第4話 成就

 やっと見つけた。それは、地元の高校での出来事だった。私は訳あって中学2年までは通信教育だったので、地元の中学に初めて登校したのは中学3年になってから。だから、先輩の存在なんて今まで考えたこともなかった。そしてある日、“先輩”の話になって、見つけたのだ。


「でさでさ〜、この前竹島先輩が来てくれてね」

「竹島……先輩?」

「え、まじで?いいな〜、私も会ってみたかった〜」


 中学に転校してから、残り一年しかないというのに同級生はみんな仲良くしてくれた。正直、一番の不安が交友関係だったのでとても助かっている。


「ねぇ、その“竹島先輩”ってどんな人?あと、下の名前は?」

「あ、そっか。ひかりちゃんは今年きたんだもんね、知らなくて当然か」

「私写真持ってるよ〜、ほら!かっこいいでしょ!まこと先輩って言うの!」


 実は、ので気になっていた。そして、写真を見た途端、私の中で何かが弾けた。


「この人だ……」

「え?」

「光ちゃん?ど、どうしたの?」

「ねぇ、二人とも!」


 どうやら、こんなところで長年の願いが叶うらしい。


「その人、どこの高校か教えて!」



 ******************



「私は、久住くじゅう光といいます。あなたの一つ下の後輩です。そして要件は、竹島先輩あなたのことが好きだということです。私は今日、告白しにきました」


 そして、今に至る。あの二人からは「え、なに?告白しに行くの?」「やめといたほうがいいよ、絶対今も彼女いるもん」なんて言われたが、そんなのは関係ない。……だったら、先ほどのセリフはなんなんだと自分でも思う。先輩だって困ったように沈黙している。そりゃそうだ。見たことのない後輩から、告白されているのだから。


「とりあえず学校の前だとあれなんで、カフェ行きません?」


 私はそう切り出す。そう、こっちが本命。見ず知らずの後輩が急にカフェに行こうといっても、不審に思ったり警戒したりする人がほとんどだろう。だからこその、“とりあえず告白して連れ出す作戦”である。


「あぁ……。わかった」


 なんか周りの視線を気にしているようだったので、思ったよりも簡単になんとか先輩誘い出すことに成功した。









「はぁぁぁ?どういうことだ!?」

「先輩、ここカフェですからもう少し静かにしてください……」

「いや、それにしてもさ……」


 私が先輩と話したかった本当の理由を話すと、彼は叫んだ。まぁ驚くことは予想していたけれど、ここまでとは。


「いや、驚くでしょ!だって、初対面で告白してきた後輩が実の妹なんて!」

「んー、そうですか?」

「そうだよ!」


 そう。私——久住光は、竹島真の実の妹なのである。



 ******************



「お母さんからだいぶ前の写真は見せてもらってたし、“たけしままこと”っていう名前は知ってましたから。久住はお母さんの旧姓です」

「確かに、妹がいるとは聞いてたけどな〜。親父のやつは名前教えてくんないし、会わせてくれないし」

「お母さんもそんなこと言ってました。真に会わせてくれないって」


 私たちの両親は、兄の竹島先輩が一歳になるかならないかなところで離婚した。兄は父親に引き取られ(とても強引に、らしい)、そのあとに私が生まれたのだ。まぁ俗に言う、生き別れた実の兄妹と言うやつである。……もしや小説の主人公になれるのでは、と思ったが思考を踏みとどまる。とにかく、今は先輩の会話に集中しないければ。


「俺らって、本とかの主人公になれそうだな……」

「思考が同じでした!?」

「え、何か言った?」

「あ、いえ、なんでもないです……」

「そういえば」


 今までは共通の話題、すなわち両親のことを話していたのでそれなりに気まずさは紛れていた。しかし、それが終わると話題が凍ることを見据えてだろう。竹島先輩が話を振ってくれた。……といっても、やはり家族のことの話題が限界なのだろうけれど。


「俺のこと『竹島先輩』って呼ぶけれど、真でいいよ。敬語もいらないし。……兄妹なんだから」

「あ、それは……。まぁ初めてあったわけですし、流石にそこまで馴れ馴れしくできないといいますか……」

「ふ〜ん、そっか。母さんはしっかり育ててたんだな」

「お父さんは違うんですか?」

「まぁ、母さんからだいたい聞いてるんじゃない?俺は母さんのこともあまり知らないけれど」

「はい。それなりには」


 家族のことをあまり知らない。そんな事実を話す先輩は、少し寂しそうに見えた。


「親父は賭場と酒とタバコに浸ってたからな。そりゃ早死にもするって」

「それで今は、叔父さん……つまり、お父さんの弟さんの家に」

「あぁ。高校もそうだけど、親父よりは良くしてもらってるよ。感謝しかない」

「そうなんですか」


 一見見ると、とても複雑な家庭かもしれない。それでも、お互いに全力で生きてきた。その結果に出会えたというのなら、平凡な人生としては及第点なのかもしれない。







「あ、あのぉ……」

「ん?どうした……ひ、光」


 ぎこちないが、兄としてちゃんと振る舞おうとしてるのだろう。胸を張り、頑張って私の名前を呼んだ。


「それで、お祭りの件のお返事は……」

「あれ演技じゃなかったの!?」

「べ、別に好きですとは言いましたけれど、付き合ってなんて言ってないですし、お祭りを一緒に回りたいのは本心ですもん!」

「そ、そうなのか……」


 女子からの人気が高いと噂の先輩が顔を赤らめているところを見るのは少し楽しい。まぁ今の私も多少なりとも(ほんの、ほんの少しだけである)顔が赤みを帯びているだろうが。


「じゃあ……一緒に、回るか?」

「は、はいっ。よろしく、お願いします。お、お兄さん……」


 こうして、兄妹の初デートが決まった。初対面の人とこういう話になるのは珍しい、というか絶対にないのでなんか恥ずかしくなってくる。こんな初々しいやりとりはまるで、まるで……。


「なんか、俺たち付き合いたてのカップルみたいだな……」

「思考が同じでした!?」

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