第十四章:レッド・アラート/02
「回せ回せ回せ! 急げよテメーら! 慌てず、急いで、正確にだ! 分かったな!?」
アリサとともに基地の地下区画へと駆け降り、更衣室でESP用のパイロット・スーツに手早く着替え。そして二人で向かった先は、やはりYSF‐2/Aの格納庫……赤い薔薇のパーソナル・エンブレムが刻まれた先行量産型一号機、アリサの機体が格納されている場所だった。
そこで、相も変わらぬオレンジ色のツナギ姿な南が、忙しなく行き交う他の整備兵連中に向かって怒鳴り散らしている。普段のおちゃらけた彼からは想像も出来ないほどの覇気と凄みだ。ピリピリと肌が粟立つほどの迫力、確かにチーフ・メカニックを任せられる立場なだけあるらしい。
「南ッ!」
「おお、アリサちゃんか! もう機体に火は入れてある! クロウ隊の連中がさっき上がったところだ!」
「状況は!?」
「いつも通り、インターセプト! 詳しいことは飛んでから要のおっさんかレーアちゃんに直接聞いてくれ!」
「分かったわ!」
手短な状況確認を終え、南の肩を軽く叩いたアリサは、機体の機首に掛けられたラダー(はしご)を駆け昇り、ゴーストの前席へと飛び込んでいく。
「僕も行く……!」
それに続き、翔一も後席に乗り込もうとラダーに足を掛けたが。しかし半ばまで昇ったところで、アリサが「アンタは来なくていい!」と彼に怒鳴った。
「しかしアリサ、今の君を独りにはしておけない!」
「アタシは……アタシはもう二度と、後ろには誰も乗せない! アンタには悪いけれど、それだけは……譲れないの!」
「だが、複座機を一人でなんて無茶だ!」
「今までだってそうしてきた、問題なんて何もない! それに……アンタはまだ、半分素人みたいなモンでしょう!? そんな奴を連れてなんて行けないッ!!」
「それでも……!」
「離れろよあんちゃん! さっさと離れんと、機体にブッ飛ばされっぞ!」
尚も食い下がろうと、アリサと共に行こうとした翔一だったが。しかし背中から南にグイッと引っ張られ、無理矢理にゴーストから離されてしまう。
そうしている内に、アリサの機体は整備兵たちによるアーミング(ミサイルに差してある安全ピンなどを抜き、安全装置を解錠すること)が終わり。尾翼などの動翼を軽く動かして最終チェックを終えると、すぐにエレヴェーターに向かってタキシングを始めてしまう。
「アリサ……!」
たった独りで、独りぼっちで孤独な空に向かおうとする彼女を。死に満ちた戦場へ、綱渡りの空へまた独り向かおうとする彼女を……その黒い翼を。翔一はただ、この場に立ち尽くして見送ることしか出来なかった。
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