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白夜と冥霞は瞼を貫く白い光で目が覚めた。
「ここは?」
足下は黒、上は蒼、周りも碧。全く見慣れない風景だ。唯一見覚えがあるのは、隣の相棒とオレンジ色の愛車だけ。さらに地面には白とオレンジ色の大きな破線が引かれている。振り返ってみれば壁のような長方形を組み合わせたような建物、黒い地面の先には高く大きな黒い塔。
嗚呼そうだ。自分たちは神の子とやらに呼ばれてこの世界に来たのだ。彼女を次の神にするために。
ならばここがどこなのか見当がつく。
ここは彼女の上で、その前にいるのはその姉だろう。
白夜はクルマのサイドブレーキがかかっているのを窓の外から確認して、冥霞を連れて灰色の建物に歩いて向かう。
艦橋まであと十歩のところで建物のドアが開き、中から一人の少女が出てくる。黒い絹のような髪を腰まで伸ばし、瑠璃色の着物を纏った少女だ。例のシナノの“アバター”であろう。
「はじめまして、
着物の少女――シナノが優雅に立礼をする。
「黄丹白夜だ。こっちこそよろしく頼む」
「昏鐘鳴冥霞よ。よろしくね」
互いに自己紹介をして、いくらか話をする。二人はその会話の中でちゃんと自分たちが魔改造した図面通りになっていることを確認した。
「ところで、いったいどちらが指揮を執られるのでしょう?」
シナノがいきなり今まで決まっていなかった重要事項について聞いてきた。
「流石に決めておかないと駄目か……」
「艦隊の指揮は白夜に任せるわ。私は一隻ならともかく、艦隊になると自信ないし」
「わかった。艦隊の指揮は俺が執ろう。艦隊を分けたときに指揮を頼むかもしれないが、そのときは……」
「わかったわ」
「そういうことだ。これでいいか?」
「はい。かまいません。艦隊旗艦として黄丹白夜様を艦隊指揮官として登録します。同時に次官として昏鐘鳴冥霞様を登録しておきます」
「ああ、頼む」
「では、艦橋までご案内します。お車はこちらで格納庫に入れておきます」
シナノはゆっくりと振り返り、アイランドの中に入っていく。白夜と冥霞はそれに続いていく。
◆
「ここが艦橋か」
操舵コンソールを始めとする操艦に必要な装置一式が余裕を持って配置されている。
二人は一般公開等で護衛艦の艦橋には入ったことはあるが、自分たちで魔改造して現在配備されている護衛艦の艦橋そっくりなってしまっているとはいえ大戦時の軍艦の艦橋の入るのは初めてだ。
「シナノ、量子通信は?」
夢にまで見た信濃の艦橋に感に堪えない気持ちをこらえながら、白夜はシナノに問いかける。
「問題ありません」
「よし、全艦隊と通信リンクを確立」
「
艦隊全艦との通信ネットワークが組みあがり、設置されているディスプレイの一つに信濃を中心に全ての僚艦の相対位置が表示される。信濃の前に武蔵、後ろに明石、左右に利根と筑摩。前端に島風、彼女の右後ろに夕雲、左後ろに岸波。右端に涼月、左端に秋月がいる。
「機関と錨は……当然止まっているし、下りているか」
「はい」
「わかった。全艦隊機関始動」
「宜候。全艦隊機関始動。機関、始動します。電源接続。電力供給開始。――――規定値を突破。主機起動。熱核反応炉圧力上昇。フライホイール接続。全数値異常なし。システムチェック。オールグリーン。発進準備完了。――全艦隊、発進準備、完了しました」
「錨上げ。全艦隊原速。発進」
「全艦隊発進。抜錨。信濃並びに艦隊全艦、発進します」
信濃の艦尾、水面下に取り付けられた四基の電磁推進器に動力が伝わり、そのどれもが取り込んだ海水を後ろに吐き出して彼女を押し出す。白夜たちの体が後ろ向きに押される。他の艦艇も同時に動き出す。
その後、一通り左右の舵の効きや兵装の具合などを確かめた後、白夜は次の指示を出す。
「艦首を風上へ。第五戦速。航空機発艦準備」
「宜候。取舵。艦首風上。第五戦速に増速します」
信濃を中心に全ての艦が大きく左に曲がる。
「彩雲、全機発艦」
「宜候。発艦、準備します」
彩雲が三基全てのエレベータに乗せられて一機ずつ甲板にその深緑色の姿を現す。そして、後ろから一機一機順に詰めていく。全てが綺麗に二列に並び終えると一斉にエンジンがかかり、プロペラが円を描いて回りだす。
「彩雲全八機発艦します」
一機づつ飛行甲板を駆けて空に飛び立つ。
「彩雲を八方に展開。周囲の探索と現在地の特定をしたい。あと原速、針路戻せ」
「宜候。艦載機発艦完了。原速。面舵。針路を戻します」
「……そうだ。あとで全員を集めてくれ。顔合わせをしたい」
「わかりました。ただ今
「
白夜と冥霞は昨日から一睡もしていない。夜中の帰宅途中に呼び出せれ、それからずっと作業していたので当然なのだが。今も二人は眠気を堪えている。あと二回くらいの徹夜は大丈夫だが、今後戦闘が起こる可能性があるのなら少しでも寝ておきたい。判断を誤ることができない戦闘には睡魔は天敵と言っていい。
「かしこまりました。お部屋へのご案内は――」
「大丈夫だ。俺も冥霞もこの艦の図面は頭に入ってる。そうだろ?」
「もちろん」
そう言って二人はゆっくりと少しおぼつかない足取りで艦橋を出て行った。
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