第四章:嘘だらけの世界/01

 第四章:嘘だらけの世界



 ――――地球人類が、今まさに異星体からの侵略を受けている。

 此処に来るまでに散々それらしきことを聞かされていて、分かってもいたし覚悟もしていたことだが。しかしイザこうして、ハッキリとした形で聞かされてしまうと……何というか、面食らうというか。どうにも現実味が薄いように感じてしまう。

 が、この場に集まった要や霧子、それにアリサの顔はとても冗談を言っているような感じではなく。今まさに要が放った言葉が紛れもない事実であることを悟れば……翔一は言葉すら出せず、ただただ息を呑むだけだった。

「と言っても、何が何やら分からないとは思う。だから順を追って説明しよう」

 そんな翔一の反応を見つつ、壇上に立つ要はまた口を開き。そして背にしたスクリーンに映るスライドを使いながら、今の状況とそれに至る経緯を……表世界から隠され続けてきた、真なる歴史を翔一に対し説明し始めた。

「といっても……一体どこから説明したものか」

「それこそ、『天の方舟事件』からで良いんじゃないかな?」

 さあ説明しようとしたところで、しかしどこから話したものかと要が唸っていると。すると横から霧子にそう言われるから、要も「まあ、そうだな」と頷き。どうやらその『天の方舟事件』とやらがどういうものか……というところから、目の前に座る翔一に話し始める。

「今から何十年も前……正確に言えば、一九八七年。その年の七月七日のことだ。外宇宙からこの地球に飛来したと思しき正体不明の飛翔体が五つ、地球の各地に落着した」

 それこそSF映画でありがちな始まり方だな、なんて呑気なことを思いつつ、翔一は要の言葉に耳を傾ける。

「五つの飛翔体が落着した場所は合衆国、ソヴィエト連邦……当時はまだギリギリ冷戦だったからな。それにヨーロッパとオーストラリア、そして日本の四国だ。この五ヶ所へ同時に落ちてきた謎の飛翔体の中には、全て同じものが収められていた」

「と……いうと?」

「メッセージだよ」と要は言う。「我々、地球人類に対する警告だ。いずれ我々にとって未知なる脅威が外宇宙からやって来る……という警告が、その飛翔体……いや、もうカプセルと言ってしまった方が良いか。ともかく、それの中には収められていたんだ。『ディーンドライヴ』の基礎となるモノを初めとした、我々の技術体系とはまるで違う、未知のオーヴァー・テクノロジーとともに」

 …………と、いうことらしい。

 今度はまた『ディーンドライヴ』だとか何だとか、聞き覚えのない単語が出てきた。前にアリサが何度か同じワードを呟いていたのを覚えているが……その辺りから察するに、空間戦闘機にまつわる何かしらのテクノロジーだろうか。

「ああ、ここで横から私がひとつ、翔一くんに注釈をするとね。『ディーンドライヴ』というのは、簡単に言ってしまうと重力制御装置のことだよ。SF映画だとよくあるだろう? 普通の人間にも扱える装置なんだけれど、能力を百パーセント引き出す為には……フルスペック・モードで動かす為には、それこそアリサくんや翔一くんのようなESPが必要になる。だからこそ、統合軍は君らのような超能力者を欲しているワケだがね」

 横から首を突っ込み、本人の言った通り注釈をしてくれた霧子曰く、『ディーンドライヴ』というのはそういうものらしい。SF小説だとかで聞き覚えのある名前ではあるが、その辺りはわかりやすさを重視し、敢えて被せた名前なのだろうか。

 何にせよ、霧子のお陰で疑問がひとつ晴れた。翔一は少しだけスッキリした頭で、要の口から告げられる更なる言葉に耳を傾ける。

「…………ともかく、その『天の方舟事件』が切っ掛けで我々人類は外敵の存在を知り、そしてその事件を切っ掛けとして、秘密裏に国連統合軍を結成したのだ」

「もっと言うと、こんなことを世間一般に公表するワケにはいかないからね。だから『天の方舟事件』の直後、主要国家間で秘密協定を結び、結果として表向きには睨み合いつつ、裏ではある程度の範囲で地球人は手を取り合えたというワケさ。

 それにしても……なんだか、皮肉なことじゃあないかな? 共通の敵が出来て初めて、我々はやっとこさ手を取り合うことが出来た……なんてのは」

 くっくっくっ、と皮肉げな引き笑いをしつつ、霧子はそう言って。また説明を続けようとした要を遮りながら、更なる言葉を連ねていく。

「何故、大国同士の表立った戦争が先の大戦以降、第二次世界大戦を境に起こらなくなったのか。どうして東西冷戦がああいう形で終結し、ソヴィエトが崩壊したか。その意味は……聡明な君になら分かるだろう、翔一くん?」

「え、ええ。まあ……何となくは」

「ふふっ、君の思っている通りさ。世間一般、大多数の人間の為にある程度のガス抜きは用意しつつ……真実を知る僅かな人間たちが、人知れず外敵と戦い続けているワケなのさ。泣ける話だろう? 何も知らない衆愚どもがいがみ合う時間を稼ぐ為に、我々がこうして人知れず血を流している……というのはね」

 霧子の言い草は相変わらずの皮肉全開な感じだったが、ともかくそういうことらしい。

 確かに……理屈は理解出来る。納得も出来る。今まさに地球は外宇宙からの侵略を受けていますと公表すれば、それこそ世界中で大混乱が起こることは避けようがないだろう。無意味に不安を煽るだけだ。それこそ『インディペンデンス・デイ』みたくド派手なことが起こっているワケでもなし。隠匿できる範囲に事態が収まっているのならば、そうであるに越したことはない。仮に真実を知ったところで、力を持たぬ大多数の人間にはどうすることも出来ないのだから…………。

「…………折角だから、霧子くんに続き俺からも余談を話させて貰うが。『天の方舟事件』より以前にも、主に合衆国なんかは異星体、或いはそれに近しいものの兆候を捉えていた。一九四七年の七月七日、有名なロズウェル事件がまさにそうだ。あの事件でも……『天の方舟事件』で落着したものとよく似たカプセルを、米軍が秘密裏に回収している」

「そう、だったんですか」

「今もエリア51には、その時に回収したカプセルが保管されているらしい。まあ……以前より兆候はあったが、外敵の存在を我々が明確に認識した切っ掛けは、先に話した『天の方舟事件』からだ。そういう意味で、あの事件から全てが始まったと捉えて貰って大丈夫だろう」

 ロズウェル事件、エリア51。

 まるでオカルト専門雑誌の表紙にデカデカと掲げられている、大袈裟な煽り文句みたいだ。定番というかベタ過ぎて、それこそ笑えてきてしまうぐらいに。

 だが……これは紛れもない現実の出来事なのだ。それを暗に悟れば、翔一には今の話を嘘くさいと笑い飛ばすことなど出来なかった。

「さて、方舟事件に関しての話だけやたら長くなってしまったが、ここからが肝心な本題だ。次に話すことからが、俺が君に話しておきたい部分でな。というのも……我々が戦っている敵に関してのことなんだが」

「敵……」

 息を呑む翔一に「ああ」と要は頷いて、そして目の前の彼に向かってこう告げた。

「我々の敵、異星起源の敵性体――――『レギオン』に関してだ」

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