第十二章:アリサ・メイヤード/01

 第十二章:アリサ・メイヤード



 アリサ・メイヤードがこの世に生まれ落ちたのは、今から十六年と少し前。合衆国は西海岸の大都市、ロス・アンジェルスが彼女の生まれ故郷であり、そして彼女が幸せな幼少期を過ごした街だった。

 父親譲りの強力なESP能力に、母親譲りの真っ赤な髪と強気な性格。アリサは誰もに祝福されながら生まれ、すくすくと育ち。幼少期の彼女は、それはそれは幸せな家庭で日々を過ごしていたそうだ。

 しかし……三歳の頃に、彼女は母親を亡くしてしまった。

 交通事故だったそうだ。何処にでもある、言い方は悪いがありふれた死因。あまりに幼い頃に死別したからか、アリサの中に母親の記憶はおぼろげにしか残っていない。ただ……強気な性格ながら、誰よりも優しく慈悲に溢れていた、善き母親であったことだけは覚えている。

 その後は父親と……父方の祖父に育てられていた彼女だったが、しかしその父親……マーティン・メイヤードも、今から五年前に死んでしまった。

 戦死だった。彼女の父親はアリサに対し、自分のことを米空軍のパイロットだと偽っていたが……。しかし真実は統合軍の空間戦闘機パイロットであり、同時に数少ない男性ESP能力者でもあったのだ。きっとアリサを巻き込むまいと思い、真実を隠していたのであろう。時として、知らぬ方が良い真実というものもある。

 そんな彼は……当時最新鋭の試作機だった、ESP専用の空間戦闘機。試作型のXSF‐2≪グレイ・ゴースト≫の試作一号機に乗り込み、出撃した先で……撃墜されてしまい。後席に乗せていた相棒共々、生命いのちを落としてしまったそうだ。

 後にその戦いは――――アリサの父親が戦死した戦いは、オホーツク事変と呼ばれるようになる。人類が異星起源の敵性体・レギオンと初めて接触し、そして交戦した事件。その歴史的な大空中戦の中で、彼女の父親は死んでしまったという。

 その残酷すぎる事実を。父が統合軍のESPパイロットであったことと、そして戦死したという事実を……統合軍の高官、当時はまだ准将の階級だった祖父、オーウェン・メイヤードから告げられて。アリサは泣き喚き、数週間は一言も話せないぐらいに絶望していた。父が出撃する少し前、もう二度と逢えなくなる少し前にくれた……古びた金の懐中時計を握り締めながら。暗い部屋の隅でずっと、彼女は泣き続けていた。

 だが、ある時彼女は決意したのだ。自分も、父のような空間戦闘機パイロットになろうと。誰にも負けないパイロットになって、そして……父の仇を、必ず討つと。

 自分に特殊な力があることは、アリサは物心付いた時から知っていた。その能力のことを家族以外の誰にも話しちゃいけないよと、父親から何度も言って聞かされていたことも覚えている。

 だからアリサは、自分の力があれば……この力があれば、父親と同じESPパイロットになれると思ったのだ。同じ能力者である父に出来て、自分に出来ない道理はないから。

 そうしてアリサは、祖父の反対を押し切って統合軍に入った。父と同じ黒翼を駆る為に。五年前、オホーツク海の上空で散っていった、大好きだった父親の仇を……他でもない自分の手で討つ為に。自分から父親を奪っていった、憎きレギオンを……己が手で殺し尽くす為に。

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