第十二章:アリサ・メイヤード/02

 統合軍に入ったアリサは、すぐにメキメキとその頭角を現し始め。ESPパイロットの訓練過程を終えて実戦部隊に配属される頃には、もう彼女の手の中には漆黒の翼があった。亡き父が駆っていたのと同じ翼が、憎き仇敵を滅ぼし尽くす為の黒き翼が。

 ――――YSF‐2/A≪グレイ・ゴースト≫、先行量産型八号機。

 シリアルナンバー、S00‐0107番機。それこそが、彼女が手にした翼だった。

 そんな復讐の為の翼を手に入れると同時に、願ってやまなかった黒翼を手に入れるのと同時に。彼女は、その翼の後席に座る唯一無二の相棒も手に入れていた。

 …………ソフィア・ランチェスター。

 訓練過程の頃から共に過ごしてきた親友だ。階級は……当時は確か、同じ少尉だったと記憶している。

 天真爛漫で活発な性格をしていて、仕草ひとつひとつが可愛らしく見えてしまうような感じの、ソフィアはそんな可憐な女の子だった。ウェーブ掛かったセミロングの髪は焦げ茶色で、瞳は海のように綺麗な蒼色。背丈は一五九センチぐらいだったから、一八五センチの凄まじい長身なアリサと横並びになると、まるで大人と子供のような身長差だったのを今でも覚えている。よくそのことで彼女をからかってやったものだ。

 そんなソフィアだが、能力の方はテレパシーに超感覚の二つのみで、ESPパイロットとしては極々基本的な能力しか有していなかった。

 だが、そのたった二つの能力がかなり高いレベルで、しかもバランス良く纏まっていて。どちらかといえば能力特化型なアリサとは、ソフィアはあらゆる意味で正反対。そういう意味で、アリサを上手く補助してくれる彼女とは良いコンビだった。

 まさに凸凹コンビという奴だ。見た目的にも、性格的にも、そして能力的にも。アリサとソフィアは本当に正反対な二人だったが、だからこそ良いコンビで居られたのかもしれない。実際、ソフィアと組んで≪グレイ・ゴースト≫で実戦に出始めてから……僅か半年も経たない内に、彼女の機体の尾翼には赤い薔薇を模ったパーソナル・エンブレムが施されていたのだ。エースと呼ばれる中にアリサが加え入れられたことを何よりも示す、彼女だけのエンブレムが。

 ソフィアと組んで飛んだ、幾百もの戦場。僅かな期間ではあったが、ソフィアと組んで撃墜した敵の数は余裕で三桁に届くほどだ。それほどまでに、彼女はアリサにとってこれ以上ないほど息の合ったパートナーであり。そして同時に……掛け替えのない戦友で、そしてたった一人の親友だったのだ。今でも胸を張って言える。ソフィア・ランチェスターは確かに、自分にとって最高の親友だったと。

 いつだって、彼女と一緒に飛んできた。いつだって、彼女と同じ空を飛んでいた。いつだって……自分の後ろにはソフィアが居て。どんな時だって、独りぼっちじゃなかった。空の上に居る限り、絶対に独りきりになることなんて無かった。

 死ぬときも多分、ソフィアと一緒なんだろうと、当時のアリサはそう思っていた。それでも構わない、とも。

 だが――――運命というものは時に残酷で、そしてあまりに非情で。二人はある大規模な作戦の最中、共に歩いていたその道を分かつことになってしまう。生と死という二つの道を、アリサ・メイヤードとソフィア・ランチェスターの二人は分かつこととなってしまったのだ…………。

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