【15】墜落現場の謎【2】
静かな波の音が聞こえた―――瞼を開けた一同の視界に曇り空が広がった。目覚めれば自宅のベッドの上だった、そんな奇跡を想像してみる。しかし、ここは穏やかな日常とはかけ離れた島。
虚しくなるだけの奇跡を考えないようにした類は、スマートフォンの画面の時間と電波アイコンを確認した。
<圏外 8月1日 火曜日 7:15>
相変わらず圏外。同じ日付。何度見ても日付が変更されることはないので、スマートフォンの画面から波打ち際で拾った鍋に視線を移した。
ずいぶんと雨水が溜まっている……。
一同も類の周囲を取り囲み、訝し気な表情で鍋に溜まった雨水を見つめた。
雨水が溜まるということは雨が降ったという証拠。どうして自分たちは目覚めなかったのか……と全員が同じ疑問をいだく。
居眠りが得意な翔太でさえ、バケツをひっくり返したような雨が降る野外で眠り続けるのは難しい。そしてなぜか、体が濡れていない。
「どうなってるんだ?」髪を触る類は、首を傾げた。「雨が降ったんだから、ふつうはずぶ濡れになるよな」
明彦も自分の髪に触れた。
「ふつうはな。でも濡れてない」
綾香が言った。
「濡れてないのも不思議だけど、みんな一斉に寝起きできるのも不思議だよ。あたし寝つきがいいほうじゃないし、体の疲れはあったとしても、慣れない環境で朝まで爆睡だなんてありえないもん」
結菜が言う。
「この島自体が摩訶不思議なんだから、あたしたちの常識で真剣に考えても埒が明かないと思うよ」
綾香は呟くように言った。
「何もかもがカラクリの謎の一部か……」
「きっと、そのうちはっきりしてくる」コップを手にした結菜は、一同に言った。「飲もうよ」
結菜が言うとおり、考えても埒が明かない。疑問は頭の隅に追いやって喉を潤した。
空腹の類はボストンバッグの中から、アルミ箔に包まれた個包装のチョコレートが入った袋を取り出して開封した。ひとつ、アルミ箔をはずしてみると、チョコレートクリームのように溶けていたので、舌先で掬うように舐めてみた。
「味は変わらない。うまいよ」
純希が類に訊く。
「そこに残ってる飲料も生温いオレンジジュースなんだよな?」
「そうだよ」類は返事する。「でも糖分は必要だから我慢しろよ」
「チョコレートもオレンジジュースもお前にくれてやるから、残りひとつの貴重な椰子の実を俺にちょうだい」
「やだ」
「あ、そうだ」ふと思い出す。「たしか、お茶が一本残っていたはず。それを俺にプレゼントする気ない?」
「ない」と断ったあと、チョコレートの袋を一同に差し出した。「ほら、みんなも食べろよ」
チョコレートをひとつ取った斗真が言った。
「ひとりひとつ。残りは墜落現場に戻るやつが持っていくべきだと思う」
純希は拒否する。
「俺はいらない」
斗真は純希に言う。
「類にもいま言われたじゃん。体力勝負には糖分が大事だぞ」
渋々、返事した純希。
「わかってるよ」
念を押す斗真。
「ちゃんと食えよ」
つぎつぎとチョコレートを手にした。最後に手を伸ばした純希が、嫌々ながらチョコレートを舐めて身震いした。
「強烈。くっそ甘い」
由香里が嬉しそうに微笑んだ。
「甘くて美味しい」
純希は由香里の好みを否定する。
「この鉄臭い味のどこがうまいんだよ。プルーンとかレーズンに近いものがあると思う。ホワイトチョコレートのほうがまだマシだ」
由香里は言った。
「あたしの好きなものが苦手なんだね、純希は」
純希は言った。
「甘いものが好きなやつの味覚が理解できないよ」
チョコレートを舐め終えた斗真は、遠い目をして言う。
「ここがふつうの浜辺なら、朝一に下着姿の女子を目にしてテンションが上がるところだけど、じっさいそれどころじゃないよな……」
類が斗真に返事した。
「たしかにそれどころじゃないな……」
斗真は考える。
きのう女子が下着姿で現れたとき、自分が置かれている状況さえも忘れてしまいそうになるくらい気持ちが高揚した。
綾香と道子が仲直りしたあと、みんなと遊んで、楽しい気分のまま夜を迎えて、眠りに就いた。そして、あっという間に学校の鏡の世界に意識が移動した。
その後、鏡を割る実験を無事に終えたあと、ツアー会社について話し合う。すべてが予定どおり、すんなりいくものだと簡単に考えていた。
それなのに……類が鏡の破片に吸い込まれ……最悪なアクシデントに心底恐怖を感じた。類は、数時間後に無事に戻ってきたが、安堵したのもつかの間だ。魔鏡での体験を聞かされて慄然とした。そして、三十年ものあいだ魔鏡の中に閉じ込められている小夜子の存在が、ひとごとではないような気がして怖かったのだ。
斗真は重苦しいため息をついた。
「無事にこの島から脱出できるんだろうか?」
類は言った。
「だからそのために、意地でもカラクリを解く」
(どうして小夜子はカラクリの答えを教えてくれなかったのか……)
類は、疑問を考えながら海を眺めた。
水平線の向こう側はどうなっているのだろう?
海は宇宙のように渺茫なのだろうか?
だったら流木はどこから来た? 鍋は? コップは? やはり、この島の海と現実世界が繋がっているとしか思えない……。
馬鹿らしいと言われた筏(いかだ)の話。冗談で言ったわけではなく本気で言った。だけれど、この島と現実の世界を繋ぐゲートがあるのは水平線や地平線の先ではない。空だ。
だったらなぜ……生活感のある漂流物が落ちているのか……。
謎の漂流物と、空にあるゲート……。
雲に覆われた空を見上げても、カラクリが解けていない自分には、島から脱出するためのゲートが放つ光は見えない。
小夜子と一緒にいたアメリカ人は、島に隠されたカラクリをどのようして解いたのだろう? 答えを導き出すために必要な具体的なヒントくらい欲しかった。
綾香が類と同じ疑問を口にする。
「あたしたちが必死で探しているゲートは空にある。だけど、漂流物があるっていうことは、海のどこかに忽然とゲートが現れる可能性もあるんじゃない?」
類は青い水平線を眺めた。
「海のどこか……」
綾香は考えを言う。
「小夜子があたしたちと同じ『ネバーランド 海外』のゲームに巻き込まれたのかはわからないけど、類の説明から推理すると、その可能性はじゅうぶんに考えられる。でも、彼女がこの島に迷い込んだのは三十年も前の話。当時とは少し状況がちがうのかもしれない。
漂流物に関して言えば、この海にひとが住んでいる島があるかどうかってことを考えるよりも、空と陸地と海、この三つにもゲートが存在している可能性があることを考えたほうがいいような気がする」
綾香の考えに明彦がうなずく。
「そうだな。仮に俺たちと同じツアー絡みだったとしても、小夜子がこの島に降り立ってから三十年が経過している。なんらかの変化があったとしてもおかしくはない」
類は空と海を見渡す。
「三つのゲートか……」
道子も言った。
「綾香の説も視野に入れて考えたほうがいいかもね。じゃないと鍋は打ち上げられない。雨みたいに空から降ってきた、っていうなら話は別だけど」
空を見上げた斗真がぽつりと言う。
「それこそ、鍋が雨みたいに降ってきて、頭に当たったら即死だよなぁ」
「即死……」と呟いた類は、足元に落ちている貝殻が気になった。どうして貝殻になったのだろうか? 生魚を火に放り込んでも生きているなら、貝殻が落ちているはずがない。疑問を感じた類は貝殻を拾い上げた。
明彦は類に訊く。
「どうしたんだよ? そんなもの拾って」
類は手のひらに載せた貝殻を一同に向けた。
「この貝はなんらかの理由で死んだ。だから貝殻になった。薪にした小枝も、落ち葉も、流木だってそうだ。だけど、生体だけ見て考えると、不死身の島と言っても過言じゃない」
明彦は言った。
「不死身の島……でもじっさいはそうじゃないから貝殻が落ちている。搭乗客は初めから死体だったんじゃないかって、俺も道子と同じように突飛な考え方をしたけど、ちがうだろうな……」
道子が言った。
「それなら乗客のうち、誰かひとりくらい生存者がいてもいいんじゃない?」
翔太が道子に言った。
「もしこれがツアー会社が関係していたとすれば、俺たち全員がゲームの駒なんだよ。つまり、死神が仕掛けたゲームの駒が俺たち十三人なら、ほかの乗客は不要な駒だ。無慈悲な死神なら、なんの躊躇いもなく命を奪うはず。初めから死体が乗っていたわけじゃない」
道子は首を傾げる。
「あたしたちがゲームの駒? そうは思わない」
翔太は意見した。
「だって『ネバーランド 海外』に関係している俺たちだけが生存者なんだから、どう考えたってゲームの駒じゃん」
明彦が言った。
「ツアー会社との関連は別として、小夜子たちのときは操縦士だけが死んだ。ほかの乗客は “不要な駒” と安易に考えるよりも、命を落とす者と助かる者のちがいを考えたほうがいいのかもしれない。
落ち葉や虫の死骸、死んだ乗客たちも、三十年前に死んだ操縦士も、類が手にしてる貝殻も、共通点さえわかれば、これらの異なる謎が見事にひとつの答えに繋がるはずだ。そして……俺たちの年齢が止まってしまった理由もわかるだろう……」
翔太は胸の前で腕を組んで考える。
(命を落とす者と助かる者のちがい……。どう考えても、ほかの乗客が不要な駒だったからとしか思えない……)
類は困った表情を浮かべた。
「きっかけひとつですべての謎が明らかになるって小夜子が言ってたけど、俺には何をきっかけにすれば答えを出せるのか見当もつかない」
「一見、複雑な知恵の輪。何度挑戦してもはずせない。だけど、ふとしたきっかけや発想の転換で意外と簡単にはずせたりする。この島のカラクリも案外そんなところだったりしてな」と言ったあと、明彦は頭を抱えた。「じゃないと俺たちに解けそうにないよ……」
純希が類に訊く。
「なんでもいいから、小夜子はカラクリを解くヒントをくれなかったのかよ? もっと霧が晴れるようなパッとしたヒントを。真実の中にある現実って言われても全然わからないよ」
純希が求めている答えは、類にもわからない。
「ヒントがあったら、とっくにみんなに言ってるよ。私には理解できなかったと言うばかりで、小夜子は何も教えてくれなかったんだ」
純希は言った。
「ケチな女だ」
類は言った。
「そういう問題じゃないだろ」
「小夜子と同じ島に迷い込んだんだ。出口が同じならカラクリの答えも、当然、同じはずなんだ」思い詰めた表情の明彦は、必死に考えた。「どうしたらカラクリを解くきっかけを掴めるんだ……いったい、どうしたら……」
結菜が明彦に言った。
「自分を追い詰めてもカラクリは解けない。焦りが思考を鈍らせるだけ。この状況を知恵の輪にたとえたならなおさらね」
「わかってる、わかってるよ」焦燥に駆られた明彦は、緊張を孕んだ面持ちを類に向けた。「参考までに訊くけど、小夜子とサバイバル生活をともにしたアメリカ人は、どのくらいの期間でカラクリを解いたんだ?」
それは小夜子に訊かなかった。なので、類は小夜子の話から推測する。
「たぶん……一週間前後だと思う」
一同は驚愕する。
明彦は目を見開いた。
「そんな短期間で? ずいぶんと頭脳明晰なやつがいたんだな」
類は言った。
「それこそ、謎を解くきっかけが掴めたんだと思う」
健が少しばかり話を遡る。
「あのさ、ちょっといい? もしもここが不死身の島なら、俺たちは飲まず食わずでも死なない。だけどじっさいは空腹だし喉も渇く。
その辺に落ちてる流木で頭部を強打されたら、ふつうに死ぬかもしれないし、食わなければ餓死するかもしれない。貝殻や虫の死骸が落ちてるってことは、そういうことだろ?」
類は考える。
(不死身なら殺人を犯せない。でも小夜子は殺人を犯して鏡の中に幽閉されてしまったんだ……。頭が混乱するよ……)
小夜子も生体は守られているようだったと言っていた。だけれど、それも曖昧だ。いま考えれば彼女の言うことすべてが曖昧だったような気がした。
小夜子は最後まで “何か” を隠しているようだった。しかし、その “何か” が自分たちの求めているカラクリの答えなのだろう。
「つまり……俺たちは不死身じゃないかもしれないんだよな?」健は続けた。「せいぜい一ヶ月程度でカラクリを解かないと、全員が餓死するかもしれないっていうバッドエンドにビビってるのは俺だけなのか?」
健は、自分なりに考えた島に滞在可能なタイムリミットを口にした。その言葉に、一同はざわめいた。ゲームオーバーの原因は餓死。最悪だ。それは遭難して二日目の朝に不仲だった綾香と道子に、純希が言った兵糧攻めのたとえ。
いまの自分たちは空腹だ。このまま食が絶たれてしまえば体力も失われていく。それとも島の生体のように、十三人はなんらかの力に守られているのか……。それを確かめるためには、誰かが犠牲になる必要がある。
健の疑問に純希が言う。
「餓死するかどうかは、やむを得ず長期滞在コースになった場合すぐにわかることだ。問題は肉体への衝撃だ。誰か代表して俺に頭部を強打されてみないか? 一目瞭然だぜ。生体が守られているなら、いってぇなくそのひとことでピンピンしてるはずだ。もし守られてなかったならくたばるだけ」
健は純希に言う。
「馬鹿なこと言うなよ。できるわけないじゃん、そんなこと」
純希は言った。
「冗談だよ。それができないから俺たちは頭を悩ませているんだから」
健は言った。
「その冗談は笑えないよ」
旅客機の墜落現場に答えがあるなら先に進むべきだ。この場で議論を続けても意味がない。
類は明彦と純希に顔を向けた。
「ここで話し合っても時間の無駄だ。天気も落ち着いてるし、カラクリを解き明かすためにも墜落現場に戻ろう」
明彦が類の意見に賛成した。小夜子たちと一緒にいたアメリカ人は、たった一週間で謎を解いている。滞在が長引けば長引くほど謎解きが難しくなりそうだと感じていた。
「答えは墜落現場にあるんだ。出発したほうがゲートに近づける」
純希も出発に同意する。
「決まりだな。行こうぜ」
そのとき、結菜が三人を引き止めた。
「ちょっと待って、あしたにしたら? きのうはいろいろあって類も疲れたと思うし……」
明彦が結菜に言った。
「この島に長居したくないから焦っているんだ。さっさとカラクリを解いて帰りたい。結菜だってそうだろ?」
結菜は口元に笑みを浮かべた。
「そうだけど、でも綾香がさっき言ったでしょ、その焦りが思考を鈍らせるって。少し楽しむくらいの余裕があったほうがいいと思うの」
明彦は首を横に振った。
「余裕なんかないよ……」
「楽しむ……」類は呟いた。「楽しむか……」
明彦は類に顔を向けた。
「どうした?」
類は考える。
楽しむ、そのような考え頭になかった。
すべての謎が明らかになれば、島からの出口になるゲートを目にすることができる。しかし、肝心なカラクリの答えがわからないのだ。焦って当然だろう。
ゲートを通れずに鏡の世界に取り残された小夜子は死神と化した。人生の末路は死神になると言われて、心底恐怖を感じた。
旅客機が墜落した初日の夜、みんなで笑おうとした。あのときは、こんな状況になるとは考えもしなかった。救助隊が来てくれたら無事に日本に帰れるんだ、そう思えたから笑えたのだ。
だけれど、こんな状況だからこそ、楽しむ気持ちが発想の転換になれば、この島のカラクリを解く近道になるかもしれない。切羽詰まった状態では、何もかもがうまくいかないだろう。
「結菜の言うとおりだな」類は笑みを浮かべた。「焦ってもどうにもならない。いいアイデアなんか浮かばない」
結菜は類に言った。
「そうだよ、頭は柔軟にしておかないと」
類の闘志が漲る。こうなったら謎との闘いだ。これでも高校の偏差値は高い。中学生のころの成績は学年でトップクラスだった。気持ちを切り替えて、空に向かって叫んだ。
「むかつく! 死神ども! この脱出ゲーム受けて立つ!」
突然の類の大声に驚いた一同の顔に笑みが零れた。ムードメーカーの類が現状を楽しむなら賛同しよう。
笑い声を上げた純希が類に続く。
「楽しんでやるぜ! 俺たちはお前らが望んでいるようなデスゲームなんかしない! ざまあみろ!」
「最高の海水浴だ!」頭を抱えていた明彦も気持ちを切り替え、空に向かって叫んだ。「絶対にカラクリを解く! 見てろよ!」
光流が言った。
「思い詰めてるときって、ぜんぜんいい考えが浮かばない。結菜の言うとおりだな」
斗真が返事した。
「言えてる」
綾香が結菜に目をやった。
「やるじゃん。三人がいいかんじになった。類なんていつもどおりだもん」
結菜は笑みを浮かべた。
「なんてゆうか、きょうは行ってほしくなかったから」
明彦と過ごしたいということか、と綾香は理解した。理由はどうであれ、暗くなりがちだったみんなの心に、前向きなやる気と元気を与える結果となった。
「今夜は明彦とゆっくりしなよ」
結菜は照れ笑いした。
「ありがと」
美紅、恵、道子、由香里も微笑みあった。そして、道子が言った。
「頑張ろうね」
美紅が道子に言う。
「あたしたちはここで謎解きの努力をしよう」
道子はうなずく。
「うん」
空に向かって叫んだおかげで心が軽くなったような気がした類は、綾香に顔を向けた。
「俺らはあしたの打ち合わせをするから自由に遊んでろよ」
綾香は返事した。
「わかったよ」
類と明彦と純希は、この場を離れ、ゆっくりと波打ち際を歩いた。一同と距離が離れても、楽しそうな笑い声が聞こえる。結菜のひとことがなければ、笑いが沸き起こることなどなかっただろう。だが三人は、一同の笑い声とは対照的に深刻な表情を浮かべていた。
この島のカラクリをテレビゲームのように楽しもうと決めたので、謎解きに対して深刻になっているわけではない。旅客機の墜落現場の光景を想像して深刻になっていたのだ。光流が同行を断ったのはそれが理由だ。
カラクリの謎が解けたあと、旅客機の墜落現場で答え合わせを済ませて、鏡の世界で伝えればよい。答えを知ったのち、わずかな時間で否応なしにゲートに吸い込まれるなら、惨劇の場に戻るのは自分たち三人だけでじゅうぶんだ。
「超臭いだろうなぁ」類は言う。「肉も腐って溶けてそう」
純希が顔を歪めた。
「やめろ、リアルに想像しちまうだろ」
明彦が言った。
「腐敗して液状化した脳が鼻孔から垂れ落ちてるだろうなぁ」
明彦の言葉で純希の想像がより鮮明になった。
「俺に喧嘩売ってるの?」
明彦は否定する。
「まさか」
類は言った。
「だけどさぁ、考えれば考えるほどわかんないよ、墜落現場に何があるんだろう?」
明彦は言う。
「それを理解するためには墜落現場に辿り着くまでのあいだに、謎解きを進めていかないと。じゃないと、答えを目にしてもピンとこないと思う」
類は真剣な面持ちで返事する。
「だろうな」
純希は空を見上げた。
「カラクリが解ければゲートが見れる。それって、カラクリが解けていない俺たちの目に見えないだけで、つねにゲートが存在するってことだよな? くっそ、絶対にゲートを見てやる」
明彦はふたりに言った。
「みんな揃ってゲートを見たいから言うけど、俺たちは墜落現場から一日かけて、ここに辿り着いた。初日に戻ったときとは距離がちがう。遭難したら大変なことになる。鏡の世界ではみんなに会えるけど、じっさいはジャングルにいるんだ。そのことを忘れるなよ」
「わかってる」類は返事する。「慎重に進んでいこう」
純希は類に言った。
「木に目印をつけて歩けばよかったな。だけど、似たような木ばかり生えているから、たとえ目印をつけたとしても見失うだろうな」
「幸い俺らはまっすぐ歩てきたんだ。記憶を辿れば大丈夫なんじゃない?」
「そうだな、きっと大丈夫」
「なんとかなるよ」
明彦がふたりに微笑んだ。
「お前ららしい考え」
類は言った。
「俺はいつでも自分らしくいたいんだ」
純希がうなずく。
「俺も」
覚悟を決めてあすに臨む三人。体力温存のために焼き魚でも食べれたら嬉しいのに……美味しそうな定食を想像した類のお腹が鳴った。
「早く家に帰って美味しいご飯が食べたいよ」と虚しく呟いた。「腹減ったなぁ」
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