0-0-3
白夜はまずクルマのエンジンをかける。冥霞は反対側のドアを開けて座席を倒し、後部座席から二台のノートパソコンを取り出す。そして冥霞は助手席をもとに戻したあと、ダッシュボードの下にあるグローブボックスを開ける。そこには収納スペースぎりぎりのサイズのパソコンの筐体が収まっていた。このパソコンは電源はクルマのバッテリーから直接供給され、冷却にはクルマのカーエアコンを用いる。そこには二人の実験データや様々な伝手を駆使して集めてきた様々な図面や設計図が詰まっている。
二人は全てのパソコンを起動させ、ノートパソコンをクルマに積んであるパソコンに接続する。さらにノートパソコンはクレセリアに渡されたタブレット端末にも有線で繋げることができた。これで準備は整った。
ここからは艦隊の編成とこれに用いる艦を決定する。二人は互いに意見を言い合い、それと平行して艦の改造案のすり合わせも行う。意見が分かれ、互いにヒートアップするが、着々と決まっていく。
編成はバランスを重視して、空母一、戦艦一、巡洋艦二、駆逐艦五、工作艦一。選んだのは、空母
これで三十分。
ある程度決まると、二人はそれぞれの作業に取り掛かる。白夜はタブレット端末から大量のホログラム画面を展開させ、一隻ずつ、一枚ずつ着実に図面の書き換えを行っていく。冥霞は新たに設計し直した艦に対応したプログラムを車載PCに保存しておいた最新版のものを参考に書き加えていく。
全ての艦に共通して、艦橋内部の整理と電子装置、操艦システム、火器管制システムを最新型に刷新。そしてリベットで止められていた装甲は全て完全に溶接する。不用になる空中線は撤去、煙突は底の穴を装甲で塞ぎ、中には90式艦対艦誘導弾もしくは艦対空ミサイルESSMを装填したミサイル発射筒として利用。機関にはついこの間研究所で試作品のデータ収集と改良を終えたばかりの艦船用の熱核反応炉。推進器は同じく試作型の電磁推進器を艦艇用にバージョンアップしたもの前進用を艦尾に、後進用を艦中央から少し艦首よりに設置。メインコンピュータには新開発の量子コンピュータを使用。そして、サイドスラスターと量子通信機を追加する。さらに対空機銃はボフォース40mm機関砲もしくは高性能20mm機関砲に変更し、信濃、島風、明石は新たに高性能20mm機関砲を増設。最後に菊花紋章、軍艦旗を撤去する。
信濃はジェラルド・R・フォード級空母、いずも型護衛艦、クイーン・エリザベス級空母などを参考に近代化して全体的に大幅な改造を施し、水線上の舷側装甲は最上甲板まで延ばす。さらに格納庫は二段にして、設計時に下げられたバルジの上端を元の高さに戻す。まさに太平洋戦争時と最新のアメリカ空母を
艦載機はF-22N、F-35C、E-2D、EA-18G、SH-60Kに加えて艦上戦闘機
武蔵は、まず主砲の口径長を四五口径から五〇口径に延長し、艦橋基部には信濃に設置したものと同等性能のCICを設置。船体は新造時の状態から、第二、第三副砲の代わりに両舷に三基ずつ65口径10cm連装高角砲を取り付け、12.7cm連装高角砲は65口径10cm連装高角砲に変更。さらにジブクレーン、カタパルト、運搬軌条を撤去し、格納庫入口にエレベーターを設置、後部甲板は艦尾の端まで延長し、耐熱処理を施す。
艦載機はSH-60K。もちろん信濃の艦載機と同じ改造を施す。
利根、筑摩は航空巡洋艦としての航空設備の全てを廃して多目的垂直ミサイル発射筒を一九二門搭載させ、武蔵と同じく12.7cm連装高角砲を65口径10cm連装高角砲に変更。
秋月、涼月は61cm四連装魚雷発射管を撤去し、多目的垂直ミサイル発射筒六四門とイージスシステム一式を搭載。撤去した61cm四連装魚雷発射管の代わりに324mm三連装短魚雷発射管を二基設置。
夕雲、岸波、島風は共通部分以外は特に変更はなし。
明石も武蔵や利根型重巡洋艦と同じく、12.7cm連装高角砲を65口径10cm連装高角砲に変更し、最新の工作機械も載せる。
ここまでで五時間強。86はもう腹ペコだ。
十隻全ての艦の再設計を終了し、互いに互いの仕事をチェック。白夜は冥霞のプログラムを、冥霞は白夜の図面を確認する。どちらも問題はなく、全ての作業が終了し、最後にタブレット端末のページの下にある『完了』をタップした。
これで二人の子供たちが詰まった艦隊が完成した。
「「ふ〜。終わった〜」」
二人はそれぞれタブレット端末とノートパソコンを膝の上に乗せたまま後ろ向きに倒れて、仰向けに寝転がった。
白夜の上にあったタブレット端末は役目を終えて虚空に消えていった。
「お疲れ様でした」
先程までどこかへ行っていたクレセリアがどこからともなく現れた。
「これであとは異世界に行くだけになりました。最後にこちらを渡しておきます」
クレセリアは白夜と冥霞にそれぞれ新たに端末を与える。今度は手のひらサイズのスマートフォン型だ。
「こちらを使えば遠く離れた艦と通信などの情報のやり取りができます。充電が切れることはありませんので、存分にお使いください」
「ああ」
「ありがとね」
二人は渡された端末を様々な角度から見てからポケットの中にしまう。それから、さきほどまで使っていた機材をクルマの中に片付けていく。
ちょうど片付けが終わったとき、二人を白い光が包み込む。
「時間のようですね。それではお二人も、ご武運を」
「このまま消される俺らを拾ってくれたんだ。ちゃんと仕事はするよ」
「また会いましょう、セリアちゃん」
そう言って二人は消えていった。
そこに残ったのはクレセリアとオレンジ色の鋼の塊。
「これもあると二人も喜ぶでしょう。送ってあげましょうか」
クレセリアが残された86に優しく触れると、これも光に包まれて消えていった。そしてこの空間に用がなくなったクレセリアもここを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます