第7話 夜空に花火が咲く頃に
「ねぇ和紗ちゃん、あの射的やってみる?」
「うん、いいと思うよ」
「あ、輪投げの方が簡単かな?」
「うん、いいと思うよ」
「……お好み焼きと焼きそば、どっちの方が好き?」
「うん、いいと思うよ」
「も〜、ちゃんと聞いてよ〜」
「……あ、ごめん」
祭りが始まってから、少し時間が経った頃。和紗は急にスマホの画面とにらめっこしていた。
「どうしたの、和紗ちゃん。そんなにスマホに見入るなんて珍しいね」
「いやぁ……。ほら、明日って雨じゃん?」
「うん」
「だから私は帰った方がいいかなって」
「なんでそうなるの!?」
和紗の意味不明な言動に、私はどうしたらいいのかわからなくなる。
「まぁまぁ、とりあえず何か食べよっか。お好み焼きと焼きそばってどっちが好き?」
「それさっき私が聞いたやつなんだけど!」
ちなみに私は焼きそば派。和紗はお好み焼き派。仲は良くても、好みが意外と合わない2人である。
「よぉし!狙い通り!」
「和紗ちゃん射的うまっ!」
先ほどと同じ質問を和紗に投げかけた私ら、なんとなく欲しいと言った大きめのクマのぬいぐるみをいとも簡単に手に入れてしまった。
「まさか和紗ちゃんにこんな特技があるなんて……」
「へへ〜、まぁね」
「これが身内のお店じゃなかったら格好ついたのにね」
「そのことは言わないで」
今私たちがいる射的屋は地域の老人会が運営しているもので、会長が和紗の祖父なのだ。おそらく和紗が来るということで、少し倒れやすくしたのではないだろうか。その証拠に、和紗の祖父は彼女が景品を倒してはしゃいでるのを見てすごくにこにこしている。
「じゃあ瑞穂ちゃんは、くまさん持ってここにいてね」
「え、和紗ちゃんは?」
「いやぁ、私は邪魔になるだけだから」
「どういうこと??」
「まぁそういうことで、私はあっち行くね!」
「だからどういうことなの!」
全く意味がわからないまま、去っていく和紗の背中を見送った。そして何気なく——本当に何気なく反対方向に目をやった時、全てを理解した。
「全く、余計なお世話だっていつも言ってるのに」
さて、どんな嫌味を言ってやろうか。私の方が立場が上のまま話を進められるはずだ。なにせ被害者なのだから。
「瑞穂、お待たせ」
そんなことを考えながら、彼氏——井副賢吾と向き合った。
******************
「やっぱり無理だよ。君と祭りは回れない」
俺は出会い頭にこう言った。
「勝手に後をつけてきて家に上がるような、そんな危ない人とはあたり関わりたくない」
「……」
「一回構えばいいかと思っていたけど、そういうわけでもなさそうだし」
「それは……」
明日の天気予報は雨らしい。ならば、はやくこれを片付けなきゃいけない。はやく彼女の元に行かなければ。
「何回もこういうことやってるの?」
「……」
「もうやめた方がいいよ。じゃあね」
そう言うなり俺は駆け出した。
******************
「瑞穂、おまたせ」
彼は走ってくるなり、そう言った。ものすごく急いだのだろう、まだ肩で息をしている。
「おまたせ、じゃないでしょう。もっと他に言うことがあるんじゃない?」
「そうだな、ごめん。不安にさせちゃってごめん。心配かけて、ごめん」
「そんなに謝らなくても……」
「うん、ごめん」
人間はどうして謝ることしかできなくなる時があるのだろう、なんて考える。しかし答えなんて出ないまま、私の思考は大きな音で掻き消されることとなる。
「花火だ」
「花火か」
改めて、目の前にある青年を見る。今回のことで色々と思うところはあるが、それでも私の気持ちは揺るがなかった。
「俺の話、聞いてくれるか」
「うん。聞き苦しいものでなければね」
「聞き苦しくさせてしまうかもだけど、俺の本当の気持ちだから」
賢吾には色々あったようけれど、それはまた
「好きだよ」
そう言って私は彼の手をとる。久しぶりに握った彼の手は、いつもと変わらない安心感があった。
「なんだよ、いきなり。……てっきり浮気だーって騒ぐかと思っていたんだけど」
「それは和紗ちゃんでしょう?事情があったみたいだし、思い込みだけでそんなこと言わないよ」
「そっか」
空に浮かぶ花火がとても綺麗だった。そんな花火の壮大な音と豊かな色彩に照らされていると、私たちはうまくやれる気がした。
〜近日公開〜
『夜空に花火が咲く頃に another story』
今回語られなかった
最後に!完結まで時間がかかってしまいました。楽しみにしていてくださった方、本当にありがとうございます!
夜空に花火が咲く頃に 星宮コウキ @Asemu
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