実において航空母艦信濃は竣工から十日、出港してからはわずか十七時間といった世界の海軍史上最も短い艦歴とだった。最終的な艤装を施すために横須賀海軍工廠から呉海軍工廠へ回航している最中に潜水艦からの魚雷攻撃を受け沈没した。
「それに加えまして、こんな装備を上手く使えるかどうか……」
「私たちはあなたがどういった経緯をたどったのかよく知ってる。栄えある大和型戦艦の三番艦として起工されたことも、戦況の悪化で建造中止になったことも、空母として建造が再開されたことも、未完成のまま進水、竣工されたことも、回航中に撃沈されたこともね」
シナノはただ俯いて聞いている。明石は離れたところで二人の様子を静かに眺めている。
「あなたが実戦経験がないことを嘆くのはよくわかるわ。でもね、私たちにとってはそこが良かったのよ」
シナノの顔が少し上がる。
「私たちがあなたに施した改造は当時の技術なんて足元に及ばないわ。艦載機だってそう。何倍も速くなって、何倍も偉くなって、何倍も強くなった。艦載機を使った戦い方も様変わりした。そんな私たちが持てる技術の全てをつぎ込んだパッケージを、数々の戦場を渡り歩いた娘が使いこなせると思う? わたしの答えは“ノー”よ。感覚が違い過ぎるわ。理想的なのは前の大戦での戦闘経験が出来るだけ少なくて、ニミッツ級やフォード級といったスーパーキャリアに引けを取らない大きな
熱が上がってきた冥霞は信濃を肩を鷲掴んで、顔を覗き込む。
「何も恐れる必要はないわ。艦体も艦載機もこっちで最初からサポートを付けてある。それに私たち黄昏冥夜が
最後に冥霞は胸を張って付け加える。
「だから安心しなさい」
「―—はいッ!」
胸が一杯になった信濃は笑顔で返事をする。そして、一拍置いていつもの大和撫子然とした静かな佇まいに戻る。
「そういえばそろそろ時間ね。シナノ、艦載機の展開は?」
「概ね完了しています」
「対空警戒を厳にしておきなさい。相手も空母があるんだから」
「はい。わかり――」
信濃の動きが止まる。そして顔つきが変わった。
「どうしたの? シナノ」
「姉からの通信です。攻撃開始命令が出ました」
「わかったわ。攻撃はライトニングⅡ第一小隊ね」
冥霞は窓の上のモニターを見上げながら言う。
「目標は予定通り空母とその護衛の軽巡。一機一隻で十分ね。攻撃開始。対艦ミサイル発射」
「宜候。F-35C一、二、三番機マスターアームオン。攻撃開始。対艦ミサイル発射」
モニターに映し出されている戦況プロットに発射された対艦ミサイルを示す印が六つ出現する。それらはまっすぐ目標に向かって飛んでいく。
発射から十数秒。
モニター上で九つの印が三つになる。
「命中しました」
「攻撃終了。攻撃隊は帰投」
「宜候。F-35C一から六番機帰投させます」
冥霞たちに任された仕事の一つ目が終わった。一段落した冥霞は大きく体を伸ばす。
「白夜の作戦が上手く嵌ってくれてよかったわ。よし、次に行くわよ」
冥霞は両手を腰に当てて、後ろにいる信濃に向き直る。
「ライトニングⅡ七から十二番機発艦。予定通り、真珠湾の偵察をするわよ。軍港設備があったら――わかっているわね」
「はい。偵察の結果、真珠湾に軍港設備があった場合はそのままF‐35C七から十二番機にて爆撃。その後、対地ミサイル、爆弾を搭載したF‐35C一から六番機にて追撃。これでよろしいですか?」
「ええ、十分よ」
シナノの回答に嬉しそうに頷く冥霞。
ちょうど全てのカタパルトにF‐35CライトニングⅡが固定される。
「F-35C七、九番機発艦します」
一、三番カタパルトから射出。
「続いて、F-35C八、十番機発艦します」
さらに二、四番カタパルトからも射出。
「F-35C十一、十二番機発艦します」
また一、三番カタパルトから射出。
「これで私の仕事はひとまず終わったわね。シナノ、後は任せるわ」
「承りました」
「そんなことおっしゃらないでください。
「そうよね!」
冥霞は勢いよく椅子から立ち上がる。元気良く前を向くと正面に来ていた信濃と目が合う。信濃の目に陰りがあるのを冥霞は見逃さなかった。
「不安?」
「――!?……そんなことは……」
信濃はピクッと肩を震わせて答える。声にいつもとは異なり感情が乗っている。
「いいのよ、不安で。他の娘とは違ってあなたにとってはこれが初陣なんだから」
「はい」
史実において航空母艦信濃は竣工から十日、出港してからはわずか十七時間といった世界の海軍史上最も短い艦歴とだった。最終的な艤装を施すために横須賀海軍工廠から呉海軍工廠へ回航している最中に潜水艦からの魚雷攻撃を受け沈没した。
「それに加えまして、こんな装備を上手く使えるかどうか……」
「私たちはあなたがどういった経緯をたどったのかよく知ってる。栄えある大和型戦艦の三番艦として起工されたことも、戦況の悪化で建造中止になったことも、空母として建造が再開されたことも、未完成のまま進水、竣工されたことも、回航中に撃沈されたこともね」
信濃はただ俯いて聞いている。明石は離れたところで二人の様子を静かに眺めている。
「あなたが実戦経験がないことを嘆くのはよくわかるわ。でもね、私たちにとってはそこが良かったのよ」
信濃の顔が少し上がる。
「私たちがあなたに施した改造は当時の技術なんて足元に及ばないわ。艦載機だってそう。何倍も速くなって、何倍も偉くなって、何倍も強くなった。艦載機を使った戦い方も様変わりした。そんな私たちが持てる技術の全てをつぎ込んだパッケージを、数々の戦場を渡り歩いた娘が使いこなせると思う? わたしの答えは“ノー”よ。感覚が違い過ぎるわ。理想的なのは前の大戦での戦闘経験が出来るだけ少なくて、ニミッツ級やフォード級といったスーパーキャリアに引けを取らない大きな
熱が上がってきた冥霞は信濃を肩を鷲掴んで、顔を覗き込む。
「何も恐れる必要はないわ。艦体も艦載機もこっちで最初からサポートを付けてある。それに私たち黄昏冥夜が
最後に冥霞は胸を張って付け加える。
「だから安心しなさい」
「―—はいッ!」
胸が一杯になった信濃は笑顔で返事をする。そして、一拍置いていつもの大和撫子然とした静かな佇まいに戻る。
「そういえばそろそろ時間ね。信濃、艦載機の展開は?」
「概ね完了しています」
「対空警戒を厳にしておきなさい。相手も空母があるんだから」
「はい。わかり――」
信濃の動きが止まる。そして顔つきが変わった。
「どうしたの? 信濃」
「姉からの通信です。攻撃開始命令が出ました」
「わかったわ。攻撃はライトニングⅡ第一小隊ね」
冥霞は窓の上のモニターを見上げながら言う。
「目標は予定通り空母とその護衛の軽巡。一機一隻で十分ね。攻撃開始。対艦ミサイル発射」
「宜候。F-35C一、二、三番機マスターアームオン。攻撃開始。対艦ミサイル発射」
モニターに映し出されている戦況プロットに発射された対艦ミサイルを示す印が六つ出現する。それらはまっすぐ目標に向かって飛んでいく。
発射から十数秒。
モニター上で九つの印が三つになる。
「命中しました」
「攻撃終了。攻撃隊は帰投」
「宜候。F-35C一から六番機帰投させます」
冥霞たちに任された仕事の一つ目が終わった。一段落した冥霞は大きく体を伸ばす。
「白夜の作戦が上手く嵌ってくれてよかったわ。よし、次に行くわよ」
冥霞は両手を腰に当てて、後ろにいる信濃に向き直る。
「ライトニングⅡ七から十二番機発艦。予定通り、真珠湾の偵察をするわよ。軍港設備があったら――わかっているわね」
「はい。偵察の結果、真珠湾に軍港設備があった場合はそのままF-35C七から十二番機にて爆撃。その後、対地ミサイル、爆弾を搭載したF-35C一から六番機にて追撃。これでよろしいですか?」
「ええ、十分よ」
信濃の回答に嬉しそうに頷く冥霞。
ちょうど全てのカタパルトにF-35CライトニングⅡが固定される。
「F-35C七、九番機発艦します」
一、三番カタパルトから射出。
「続いて、F-35C八、十番機発艦します」
さらに二、四番カタパルトからも射出。
「F-35C十一、十二番機発艦します」
また一、三番カタパルトから射出。
「これで私の仕事はひとまず終わったわね。信濃、後は任せるわ」
「承りました」
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