第37話 独立宣言
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アイランズ自治区の主要地域であるニッポンエリア、その中部地方の中心都市ニヤゴにある行政府をアイランズ自治軍第三師団が占拠したという報告がキャプテンのもとに届いたのは、朝日が山の稜線より顔を出してからもう一時間は経った時だった。
悲しいかな、自治政府が保有する『軍』は、軍とは名ばかりのただの治安警察部隊にすぎない。占領に抵抗する側――行政府を守る第一師団もその武装と言えば小火器と装甲車くらいなのだ。その主な任務といえば、民衆が起こすデモの鎮圧が中心であり、一部の特殊部隊がテロ組織に対する制圧能力を持っているくらいである。
一方、未明での奇襲という圧倒的有利な状況であったにもかかわらず、武装蜂起に加勢した第三師団が行政府占領までに数時間かかってしまったのは、占領を目指す側が防衛側以上に貧弱な装備しか持たなかったことと、それ以上に、第一師団の一部が予想以上に激しく抵抗したためであった。
「そうか、第一師団長は説得に応じなかったか」
報告を聞いたキャプテンは、ただ無感情にそうつぶやいた。
「エイジア中枢との繋がりが強かった。逆らおうなんて考えはこれっぽっちも持ってなかったはずだ。ましてやアイランズの独立など、自らの安定した地位を捨てるようなものだからな」
アイランズ自治軍の元軍人であるサガンが、なだめるようにキャプテンにそう声を掛ける。
想定以上に時間がかかってしまった。予想される反撃――エイジアの正規軍の介入はもういつ行われてもおかしくない状況だ。
キャプテンたちが占領したユーメダ基地一帯と行政府のあるニヤゴ間の距離は百キロ以上。連携はとれない。キャプテンたちにはキリカという『最終兵器』がいるが、ニヤゴを占領した第三師団は『ただの人間の集団』でしかないのだ。エイジアが介入すればすぐにでもニヤゴは取り返されてしまう。
「急ぐぞ。通信基地に連絡して、手筈通り進める」
「キャプテン、そんなこと本当にうまくいくのか?」
予め作戦内容を聞いていたとはいえ、サガンはまだその成功には半信半疑であった。
「アイランズを独立させ、エイジアの目をこっちにひきつけ、かつ、手を出せなくさせる方法はこれしかない。俺たちはその為にずっと計画の準備を進めてきた」
「しかし、トゥールン総裁の身を危険にさらすことに」
なおも食い下がろうとするサガンを、キャプテンの毛むくじゃらな太い腕が制止した。
「とっくの昔から、陛下は危険な状況に置かれてんだ、サガン。もう時間がねぇんだよ」
※ ※
平日の朝。本来ならば市民は、それぞれの役割を果たす場所へ行くはずだった。あるものは職場へ、あるものは学校へ、そしてあるものは市場へ。
文明の発展による少子化と幾度かの戦争を経てかつての半数までに人口が減少したニッポンエリアでも、行政の効率化と自然保護の名のもとに、人口の都市集中化が行われた結果、都市部に居住する人間の数はかつてとそう変わらない。
ただ、市民生活の大半は地下都市の中で行われるため、早朝にわざわざ地上へと出てくるものはさほど多くはない。
だから大多数の市民は、地上で行われた戦闘について何も知らないままに、いつも通りの朝の番組を垂れ流していたTVモニターが突如として切り替わり、階級章とそれを覆い隠すほどの勲章ばかりが目に付く軍服を着た初老の男が映し出され、その彼が高らかに演説し出すのをただ唖然として見ていた。
「今、この瞬間、ニッポンはエイジアの支配を離れ、独立国となることを宣言する。憲法を停止し、新憲法制定までの暫定政府を発足させる」
その男――アイランズ自治軍第三師団長サナイ・カタガミがそこで一旦言葉を切る。一拍置いた後、言葉をつづけた。
「なお、この独立に際し、小惑星セレスから連合国家の形成についての提案があったため、我々はその提案を受け入れることとした。独立国家の暫定名称は『ニッポン・セレス連合国』。国家元首はトゥールン・ツェリン陛下、守護となるナイト・ランダーは現在セレスの守護であるルース・メガラインがそのままその任に就く。以上」
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